持っているメモを見て
*お話は2011年春当時に書かれたものです。戦争の終った1945年を始め、
いろいろな「何年前」などの表記が2015年から考えるとおかしな事になって
きてしまうので、ご注意ください。
もう、「読んでいる今は2011年なのよ~」とかいう気持ちで読んでいくのが
bestです。
K駅で降りて、T駅へ向かう電車を確認した。
思ったより遠いんだな。
各駅停車になると、キツイわ・・・。おしりが痛くなっちゃった。
可菜は、やっと入って来た電車に乗り込んだ。
わお。
1両だけの電車なんて、初めて見た。
そういえば、田んぼと山ばっかりの景色が続いて、緑が目に痛いくらいに変わってる。
すごい田舎だ。
山や川もあるって・・・自然だらけじゃん。
どうしよう。すっごいへんぴな田舎だったりして。
いや、T駅は市の中心街のはず。
コンビニもショッピングモールもあるって、萌子さん言ってたもん。
はぁ・・・萌子さんかぁ。
・・・どうやって、仲を取り持てばいいのかなー。
私だって、なんにも萌子さんのこと知らないのに。
私は、まわりをパーッと明るくしてしまうキャラってわけでもないし。
・・・会話が続かなかったらどうしよう。・・・ま、当たってくだけろ!ってやつかな。
うそを教えられても、それ素直に信じちゃってた人だもん・・・いい人だといいな。
でも。
一コだけひっかかってる事があるんだ。
萌子さん、「父の代わりに。母の代わりに。」って、ママに謝ってくれたけど、自分のした事、謝ったわけじゃないんだよなーって。
大人なのに、きちっと謝って、すごいなーって思ってたんだけど、自分の分じゃないのに気がついちゃった。自分の非を認めるのって、恥ずかしいし、謝るの難しいもん、小学生の私だって。
だから、そういうずるさも少し残してる萌子さんの家に、飛び込んでいくのは、勢い!みたいのがいる。
ああ、・・・やっぱし行きたくないなぁ・・・。今さらだけど。
可菜はポケットから、新しく買ってもらった携帯電話を取り出して、アプリソフトのゲームを始めた。
ママとの約束で、オンラインゲーム以外なら、ゲームして遊んでもいいって、お許しが出たのだ。
ソフトしか遊べないけど、ひまつぶしにはなる。
ブロック消しをするうち、だんだん眠くなってきた可菜の手から、携帯がポロリと落ちた。
ふと、目を覚ますと、列車の中が異様に混んでいた。
いつの間に、こんなに人が乗り込んで来たんだろう?
私、眠ってた?
乗り越した!?
空っぽの右手に気づいて、携帯!と、足元やまわりを見回すが、ない!
ない、どころか・・・ひざから落ちたかごみたいな編んだカバンと、ふろしき包みしか、見当らない。
床にまで座り込んで乗っている人、人、人。よく見れば見るほど、違和感みたいなものが、もあもあとふくれあがってくる。
・・・服だ!
みんなが、暗い色の服を着て、胸に名札を縫いつけて・・・テレビで見たことがある。
もんぺ姿の女の人とか、男の人はゲートルとかいうやつを足に巻いてて・・・なんか、兵隊さんみたいなかっこうしてたり・・・防災ずきんみたいの、かぶってる人とか・・・。
うそ。何のロケ?
戦争中のドラマかなんか!?
いつの間に、こんな大がかりな撮影始まっちゃってるの!?
と、窓際の人達が、いっせいに窓を閉め始めた。
なんで?
そういえば、冷房効いてたんじゃ・・・?
ごほっ ごほっ 煙!?
どうなっちゃってるの!?
トンネルに入り、車内が暗くなった。
お、落ち着け、可菜!
私の着ているものは、さっきといっしょ。Tシャツにデニムの短パンだ。
まわりだけ、ごっそり昔風の服装に変わってる。・・・
これは、何かのドッキリとか、テレビ番組のロケだよ。きっと、そうだよ!
私が眠っているうちに、まわりの人をごっそり入れ替えた大がかりなドッキリだよ。
が、トンネルを抜けたとたん、
バババババ・・・・チュン、チュンみたいな、ものすごい音が、駆け抜けていった。
何!?
なに―――っ!?
「危ない! 伏せろ!」
誰かが、つっ立っている私を突き倒して、かぶさるように、乗ってきた。
重い・・・!
キキキキ――ッ・・・と、急ブレーキのかかる音もした。
キャ―・・・キャーという人々の悲鳴。
どこからか、また煙のにおいがしてきた。
窓ガラスが割れている。
伏せていた人達が、動き始める。
「ひどいことするなァ・・・」
「わっ・・・大丈夫ですか!?」
「・・・死んでる。」
「ひどい・・・!」
私の座ってた辺のおばさんが、血を流して床に落ちていた。
ぴくりともしない。
「機銃掃射だよ。」
「逃げ場のない列車をねらうって、本当なんだね。」
「ひきょう者!」と、空に向かって叫ぶ人。
ばたばたと、車掌らしき女の人(!)が走り回り、乗客の誰かと、亡くなった人3人(!)を、運んでゴザみたいな編んだやつを、かけている。
意味がわからない!
ここはいったい、どこなの!?
早く、種明かしの看板持った人、出て来てよ! ・・・なんで終わらないの。
もう十分、びっくりさせられたよ。早く・・・早く終わって・・・!
「お嬢ちゃん、荷物。」
さっき、私の足元に転がっていたカバンとふろしき包みを、渡された。
「こういう事が、いつあるか知れんから、ちゃんと名札はつけとくんだよ。」
私の何もついてない胸を指差して、おじさんが、けしからん。って顔でにらんだ。
テレビじゃないの?
・・・夢でもないの?
戦争してるくらい大昔ってこと?
私・・・どこへ行ったらいいの。こんなもの渡されても・・・何がなんだか。
・・・と。
ふろしき包みからのぞく紙を見つけた。
終点K駅で乗り換え
降りる駅S駅 水谷みね
汽笛を聞いてから
私の持ってたメモとよく似たメモだ。でも違う。
この荷物の持ち主は? ・・・消えちゃった?
私の荷物は?
向こうでは、私が消えちゃった・・・? それって・・・
入れ替わったってこと!?
・・・まさか。
それこそ、テレビの見過ぎ。
飛行機で撃ってきちゃうようなのが普通って時代に、タイムスリップでもした!?
そんなこと、ありえる!?
たった1人で!? どうやって!?
タイムマシンも使ってなくて、そんな事が起きたら、・・・・
どうやって、帰ればいいの・・・・・・?
ぞっとした。
私・・・もとに戻れるの?
2011年―――
和子が、はっと目を覚ますと、ひんやりと快い涼気に包まれていた。
和子は冷房の効いた、清潔な電車の中にいたのだ。
明るい色とりどりの洋服を着た人が、まばらに列車にゆられている。
車掌が歩いてきた。
「あの・・・・」
和子が声をかけると、
「ひえっ」
心底びっくりした形相で、飛び退って和子を見た。
「し・・・失礼いたしました。」
しかし、呼びかけられたにも関わらず、「ああっ 戦時中の亡霊のたぐいかと思った・・・」とかなんとか、
ぶつぶつ言って、行ってしまおうとしている。
と、着うたの鳴り出したピンクの携帯に気づき、拾いあげた。
「お客様の・・・ですか?」
和子はびっくりして、首を振って答えた。
あれは、何だろう。
小さな箱から音が鳴るなんて・・・オルゴールとかいう舶来のもんだろうか。見たことはないけれど。
気がつくと、まばらな乗客が、じろじろと和子の頭の辺りを見るので、
防空ずきんは、この辺じゃかぶらないのだろうか・・・と、恐る恐るはずして、腰のあたりに結わえた。
にぎやかな音楽と、大きな音のアナウンスで、駅に到着した。
S駅・・・・
私の降りる駅・・・・だろうか。
同じS駅と表示はあるものの、見た事もないような木ではない板の看板に書いてあり、なんだか違うような気がして、足をホームに下ろせないで、和子は戸口にたたずんだ。
ピロリロリロリロ・・・・
聞いた事のない音が響きわたり、扉が自動的に閉まるではないか!
和子は、自動扉にはばまれて、車内へ戻された。
汽笛が鳴らない・・・
やはり、この駅じゃないのかしら?
和子は、座っていた座席に戻った。
そういえば、荷物・・・ふろしき包みは? どこに?
さっきの座席には、キラキラと光る細かい石のついた黒とピンクの派手なカバンがあるだけだった。
カバンのポケットからのぞく紙きれに気づいて、のぞき込んでみる。
終点K駅で乗り換え
降りる駅T駅
佐々萌子 12:15
さっぱりわからない。
汽車じゃないような乗り物・・・?
床にいっぱい座っていた人達は!?
列車を、降りた方がいいだろうか。
確かに乗り換えたのに・・・間違えたとか?
K駅に折り返して乗ったら、母さんのいる家へ帰れるだろうか。
窓の外を見てみた。
田んぼと、こんもりした山が点在し、見た事のある景色のように見える。
しかし、あれは・・・?
時々、見慣れない洋風の家々が、連なっては消えていく。
ここ、日本よね?
・・・アメリカが占領してつくった集落ってことは、ないわよね?
アメリカが上陸したなんて、新聞でもラジオでも、聞いた事がないんだもの。
南方の島で、父さんや兄ちゃんが、戦線を死守してくれているはず。
そうこう考えているうちにも、カタカナの看板や背の高い建物が、通り過ぎていく。
「あのっ・・・・」
車掌をつかまえてから、敵国だとしたら・・・という考えが頭をよぎった。
何かを尋ねたり、私の身に起こっている不可思議なことがらについて、しゃべってはいけないのでは・・・? と、思った。
「T駅というのは・・・あの、あとどれくらいですか。」
とっさに、質問を変えた。
「12時15分着の予定ですから、あと・・・9分くらいですかね。」
12時15分・・・
あわてて、もう一度メモを見てみる。
佐々萌子 12:15 ・・・・書きつけてある通りだ。
とにかく、この萌子さんという人に会えば、わかるかしら。
何がいったい、どうなっているのか。が。
「ありがとうございました。」
和子は、めいいっぱいの不安で、窓の外をじっと見つめていた。・・・
つづく




