第五十四話 届かない祈り'18
「護ってくださる方たちの実力を知りたいなあ」
何気ない玻璃先輩の一言が、天城家の矜持を傷つけたのか、
「では、お手合わせにて。言葉では伝えきれない想いも、木刀を交えれば、届くものです」
青嵐お爺さまが俄然やる気となり、日本人VS天城家のお手合わせが、急遽始まりました。
やだ、前世も今生も、あたしの周囲って脳筋ばかりじゃないの。
良い見世物になると思ったのか、優陽さま以下、赤城国の重鎮たちは、リラックスして観戦モードに移行。
青嵐お爺さまと男山パイセンによる一回戦目は、青嵐お爺さまの貫禄勝ちに終わったけれども。
玻璃先輩と泉母上による二回戦目は、なかなかの接戦に。
二振りの木刀を、まるで手足の延長のように自在に振るう玻璃先輩を相手に、流石の泉母上も攻めあぐねている様子。
二刀流の扶桑武士って、あんまりいないものね。
玻璃先輩の持ち味は、鉄壁の防戦からの電撃的なカウンターにあるので、カウンターに気をつけてって声援を送りたいところだけど、なんで知ってるのかとツッコまれると困るので、黙って見守るあたし。
やがて予想通り、玻璃先輩の木刀が、泉母上の木刀を蛇のように巻き取って跳ね上げて、空いた泉母上の胴へと目掛けて振るわれたもう一振りの木刀を、泉母上は待ち構えたかのようなタイミングで肘打ちにより撃ち落とす。
虚を衝かれた、玻璃先輩の脳天への振り下ろしを寸止したところで、玻璃先輩は、どこか嬉しそうに、参りましたと降参を宣言する。
玻璃先輩って、試合で負ければ負けるほど、闘志を燃やすタイプで、再戦のたびに強くなって、最後は勝ち抜くことで世界一になったんだよねえ。
男山パイセンも似たタイプだし、お似合いだよね。
三回戦目は、前世のあたしが、あたしをご指名。
「昨夜の戦いぶりが見事だった。是非、お手合わせ願いたい」
って前世のあたしはヤル気満々なんですけど、かつての自分との試合ってやりにくいなあ。
高雄流知ってることを隠し通しながら、真剣勝負なんて出来るのかしら、と迷ってる間に、青嵐お爺さまは、
「是非、胸をお借りしたく」
と快諾してしまい。
前世のあたしに、借りるような大きさの胸なんてないんだけどなあと、自虐めいたことを考えてることはおくびにも出さないで、あたしも背筋を伸ばして立ち上がることで応えた。
そして、時間と世界を超越した対戦へ。
高雄流の呼吸と運足は、知り尽くしているあたしに対し、前世のあたしは体格差で今のあたしに勝る。
幼児と中学生とでは、手足の長さも身長もまるで違うものね。
ちょうどよいハンデかも!
木刀が心地よい音とともに交錯するたびに、あたしのテンションも上がっていく。
前世のあたしが、小手打ちと突きを得意とすることは、よくわかっているので、体格差は技量と経験差で補うことで、十分互角に打ち合える!
木刀が交錯するたびに、互いの戦意が燃え上がっていくのが、わかりあえる!
前世のあたしって、こんなに強かったのかしら!
亜音速で縦横無尽にピョコピョコと飛び回るあたしに対し、前世のあたしは必死に食いついてくる!
ヤバッ!
楽しい、楽しい!
木刀が奏でる軽快な打撃音が気持ちいい!
漲る、滾る、燃え上がる!
気持ちよさが、ウナギ登り!
あたし、どうにかなってしまいそう!
ってところで、粗相をしてしまったのか、下穿きが冷たく濡れて、最高に気持ちよくなったかわりに、濡れた不快感を感じたときに、隙きができてしまった!
ボゴッとイイ音がして、眼の前で火花が散ってしまったところで、あたしは気絶してしまった。
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逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい!
「天城朔の、益荒男振りに! 乾杯!」
「乾杯!(×乾杯!)」
逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい!
「流石! 鬼青嵐の孫息子! 立合いで男になるとは! 天晴な益荒男振り!」
「これからの成長が楽しみな、益荒男振りですな!」
逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい!
「どうした、朔。皆が、お前の精通を祝ってくださているのだ。温かいうちに、青飯を食べてしまいなさい」
この世界では、初潮を赤飯で祝うだけでなく、精通を青いご飯で祝う習わしがあり。
あたしの目の前には、こんもりとお茶碗に盛られた、ホカホカと湯気を立てる青いご飯、青いご飯がああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい!
「朔、おめでとう。これで、立派な男の子になったわね。もう一緒にお風呂に入れなくなって残念だわ」
「朝陽さま、ありがとうございます。これからは、姉弟仲良く、水入らずでお風呂に入ることとします」
「あら、暁ってば、ちょっと妬けちゃうかも」
「朔にはいつも、先を越されるな。おめでとう」
朝陽さまと、陽月さまからお祝いのお言葉を賜っても、嬉しくないです……。
選りに選って、衆人環視の前で!
赤城国のお偉方が集まっている城内で!
みんなが見てる前で、粗相をしてしまうなんて!
こんな生き恥晒して、どんな顔をして生きていけばよいのか!
逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい逃げてしまいたい!
「見事な益荒男振りだった。言いそびれていたが、昨夜の助太刀、感謝している」
梓さん、感謝はともかく、そんな褒め方しないで!
「朔ってば、臭くて気持ちが悪いわね。これからは、あんまり馴れ馴れしくしないでくれる? ホント、男の子ってサイテー」
「紅葉ったら、お友達にそんなこと言っちゃ駄目でしょ? それに、わたしも男の子なんだよ?」
「凪さまは良いのです。臭くないから」
冷たい紅葉ちゃんを宥める凪くんを苦笑いしながら見守る葵くんの姿が、涙で滲んで見える……。
I can fly!
I can fly!
I can fly!
そうよ、あたしは飛べるんだから!
Fly Me To The Moon! と歌わんばかりに、【月光の翼】を展開しようと、心に満月を観想しようとするあたし。
あれ?
観えない!
月が観えない!
祝詞を何度諳んじても、満月を観想できず、神通力を使う時の感触が来ない!
まさか、あたしってば、神通力を使えなくなっちゃった?!




