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第二話 こんにちわ、赤ちゃん

 「じゃあ、あんたのことは駄天使って呼ぶことにするわ。いいわね!」


 【邪気眼じゃきがん】なんて名乗るバカは、駄天使で十分でしょ!

 なのに露骨にそっぽを向く、駄天使。

 あたしの顔で、ふくれっ面するの止めてほしいんですけど。


 「ちょっと、その態度は何なのよ! こっちを向きなさいよ!」


 詰め寄ってひっぱたいてやりたいけれど、駄天使に触れていいものかしら?

 今度は、後ろを向いてしまった!

 本当にムカつく奴ね!


 竹刀を持って立ち上がり、間髪入れずに後頭部目掛け、上段から振り下ろす!

 確かな手ごたえと共に、バシン! と気持ちの良い音がしたのに、駄天使は動じることなく後ろを向いたまま。


 「……あんた、痛くないわけ? おもいっきり叩いてやったんだけど」


 「竹刀なんかが、ボクに通用するわけないだろ! 【邪気眼じゃきがん】って呼んでくれなかったら、もう助けてあげないし、話もしてあげないよーだ!」


 あたしの姿で子供っぽくすねるのは、止めてほしいんですけど。

 ちっとも可愛くないといいますか、正直キモイ。

 でも、コイツに無視されたままなのは、来世? の事を考えると不味いかもしれない。

 深くため息をはいてから、妥協することにした。


 「ったく! わかったわよ。あんたのことは、【邪気眼じゃきがん】って呼んであげるから、すねるの止めなさいよ」


 駄天使改め、【邪気眼じゃきがん】は、こちらを向くと微笑んで見せる。

 あたしと同じ顔をしてることだけのことはあり、笑顔がカワイイと自画自賛してみる。


 「では改めて、コンゴトモヨロシク。……おや、そろそろかな」


 【邪気眼じゃきがん】が意味深な発言をしたのと同時に、あたしが何かとつながったのが分かった!


 とてつもなく大きな何かと、小さな何か。

 ――何故かしら?

 すごく安心できる。


 『子宮は一つの宇宙。そして、宇宙はつながっている』


 ひびくかあさんの言葉を頭の中で反芻はんすうしながら、お腹を撫でさすってみる。


 「キミの異世界での母親が、キミを妊娠したようだね。……ふむふむ、これは興味深いねえ」


 嬉しそうに好奇心に満ちた眼差しを、あたしのお腹に向ける【邪気眼じゃきがん】。

 堕天使のくせに、こんな子供みたいな表情もするんだ。


 「あたしのお腹をガン見するだけで、何かわかったことがあるの?」


 【邪気眼じゃきがん】は、無邪気な笑顔をあたしに見せながら頷いてみせる。


 「堕天使になる前の、ボクのお仕事は魂ウォッチング。今でも魂についてボクより詳しい存在は、あまりいないよ~」


 魂ウォッチングねえ。

 無料で説明してくれる雰囲気なので、視線で話の続きを促す。


 「キミの魂は、異世界における胎児の中にある。もっともまだ妊娠したばかりだから、思考できる程、頭脳は成長していないけれどね」


 思考できる頭脳がないと言われても。

 あたしは、こうして【邪気眼じゃきがん】と会話してるんですけど。


 「ここはキミの魂が見ている夢の中だから、肉体を失っていても、こうしてボクと会話できるのさ」


 イマイチ何を言ってるのかよく分からないけれど、わかりませんと答えるのは腹立たしいので、スルーすることにしよう。


 【邪気眼じゃきがん】は立ち上がると、三面鏡に歩み寄り、私に手招きして見せる。


 「こっちにおいでよ。面白いものが見えるよ」


 邪気眼に言われるまま、三面鏡の前に立つ。

 ……何これ、三面鏡を覗きこむと、宇宙が見える!

 青い星の周りを、ゆっくりとした速度で周回する黄金色に淡く輝く……これはこの星の衛星なのかしら?

 ……でも、衛星が光を放つのはおかしいわね。

 太陽光を反射しているようには見えない。

 かと言って、恒星ほど強く輝いているわけでもなく。


 そして、黄金の衛星から流星のように、無数の光のあみのようなものが伸びて青い星へと降り注いでいる。

 ……よく見てみると、青い星からも、黄金の衛星へと光のあみのようなものが伸びているわね。

 往復してるのかしら?


 「この星の人間の魂は、死後は月にかえり、新しい命の魂は月から星へとかえるようだね。キミは何か大きな存在との繋がりを認識しただろ? あれは、キミが月と繋がったんだよ」


 黄金色に淡く輝く衛星が、この世界の月で、魂がうんぬんということは、あの青い星が異世界なのかしら?

 あの星は、青く見えるってことは海があるようね。

 よく見ると、大陸や島らしく見えるものもある。


 「あの青い星が、キミの新天地となるようだね。環境は、地球とあまり変わらないようだけれど、星に根づく無数の生命体は、大きく違うようだね」


 「この星には、人類の文明社会は存在するの? 未開の地で、原始人みたいな生活は、あたしにはムリよ」


 「日本に例えると、戦国時代から江戸時代あたりの文明社会が存在するみたいだよ。ただし異世界だから、色々と日本とは違うんだけどね」


 上機嫌で解説を続けてくれる、【邪気眼じゃきがん】。

 代償は後払いだよ、とか言い出さないかしら?


 「そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫だよ~。現地調査への協力に必要な知識は、タダで教えるよ。何も教えずに、行き当たりばったりだと、あっけなくキミが死んでしまうかもしれないしね」


 さらっと、とんでもない発言をする【邪気眼じゃきがん】。

 呆気なく、死んでしまう?

 穏やかじゃないわね。


 「キミが前世で会得した古流武術は、役に立つかもしれないけれど、魔術っぽい技術とか、怪物みたいなデンジャラスなものがある異世界では、それだけじゃ不安だろ?」


 高雄たかお家は、南北朝時代からの家系図が存在する、古式ゆかしい元・武家。


 現代にも、高雄たかお流古武術を継承している。

 あたしも、おじいさまといずみかあさんから、みっちりしごかれて、それなりに強いのよ。

 単なる乗馬だけでなく、騎射きしゃまで出来るJCは希少な存在かもね。

 ただし、おじいさまにも、いずみかあさんにも全く歯が立たないんだけど。


 でも、急に協力的になった【邪気眼じゃきがん】は、どこかうさん臭い雰囲気がするわね。


 「そんな目でにらまないで欲しいなあ。特別に、無償でこの世界の言語と魔術をキミに教えてあげるからさあ」


 この世界の言語と魔術?

 【邪気眼じゃきがん】は何でそんなものを、あたしに教えられるレベルで把握してるのかしら?

 あたしの表情に疑念が現れていたのだろう。

 【邪気眼じゃきがん】は苦笑しながら答える。


 「ボクはそれなりに有名な堕天使なんだよ? この程度のことなら簡単だよ。見直したかい?」


 有名な堕天使だったから、あたしも彼女の名前を知っていたのかしら?

 オカルトっぽい知識はあまりなかったはずなんだけどなあ。


 「では、何時もの様に【月輪観がちりんかん】をやってみてくれたまへ」


 【月輪観がちりんかん】?

 はじめて耳にする言葉だし、そんなのやったことないんですけど。


 「キミは、子供のころから、心の中に満月を観想かんそうできるようになっただろ? あれは本来、密教の瞑想法めいそうほうなんだよ。【阿字観あじかん】と伝えられる密教の行法ぎょうほう。これには四段階あってキミが会得しているのは、第三段階の【月輪観がちりんかん】だよ」


 仏教、それも密教について語る堕天使?

 怪しすぎるんですけど。


 「ボクは堕天使だから、密教ついては教えない。大切なことはただ一つ。キミの心は常に月と共にあり、己が心に満月を観想かんそうしてる時が、キミが本領発揮できる瞬間だ。ほら、何時もの様にやってみなよ」


 押し問答するのは無駄っぽいので、大人しく自分の心の中に満月を観想かんそうする。

 ……あれ?

 何時もの月じゃない!

 あの黄金の月がえる!


 「キミはこれからは異世界の人間として生きていく事になるからね。える月は、地球のそれではなく、この世界に月になる」


 何時の間にか、あたしの目前まで【邪気眼じゃきがん】が近づいていて、あたしの眉間みけんに人差し指を当てると。

 膨大ぼうだいな知識が、とんでもない勢いであたしの中に注ぎ込まれていくのがわかる。

 頭がパンクしてしまいそう!

 思わず、頭を抱えてうずくまってしまう。


 しばらくガマンしていると、頭痛は治まったけれど、なんだか落ち着かない。


 「一通りキミの魂に知識を与えたよ。取りあえず、初歩的な文字の読み取りと発声の練習をしてみよう」


 【邪気眼じゃきがん】は、あたしの頭痛など全く気にする素振りを見せずに話を進めてしまう。


 「ほら、もう大丈夫だろ。この紙に書かれた文字を、音読おんどくしてくれたまへ」


 スカートについたホコリを手で払ってから立ち上がり、【邪気眼じゃきがん】から紙を受け取る。


 はじめて目にする文字なのに、意味も読み方も、なぜかわかってしまう!

 これは、漢字に似た表意文字と、ひらがなとカタカナに似た表音文字を組み合わせた文章なんだ。

 文法も日本語とほとんど一緒なのね。

 たどたどしく、文字を読み上げてみる。


 「キモイんだよ、この変態豚。臭い息を吐きかけるな。グーパンチでブッ飛ばして、呼吸を止めてやろうか」


 ……なに、この変な文章。

 紙から目を離して、【邪気眼じゃきがん】に視線を向けると、彼女はアブナイ表情を浮かべている。


 「いいねえ、痺れるねえ」


 本当にキモイわね。

 また、頭が痛くなってきたわ。

 お願いだから、あたしそっくりな姿で、変態的な言動は止めてちょうだい!


 「では、次はこの紙に書かれた文章を音読してみよう! 今度は応用でちょっと難しいかもね」


 ツッコむのも何だかバカバカしいので、大人しく紙を受け取り、また音読する。


 「もう、我慢できないわ。あたしのことをメチャメチャにして」


 「わかったよ! さくちゃーん!」


 ルパンダイブしてくる【邪気眼じゃきがん】に、足で跳ねあげた竹刀を振るい、頸動脈けいどうみゃくを狙ってぶん殴る。


 やはり、竹刀の打撃は通用しないのか、【邪気眼じゃきがん】は平然としている。


 「あはははっ! 冗談だから真に受けないでよ。さくちゃんは面白いなあ」


 あたしは不愉快なだけなんですけど。

 ……あれ、また眩暈めまいがしてきた。

 それに、何だか、すごくねむい。


 「では、さくちゃん、おやすみなさい。次に会う時は、キミが産まれた後かな。じゃ、またねん」


 武芸の鍛錬に明け暮れる、汗臭い青春を過ごしたのよね。

 せめて、転生するなら、甘酸っぱい恋愛をしてみたいなあ。

 邪気眼じゃきがんの能天気な声を聴きながら、あたしの意識は落ちてしまった。







 気が付くと、見知らぬ天井が見える。

 木造家屋の天井なのかしら?

 ヒノキによく似た、樹の香りがするわね。


 「あら、さくちゃん、目が覚めたのかしら」


 聞き覚えがある声と共に、あたしの前に現れた女性の顔は……。

 い、いずみかあさん?


 着ている衣服は、全く見覚えが無いデザインだけれど。

 顔も!

 声も!

 若い頃のいずみかあさんにそっくり!

 濡れたように艶やかな黒髪。

 うりざね顔に涼しげな眼差し。

 耳触りのよいソプラノボイス。

 ……どこから、どー見ても、いずみかあさんにしか見えない!


 「あなた~、さくちゃんが起きたみたいよ。こっちに来て」


 いずみかあさんによく似た女性が、誰かに声をかけているけれど、思うように首が回らない。


 「こんにちわ、さくちゃん。私が君のお母さんだよ」


 そう名乗りながら現れたのは。

 若い頃のひびくかあさんにそっくり!

 ゴージャスな金髪。

 笑顔の口元から垣間見える八重歯。

 落ち着いたアルトボイス。

 ……どこから、どー見ても、ひびくかあさんにしか見えない!


 「そして、私が貴女あなたのお父さんですよ。女の子は父親に似るって本当なのかもしれないわね。目元は私に似てるような気がするわ」


 ……まさか、母娘そろって、異世界に転生してしまったのかしら?

 ……そして、いずみかあさんによく似た女性が『お父さん』ですって?

 何がどうなってるのかしら?

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