表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰がタメにサク、百合と薔薇  作者: 石橋凛
幼年学校編
18/78

第十五話 男子会?

 「こうして落ち着いた時間を過ごせるのも、さくのおかげだな。礼を言うぞ」


 硬い口調とはとは裏腹うらはらに、柔らかく微笑む陽月ようげつさま。


 幼年学校の放課後。

 あたしたちは、気心が知れたメンバーで集まり、おやつを食べている。

 陽月ようげつさまは、甘いものがお好き。

 それも、高級品ではなく、庶民的な、おだんごやおまんじゅうなど。

 赤城あかぎ城ではそんなものは食べられないし、お立場上、買い食いも出来ないので、幼年学校に近くに、隠れ家的なお屋敷をあかつき姉上が用意したのだ。


 ちなみに、借家ではなく、あたし名義のお屋敷。

 資産運用をあかつき姉上と五十鈴いすずちゃんに任せていたら、あたしの貯金は金貨三千枚を超えてしまったのよね。

 日本円に換算すると、だいたい三億円ぐらい。

 五十鈴いすずちゃんは、転生をくり返してるだけあって、どこに投資したら儲かるのか「覚えている」とか。

 カンニングしてるみたいだけど、将来のために個人的に動かせる軍資金は必要だと説得されてしまい。

 あかつき姉上としても、隠れ家とするなら、借家より持ち家が良いと。

 確かに、借家では大家さんから情報がれそうだし、そもそも五歳児に家を貸してくれる大家さんがいるのかどうか分からないのよね。


 「僕たちまでお邪魔して良かったのかな?」


 「良いに決まってるじゃねえか。俺たちはマブダチなんだからよ」


 初めての隠れ家に、落ち着かない様子の秋月あきづきあおいくんと、対照的にずうずうしい球磨くま


 球磨くまは、代々冒険者を続けている猫族のオス。

 この世界の猫は、先住の民として扱われていて、人間の言葉を話すのよ!

 

 猫族と言っても、地球の猫とは随分と姿が違って。

 耳がない代わりに、巻きひげのような触角しょっかくがあって、肩から伸びる二本の触手が、すごく器用。

 体毛は、一族全てが真っ黒。

 子猫の間は、地球の猫並みの小ささなんだけど、成長するとトラのように大きくなるんだとか。


 猫族なのに、球磨くまと名乗る彼は、持ち前の図々しさから、幼年学校における、陽月ようげつさまの最初の友人になったのよね。

 

 先住の民には、猫獣人がいて、彼らの耳は地球の猫そっくりなのに、どうして猫族は地球の猫と姿が違うのかしら?


 あおいくんは、代々神職の家系。

 あたしが寄付してる神社があおいくんの家なので、陽月ようげつさまと神社に通ううちに親しくなり、幼年学校に入ってからも友達づきあいをしている。


 青い髪を短いお下げにしており、一見するとボーイッシュな女の子に見えるけど、立派な男の子。

 球磨くまが、悪ガキに追いかけられて困っているのを見かけて、追い払ったことがあり、球磨くまとも仲が良い。


 実際のところ、球磨くまは子猫サイズでも、獰猛な実力を備えており。

 子供相手では手加減できずに、困っていたみたいなんだけど。

 実際に見せてもらったけど、猫パンチで壁に穴をあけてしまう馬鹿力。

 ここに集まったメンバーで一番強いのは、球磨くまなのよね。


 ……あかつき姉上に怒られたので、穴が開いた壁は、あたしが神通力で直しました。


 「他の子供たちも、私にもっと気楽に声をかけてくれると良いのだがな。子供の頃から家柄を気にしても仕方があるまいに」


 陽月ようげつさまは、ため息と一緒にこぼすけれど。

 持つ者と、持たざる者の違いを理解するには、陽月ようげつさまもまだ幼いみたい。

 赤城あかぎ家のご威光いこうには、自分の両親が恐縮してしまうのだから、子供たちもなかなかフレンドリーにはなれないわよね。


 猫族の球磨くまは、身分差なんて気にしない。

 彼らにとってのステータスは、強いかどうかなので、球磨くまは、まだ幼い陽月ようげつさまの兄貴分になったつもりでいるのが面白い。

 陽月ようげつさまも、自分を子分扱いする球磨くまの言動が新鮮で、楽しいんだとか。


 「あおいが勧めてくれた、このみたらし団子は美味しいな。これからも頼りにしているぞ。また美味しいお菓子を探してくれ」


 陽月ようげつさまのお褒めの言葉に、恥ずかしそうに、はにかんでみせるあおいくん。

 偉そうな態度をとっていても、陽月ようげつさまに撫でられると、ゴロゴロと喉をならして喜ぶ球磨くま


 いいわあ、この空間。

 おやつを食べながら語り合い、猫を愛でる男の子たち。

 ……あかつき姉上と一緒に居ると、オンナの戦いに巻き込まれるので、あたしも彼らと一緒の時間が、一番落ちつくのよね。


 「腹ごしらえも済んだことだし、そろそろ今日の復習と、明日の予習を始めようぜ」


 球磨くまは、器用に触手を動かして、自分の背負い袋から、教科書を取り出す。

 この世界にも、印刷技術はあるんだけれど、印刷された書物はまだまだ高価で。

 それよりも、学問の神の神通力で『写した』書物の方が安価に普及しているのよね。


 シャープペンシルなんて存在しないので、書き取りが必要な時は筆を使っている。

 あたしとあおい君が協力して、墨で汚れないように机の上を片付け始める。


 「今日は算数の勉強から始めよう。九九というものは便利だな。覚えてしまえば、掛け算がここまで分かりやすくなるとはな」


 陽月ようげつさまが驚いている九九は、日向ひゅうが博士がこの世界に普及させたものなので、あの変態を学問の神様と同一視する人たちもいるらしい。

 色々ツッコミどころがあるんだけど、めんどーなのでスルーしている。


 あおい君には双子の妹がいて、彼女がここを嗅ぎ付けてくると、ややこしい話になりそうだなあ。

 時間の問題かもしれないけど、今はこの穏やかな時間を楽しみたい。

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ