プロローグ:呪われし犬たちの晩餐
#犬神家の崩壊 #狂愛の神経結合 #アンウィーヴィング #ダークロマンス #サイコスリラー #近親相姦 #胸糞展開注意 #純愛と狂気 #グロ注意 #救いなどない
「この物語には、非常に残酷な描写や近親相姦、凄惨な暴力表現が含まれています。苦手な方は閲覧をご遠慮ください。」
(POV:九頭竜 巧 ――壊された使用人)
高級住宅街・松濤は、いつも同じ匂いがする。
手入れの行き届いた庭園から漂う湿った土の香りと、鼻を突くような「富」の傲慢な気配。
犬神邸を外界から隔てる高さ三メートルのコンクリート壁の向こう側で、真夜中に響く不気味な蠢きは、近隣住民にとって「ただの風の音」に過ぎない。
この地においては、慇懃無礼こそが最も致死性の高い毒なのだ。
私は、淡い光に照らされた食堂の隅に音もなく佇んでいる。
私の役目は単純だ。この家の静寂を乱すあらゆる「不純物」を、誰にも気づかれぬよう処理すること。
食卓には、「完璧」という名の怪物たちが傲慢に腰づけていた。
犬神寛二郎は、退屈した神のような表情で赤ワインを啜っている。その隣では、静香様が口角を微かに吊り上げていた。彼女の透き通るような白い肌は、高価なオイルの輝きを纏い、どこか人間離れした美しさを放っている。
そして、彼らがいる。
世界から称賛される天才、江戸様は、新しい恋人である上塚詩織の手を握っている。詩織は、自分がどのような狂気の深淵へ迷い込んだかも知らずに、無垢に微笑んでいた。
しかし、テーブルの影で、私は見てしまった。自室にいるはずの朱里様――まるで精巧な陶器人形のような少女――の視線が、異様なまでの執着を帯びて江戸様へと向けられているのを。
朱里様の瞳は、豪奢な料理など見てはいない。彼女は獲物を解体するような鋭い視線で、詩織を凝視していた。
「我らの血筋は特別なのだ、江戸」
寛二郎様の重厚で威厳に満ちた声が響く。「外の汚れた血に、これ以上我々の領域を侵させるな」
江戸様は薄く微笑むだけだった。彼は詩織の額に愛おしげに口づけを落としたが、その瞳の奥には、部外者には決して理解できない底知れぬ闇が潜んでいた。
私は深く頭を垂れる。言葉を奪われた私の喉が、疼くように痛む。
この家において、愛とは感情ではない。それは、相手を完全に支配しようとする強迫観念だ。互いの境界が消失するまで、肉体ごと縛り付けようとする悍ましき執着。
今夜、遠くに見える東京タワーは血のように赤く染まっている。
地下からは、何かを拒絶するような重苦しい呻きが響き始めた。
分かっている。この檻に足を踏み入れた者は、二度と人間の姿で外に出ることはない。
犬神邸へようこそ。ここでは、影たちが静かに饗宴を始めるのだ。




