第二百六十九話:【蓄積の譲渡:サキモリの選択】
第二百六十九話:【蓄積の譲渡:サキモリの選択】
マヨとの戦闘を経て、サキモリのレベルは二十に到達していた。
蓄積されたスキルポイントをどう割り振るべきか、サキモリが思考の海に沈もうとしたその時、マヨが子供のようにその手を引いた。
「ポイントが足りないなら、レベルを上げればいいじゃないか。さぁ、こちらへ」
連れて行かれたのは、先ほどの巨大なダンジョンコアの前だった。
マヨは自らの右手を水晶に当て、空いた左手でサキモリの手を導き、同じようにコアへと触れさせる。
「魔力を操作して、余剰経験値の譲渡を行うよ。実はボク、九千九百九十九レベルに到達したのは百二十年ほど前でねぇ。それからずっと、使い道のない経験値が溜まりっぱなしだったんだ」
マヨが瞳を閉じると、ダンジョンコアが激しく共鳴を始めた。
膨大な、それこそ気が遠くなるほどの年月をかけて蓄積された「経験」の奔流が、コアを変換器としてサキモリの身体へと流れ込んでいく。
サキモリの身体が銀色の光に包まれ、静かな、しかし重厚なレベルアップの音が絶え間なく脳内に響き渡る。
光が収まった時、ステータスに表示された数値は「二百」に書き換わっていた。
「……おぉ、これは。自力で積み上げたものではないので、若干の素直に喜べない心境ですが……」
サキモリは眉をひそめ、なんとも言えない微妙な表情を浮かべる。
その潔癖なまでの合理性に、マヨは呆れたように肩を揺らした。
「いやいや、君の必要経験値はどうなっているんだい? ボクの余剰分なら、普通は九百九十九レベルになっても余るくらいあったんだよ? まさか二百止まりとはねぇ……君という『構造』は、底が深すぎるよ」
マヨは驚きを隠せない様子で息を吐くと、気を取り直したように空中に指を走らせた。
「何はともあれ、どういったスキルを取得するのか楽しみだねぇ。どういう方向性でいきたいんだい?」
マヨが魔法で投影した映像には、「武器」「魔法」「生産」「常時発動」といった膨大なスキルツリーが階層ごとに整理され、光り輝いていた。
「武器スキルは、武器の召喚と格納が可能になるのですね。また、回復術もぜひ欲しいと思っています」
「ふむふむ、君の得意な武器が自由に持ち歩けたら便利だし、君が一番生存率が高いから回復術は役に立ちそうだね。他には?」
「常時発動スキルですね。体力、筋力、スタミナ、魔力、自然回復力。どれも増強できるなら、戦術の幅が広がります」
サキモリの要望を聞き、マヨは「むぅ」と唸って顔をしかめた。
「それらは確かに効果が分かりやすいけど、いわゆるビギナートラップだよ。効果は熟練度十で〇・一%。つまり熟練度を百まで上げても一%しか上がらないんだよ?」
「もちろん、分かっています」
サキモリは事もなげに頷いた。
「ですが、マヨさんはスキル自体のレベルを上げることで、熟練度の上限を上げられるとおっしゃっていました。調合、加工、槍、回復術、そして体力、筋力、スタミナ、魔力、自然回復。この九つのスキルをレベル十に上げても、消費は九十ポイント。まだ百ポイント以上温存できます。半分以上残しておけば不測の事態にも対応できますし、今必要性を感じるのはこれだけです」
「サキモリ、君は直接スキルを取得して強くなるんじゃなくて、スキルを育てるタイプなのかな。人気のある熱耐性や毒耐性、強力な攻撃魔法とかじゃないんだね。変な人だなぁ、君は」
「熱くても我慢できますし、毒は排出すればいいだけです」
サキモリは淡々と、しかし断固として自身の「構造」を説明する。
「炎や氷を効率的に運用する知識はありませんし、防御は自分でできます。できない防御を魔法に頼れるほど、魔法の知識がまだありませんから」
迷いのない、しかしどこか楽しげなサキモリの様子に、三本目のポーションをちびちびと飲みながらマヨも笑った。
「サキモリは堅実だなぁ。勇者っぽくないけど、非常に君らしいよ」




