第二百三十五話:【鉄則の徹底:線路の先にある未来】
第二百三十五話:【鉄則の徹底:線路の先にある未来】
聖都の東門。
そこには、これまでとは比較にならないほど長大な編成を整えた蒸気機関車が鎮座していた。サキモリが100トンに達した調合ストレージから取り出したのは、数百人分の食料や燃料だけではない。それは、膨大な量の「鉄のレール」と「枕木」の山だった。
走る工場:自動敷設の構造
「レールの工事を待つのではなく、走りながら道を造ります」
サキモリはそう告げると、機関車の最前方に特製の「敷設用プラットフォーム」を展開した。
これまでの練習通り、エレンが先行して爆裂矢で地盤を砕き、アリサの「トールハンマー」がそれを一瞬で固め、ルミナの風が乾燥させる。そしてサキモリの加工スキルにより、ストレージ内の鉄鋼資材が、地面に設置される瞬間に「レール」の形へと成形され、自動で打ち込まれていく仕組みだ。
「にゃっ! 置くそばから列車が来るにゃ! あたしの手が追いつかないにゃ!」
ミャオはレールの接合部を固定するため、列車の直前を神速で駆け抜ける。時速数十キロで迫りくる巨大な鉄の塊から逃げ切りながら、一ミリの狂いもなく道を繋いでいく姿は、騎士たちの目に「神業」として映った。
そのまま東門までのレールが、魔法のような速度で敷設されていく。
ルミナの警告とメイの覚悟
この圧倒的な「移動する建設現場」を横目に、見送りに来た聖女シェーレと宰相メイに対し、ルミナが真剣な表情を向けた。
「メイ、サキモリが言った通り、レールの配備を急ぐのはいいけれど、安全管理だけは徹底してね。あの鉄の馬は、生き物には止まれないの。走り出せば、軌道上のすべてを飲み込む暴力になるわ」
その言葉の重みを、メイは震動する大地から肌で感じ取っていた。
「ええ、重々承知しています。警告文の掲示と、線路内への立ち入りを防ぐ柵の設置は、最優先事項として徹底させます。この『道』は国の繁栄だけでなく、一歩間違えれば悲劇を生む刃にもなり得る……その責任、確かに預かりましたわ」
メイは冷静に頷き、聖都から各都市へ伸びる鉄道網の管理体制を整えるべく、部下たちに矢継ぎ早に指示を飛ばした。
東方の影
サキモリは機関車の運転台に立ち、静かに宣言した。
「文明の血管を、今度は東へ伸ばしましょう。生命の源である塩、そして海の豊穣を手に入れるために」
長大な汽笛が咆哮を上げ、鉄の馬が「まだ存在しない道」へと力強く踏み出す。
その頃、目的地である東の海岸。
静かな水面に、巨大な「触手」のような影がうごめき、打ち捨てられた廃船を音もなく海中へと引きずり込んでいた。サキモリのストレージに眠る「蒸気バリスタ」がその牙を剥く日は、そう遠くない。




