第百九十九話:【再出発の朝:王女の脱皮】
第百九十九話:【再出発の朝:王女の脱皮】
滞在最終日の朝。
王都バルバロイの正門前には、別れを惜しむ厳粛さと、新たな門出を祝う温かな空気が満ちていた。門前には獣人王グレンと、国を守護する獣人五将軍が居並び、旅立つ一行を静かに見送るために集結している。
グレン王は一歩前へ出ると、愛娘であるミャオの肩にその大きな掌を置いた。
「ミャオ、王女としての責務は一旦、この王都へ置いておけ。今の貴様は一人の弟子、一人の武人だ。あの男の隣で、この世界の広さをその目に焼き付けてこい」
それは、親としての情愛と、いつか成長して国を背負う「目」を育てるための、静かな背中押しであった。
ミャオは、王女としての華美な装飾を脱ぎ捨てていた。代わりに彼女を包むのは、サキモリから与えられた、防刃・耐魔法性に優れた機能的な旅装束。
彼女は自身の新しい姿を噛みしめるように深く頷き、力強く父を見上げた。
「わかってるニャ、父上。あたしは今、姫である前に一人の弟子としてサキモリの背中を追うニャ。でも……絶対に無事に、もっと強くなって、いつかこの国に帰ってくるニャ。その時は、あたしが皆を支える立派な姫になってみせるニャ!」
その一途な約束に、五将軍たちは無言で拳を胸に当て、未来の女王への敬意を示して道を開ける。
ミャオの瞳には、かつての傲慢さは消え、遠い帰還の日を見据えた確かな光が宿っていた。
サキモリは、その親子のやり取りを淡々と観測し、手帳に最後の一筆を加えた。
「……では、行きましょうか」
サキモリの短い合図で、五人の足取りが再び動き出す。
王都の巨大な門を抜け、荒野へと伸びる道を進む彼らの背中は、朝日に長く伸びていた。
振り返れば、背後に広がる獣人国と四ヶ国連合の領土。
しかし、それらを合わせても、いまだ世界のわずか一割以下に過ぎない。
地平線の先には、世界の二割を統べ、圧倒的な戦力と文明を誇る超大国――大帝国クリスタからの招待状が、彼らの到着を待っている。
いつか戻るべき場所を背に、世界を構成する真の「構造」に触れるための旅は、ここからさらなる広がりを見せようとしていた。
(第二百話へ続く)




