第百九十二話:【金剛の洗礼:絶対防御の構造】
第百九十二話:【金剛の洗礼:絶対防御の構造】
「サキモリ、あたしに攻撃方法も教えるニャ! 避けるだけじゃ勝てないニャ!」
連日の回避訓練でボロボロになりながらも、ミャオは不屈の闘志で食い下がった。
その様子を見ていたアリサが、重厚な鎧を鳴らしながら歩み寄る。
「ならば、私の修行に付き合ってくれないだろうか。サキモリ殿、いかがでしょう」
「いいですよ。上達の確認にも最適です」
サキモリが静かに頷くと、ミャオも「攻撃なら任せるニャ!」と拳を鳴らして乗り気になった。
「ルールは簡単です。アリサにダメージを与えてください。まずはミャオさんからどうぞ」
「さぁ! 私を攻撃するがいい!」
アリサが盾を構えず、あえて無防備に見える立ち姿で待ち構える。
ミャオは「遠慮しないニャ!」と、獣人特有の瞬発力で鋭い正拳突きを叩き込んだ。
――ガキンッ!
金属が激突するような高い音と共に、ミャオの拳が空中で弾かれた。
アリサの体には触れてすらいない。
「な、なんだニャ今の!? 見えない壁があるのかニャ!?」
アリサの特技は、あらゆる衝撃を遮断する概念盾『アイギス』。
しかし、巨大な防壁を常に展開していては味方の攻撃まで妨害してしまう。
そこで彼女が現在修行しているのが、手のひら程度にまで圧縮した盾を、相手の攻撃軌道に合わせて瞬時に展開・回収する『アサルトバリア形態』であった。
ミャオは次々と攻撃を繰り出す。
上段回し蹴り、鋭い爪による連撃、サキモリから教わったばかりの体重移動を乗せた一撃。
しかし、そのすべてがアリサの眼前に現れる極小の「光の盾」によって完璧に防がれる。
アリサの巨体は壁にならず、ただ彼女がいるだけで敵の攻撃が「構造的」に無力化されていく。
「くっ、この、このニャッ! あたしの攻撃が、掠りもしないニャ……!」
だんだんとミャオの手足が痛み始めた。
目の前に標的がいるのに、文字通り手も足も出ない絶望感。
涙目で、より速く、より強く、サキモリから学んだ体術を総動員して挑むが、攻撃が強ければ強いほど、硬質な概念盾を叩いた反動が自分の肉体を苛む。
半べそをかきながら拳を振るう彼女の姿に、アリサが少し申し訳なさそうな顔をした。
「……そろそろサキモリ殿も攻撃したらどうだろう? ミャオ殿も限界のようだ」
「そうですね。アリサ、ミャオさんを頼みますよ」
サキモリが愛槍を手に取り、静かに間合いを計る。
「どういう意味にゃ?」
と首をかしげるミャオをよそに、アリサは表情を一変させた。
「はあああああっ!」
アリサが姿勢を一段低く落とし、気合と共に概念盾を全力で正面に展開する。
同時に、傍らにいたミャオをも強固な光の壁で包み込んだ。
対するサキモリは、槍を片手に全力投擲の構えを取る。
その全身から放たれる威圧感は、もはや一個人のそれではない。
「いきますよ」
「さぁ、こい!」
放たれたのは、駆逐艦を一撃で大破させる威力を秘めたサキモリの全力投擲。
大型爆撃機の一トン爆弾や四十ミリ機関砲をも超える質量兵器のような一撃が、アリサの正面へと直撃した。
ドォォォォォォォンッ!!
天地を揺るがすような爆音。
「みゃああああああああっ!」
というミャオの悲鳴が、凄まじい爆風にかき消される。
土煙が晴れた後、そこには異様な光景が広がっていた。
サキモリの槍が通過した軌道、そして衝撃が拡散した周囲一帯の地面は数メートルにわたってえぐれ、消滅している。
まるで巨大な隕石が落ちたかのような荒野。
その中心で、アリサの概念盾だけが黄金の輝きを失わずに屹立していた。
「……より強固に、より足場も維持できるようになりましたね」
サキモリが感心したようにうなづく。
「まだまだだ。サキモリ殿の一撃で、三センチも下がってしまった……」
アリサは悔しそうに盾を下ろしたが、その言葉にミャオは完全に放心状態となった。
自分の周囲以外、文字通り「地面まで消えてしまった」破壊の爪痕。
それを受けてなお、無傷で三センチの後退を悔やむ騎士。
そして、それを「上達」と評する青年。
「……あたしの常識……返してほしいニャ……」
崩れ去る世界の定義を前に、ミャオはえぐれた大地をただ呆然と見つめることしかできなかった。
(第百九十三話へ続く)




