第百八十二話:【王の器:第一王子の覚醒】
第百八十二話:【王の器:第一王子の覚醒】
最後に残った第一王子カイルは、肩で息をしながらも再び剣を構え、サキモリを真っ直ぐに見据えた。
サキモリはその瞳の奥にある責任感と焦燥を読み解き、これまでの将軍たちへの技術指導とは一線を画す、統治者としての「武の構造」を説き始める。
「カイル殿下。あなたは個人の武を極めようとしていますが、真にこの国を背負う王の武とは、戦場という巨大な構造を掌握し、最適化する『調和』の力です」
サキモリはカイルの剣を最小限の動きでいなしながら、流れるような動作で彼を翻弄し、その視界を強制的に広げさせていく。
「まずは自分自身の身を護ることを最低限の基盤とし、その上で戦場全体を俯瞰してください。それぞれの将軍の長所をどこで活かし、どの欠陥を誰に任せるべきか。相手をより深く知ることで、勝機を逃さず、危険を未然に防ぐのです」
戦いの中、サキモリはカイルを誘導し、他の四人の将軍たちとの連携を即興で組み直させていく。
サキモリが放つ「死角からの脅威」を、カイルが察知し、的確な指示を飛ばす。
それに応じる将軍たちの動きが、サキモリの教えを経て劇的に噛み合い始めた。
「戦場を常に有利にコントロールする。それができて初めて、あなたは真にこの国の盾になれるはずですよ」
サキモリの導きによって完成しつつある連携の美しさを、カイルと将軍たちは肌で実感していた。
自分たちがいつの間にかサキモリを「教官」と呼び、心から教えを請うている事実に気づき、カイルは思わず苦笑した。
もはやここにあるのは演習戦などではない。
未熟な彼らを高みへと導くための、静謐で峻烈な「聖域の教室」であった。
「……教官。もう一度、ご指導をお願いします」
カイルの声に合わせ、獣人国最強を誇る五人が、一人の「教官」に対し、敗北への屈辱ではなく、新たな地平を見せられたことへの深い敬意を込めて、深々と頭を下げた。




