第百六十二話:【英雄の変質:再会の違和感】
第百六十二話:【英雄の変質:再会の違和感】
バルバロイの最上階、盟約連合の幹部たちが集う会議室は、かつての勝利を祝う熱気とは無縁の、奇妙な静謐に支配されていた。
サキモリたち四人が入室した瞬間、出迎えようと立ち上がった幹部たちの動きが止まる。
彼らが目にしたのは、死闘を乗り越えた達成感に浸る勇者ではなく、ただ淡々と、世界の「構造」を整理し終えたかのような、底知れぬ静かな瞳だった。
サキモリの瞳の奥には「人間を超越した何か」が宿っており、かつての支援者たちは、祝杯の言葉を口にすることすら躊躇うほどの絶望的な距離感を感じていた。
その違和感は、傍らに控える三人の少女たちの変貌によって、より決定的なものとなる。
ルミナは、かつての献身を超え、触れる者すべてを救済し、同時に拒絶するような聖母のごとき慈愛を湛えている。
エレンの身から漏れ出す魔力の圧は、精密な破壊の理を具現化し、空間そのものを震わせていた。
そしてアリサは、ただそこに立つだけで、いかなる軍勢の進軍も許さない「鉄壁の概念」そのものへと昇華していた。
味方であるはずの幹部たちが抱いたのは、安堵ではなく「畏怖」である。
サキモリが静かに口を開き、聖域での出来事を「記録」として報告する間、誰もが呼吸を忘れ、ただその言葉を飲み込むことしかできなかった。
彼らはもはや、自分たちが支援し、利用し、あるいは賞賛してきた「勇者」という枠組みには収まらない存在へと変質していた。
サキモリが淡々と報告を終えようとした、その時だった。
重厚な扉が、外交を担当する文官と、先ほどの顔を強張らせた伝令によって乱暴に開け放たれる。
秩序だった沈黙が破られ、会議室に新たな「激動」の予兆が流れ込んだ。




