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勇者召喚、ヤバいのが混じってた。 ~近代兵器と戦い抜いた男は、異世界で慈愛を振るう~  作者: 風水
第四幕・第五章 第二部:【竜の暇つぶし:個の限界】

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第百四十四話:【竜の嘲笑】

第百四十四話:【竜の嘲笑】


砕け散った超高密度合金の破片が、スローモーションのように視界を舞う。


サキモリが二十年の戦場と研鑽で積み上げてきた「最強の武器」の論理は、竜の皮膚一枚に届くことなく、無慈悲な物理法則の前に瓦解した。


古龍ニドヘグの眼に、冷ややかな色が宿る。


それは怒りでも賞賛でもない。


ただの羽虫が、分不相応な針を持ち出してきたことに対する、至極淡白な「排除」の意思だった。


――スゥ、と。


竜が僅かに、空気を吸い込む。


それは攻撃ですらない、ただの「溜息」の予備動作に過ぎなかった。


だが、山そのものである巨躯が吸い込む大気は、聖域の気圧を急変させ、周囲に猛烈な乱気流を引き起こす。


それだけで、サキモリの肋骨は悲鳴を上げ、全身の毛穴から警告の血が滲み出す。


(……来る。これは、凌げない)


直感。


思考を介さぬ「死」の予報。


次の瞬間、竜の喉から吐き出されたのは、光輝くブレスですらなく、ただの「呼気」を音速まで加速させた空気の塊だった。


「――ッ!!」


衝突まで、コンマ零数秒。


サキモリは、これまで自分を支えてきたあらゆる「論理」と「演算」を、その瞬間に放棄した。


目を見開き、ただ己の肉体を完全な「無」へと委ねる。


二十年の武人としての極致――極限の「脱力」。


ドォォォォオオンッ!!


大気が爆ぜる。


直撃の瞬間、サキモリは己の重心を消失させた。


衝撃に「抗う」のではなく、衝撃と「一体化」する。


物理的な破壊エネルギーを自身の肉体で受け止めず、すべてを後方へと透過させ、その反動を利用して自ら弾丸のように後方へ「吹き飛ぶ」道を選んだ。


「――ごふ、っ……!」


数百度もの大気の摩擦、衝撃波による圧搾。


サキモリは地べたを数百メートルも転がり、岩を砕き、雪を赤く染め上げながらようやく止まった。


内臓は悲鳴を上げ、視界の半分は暗転している。


だが、彼は生きている。


衝撃を殺し、透過させたことで、即死という結末だけは、神の理の隙間を縫って回避してみせた。


「……は、ぁ……っ、げほっ……!」


ボロボロになり、もはや「勇者」の面影など微塵もない惨めな姿。


それでもサキモリは、震える腕で大地を押し、再び立ち上がった。


血に濡れた顔を上げ、古龍を見据える。


その瞬間、ニドヘグの巨大な眼が、僅かに細められた。


物理的な強度ではなく、その「技術ワザ」によって、自らの吐息を生存へと変換してみせた矮小な生物。


竜の深淵のような瞳に、初めて「変化」という名の小さな波紋が広がる。


だが、それも一瞬のことだった。


ニドヘグは、まるで興味を失ったかのように、サキモリからゆっくりと視線を外した。


それは「不合格」を告げる、静かな、そして最も残酷な拒絶。


竜にとって、一〇%の出力で立ち上がることすら奇跡であるサキモリは、もはや「遊び相手」の価値すら失った存在ゴミに過ぎなかった。


(第百四十五話へ続く)

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