表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者召喚、ヤバいのが混じってた。 ~近代兵器と戦い抜いた男は、異世界で慈愛を振るう~  作者: 風水
第四幕・第五章:【竜の聖域編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
135/145

第百三十六話:【零下の進軍】

第百三十六話:【零下の進軍】


精霊の森の緑が途絶えた瞬間、世界は白銀の暴力へと塗り替えられた。


一歩。たった一歩の境界線を越えただけで、気温は数十度も急落し、大気は鋭利な刃物と化した雪礫ゆきつぶてとなって一行を襲う。


「……ッ、これは……ただの嵐ではありませんわ! 魔力そのものが凍りついている……!」


エレンの悲鳴が風の咆哮に掻き消される。


視界は数メートル先すら判別不能なホワイトアウト。立ち止まれば、数秒で体温を奪われ「死」という名の彫像へと変えられるだろう。


「総員、連結リンクを維持してください。これより極地進軍に移行します」


サキモリの声は、この極寒の中でも凍りつくことなく、淡々と、機械的なまでの冷静さを保っていた。


「ルミナ先生、魔力熱量サーマルの管理を。私の前方へ熱源を集中させてください。エレンさんは私の筋力出力を三割底上げ(ブースト)。アリサ殿はアイギスを全方位に展開、風圧を完全に殺してください」


サキモリが先頭に立ち、膝まで埋まる雪原に手を突き立てる。


彼はただ雪をかき分けているのではない。


エレンから供給される魔力を腕力へと変換し、積もった雪を猛烈な勢いで掘削。その際、雪と腕の間で生じる莫大な摩擦エネルギーと運動エネルギーを、ルミナの制御によって「熱」へと変換し、自分たちの周囲に滞留させていた。


「雪を掘る」という単純な生存活動を、物理学的な熱交換と出力管理の工程プロセスへと作り変える。


二十年の夜戦、極地での隠密行動で培ったサキモリのサバイバル論理が、魔法という非日常を「効率的な生存システム」へと最適化していく。


「一人が止まれば、熱循環が途絶え全員が凍死します。私の足跡だけをなぞってください」


アリサが盾の波動で風を裂き、エレンが魔力を注ぎ込み、ルミナが熱の分布を調整する。


四人が一つの熱力学的な閉鎖系サイクルとなり、絶望的な白銀の壁を穿ち続けていく。


一歩でも歩調が狂えば崩壊する、極限の連結進軍。


「ハァ……ハァ……サキモリ様、まだ……上がありますの……?」


「ええ。標高が上がるほど、環境変数はより残酷になります」


どれほどの時間が経過したか。


感覚が麻痺し、時間という概念すら吹雪に削り取られた頃。


ようやく一キロほどの距離を走破したところで、先頭を往くサキモリの足が止まった。


「……これは、自然の造形ではありませんね」


サキモリが顔を上げ、手にした魔力灯で前方を照らす。


そこには、雪山ではありえない光景が広がっていた。


眼前にそびえ立つのは、不自然なほど急勾配で、天を突くように高く積み上がった凍てつく雪原の傾斜。


滑らかな鏡面のように凍りついたその「垂直に近い壁」は、登る者を拒絶する巨大な拒絶の意志そのものだった。


(第百三十七話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ