表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コードネーム・ファントムの新たな日常2~少女と名画、そして英国の魔女~  作者: 桜瀬ひな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/55

ファントム、保護者になる7

「……やっぱり、何かあるのね」


 警戒心たっぷりなユキの声に、陣内は苦みを混ぜた笑みを見せた。


「そう警戒しなさんな。お前にとっては悪くない話だ」


「それを決めるのは私だわ」


 はっきりとそう言い切る彼女を見て、マスターが「ほっほっほっ」と笑う。


「えぇ、ユキくん、君の言う通りです。ですが、それを判断するにもまずは聞かないと」


 そう言われ、ユキも納得したのかストンと席に座り、「で、なに?」と聞く姿勢を見せた。


「これは佐伯長官からの提案だ。神崎ユキ、学校へ通わないか?」


「……学校?」


 オウムのように聞き返すユキに、陣内は「そうだ」と頷いた。


「とはいえ、一般の学校は警護の面からさすがに無理だ。こちらが用意した私立の中学でいいのなら、という条件付きにはなる」


 学校。それはユキにとってまだ一度も踏み入れたことのない場所だ。勿論、それがこの世界に存在しているのは知っている。けれど、彼女にとってそこはこれまで必要のない場所だったから。


「……何を、学ぶの? 見た目はこれだけど、これでも20歳なのよ? そんな10代の子供と一緒に何をしろって? いっそ、どっかのラボにでも行けと言われた方が──」


「学校は、何も勉強するだけの場所ではありません。友人を作ったり、作れなくても人とのかかわり方を学べる場所でもあるのですよ」


 陣内の代わりに、マスターがそう言って彼女の前にカフェオレボウルを静かに置いた。


「……友人、ですか」


 マスターの言葉を繰り返すユキの瞳には、まだ戸惑いの色が浮かんでいる。


「ええ。もちろん、無理に、とは言いません。ですが、ユキくん。あなたは、もう誰かの『道具』ではない。これからは、あなた自身の意志で、世界と関わっていくのです。その最初の練習の場として、学校という場所は決して悪くはないと、私は思いますよ」


 マスターの穏やかな、それでいて諭すような言葉。


「……練習……」


「そうだよ、ユキちゃん!」


 それまで黙って話を聞いていた玲奈が、ぱっと、顔を輝かせてユキの前で笑う。


「学校ってね、すっごく楽しいよ! くだらないことで友達と笑ったり、美味しいランチを食べたり、たまには退屈な授業で居眠りしたり! それ全部が勉強なんだって!」


 玲奈のあまりにも楽しそうな言葉に、ユキは戸惑いながらも少しだけ、その世界を想像してみる。 友達と笑う自分。 ランチを食べる自分。 居眠りをする自分。 そのどれもが今まで、一度も想像したことすらなかった自分自身の姿だった。


「居眠りはダメです、玲奈」


「え? あ! 例えよ、例え!」


 玲奈は誤魔化すように笑うが、ユキは黙って目の前に置かれたカフェオレの、温かい湯気を見つめていた。


「これがその学校のパンフレットだ。制服などの必要品は、こちらで用意する。明日、回答を聞きにくる。それまでに決めてくれ」


 その言葉を残して、陣内はセグレトを後にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ