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31話 救世主

「どういうこと? 弾切れじゃなかったの?」


 千夏さんは信じられない様な顔で尋ねる。


「誰がそう言いましたか? 実はまだ1枚だけ残っていたんです」


 私は少しだけ得意気な表情で答えた。


「戦いはマジックと同じです。いかに相手を騙すかで勝負が決まるんです!」


「そういう事ね……まんまと騙されたわ」


 千夏さんは諦めた様な……でも悔しそうな表情で誉めてくれた。


「優奈ちゃんのハートのカードはとても強力です。だけどその力は()()()()()()()()()()()()()()()。そうですよね?」


「えぇ、そうよ。よく戦いの最中に気付いたわね……完敗よ」


 千夏さんは深くため息をついて両手を上げる。でもこれは私だけの勝利では無い。紗央里(さおり)さんの力がなかったら絶対に勝てなかった。


 最後の衝突する瞬間、もし手元にハートのカードが残っていたら、相打ちでも回復されて私が負けていた。


「凶源の闇を止めるんでしょ? 行きなさい」


「はい!」


 私は剣をしまうと、空に浮かぶ闇を見上げた。さっきよりも大きく見える。あまり時間はなさそうだ。早くしないと……






「恵、危ない!」


 空を見上げていると、突然千夏さんに突き飛ばされた。


「痛たた……何するんですか」


 腰を摩りながら文句を言おうとしたが、その先が出てこなかった。それもそのはず……


「えっ、嘘でしょ……!?」


 いつの間にか千夏さんが闇の鎖で拘束されていた。


「あ〜あ、惜しいな〜 どうして邪魔をすんだい?」


 路地裏から男性の声が聞こえてくる。顔を見なくても分かる。こんな事をするのはあいつしかいない。


「勝!」


 千夏さんが懸命に体を動かすが、闇の鎖はびくともしない。勝は千夏さんの元に近づくと、いきなり頬を叩いた。


 パシーンっと乾いた音が響く。千夏さんの顔は痛々しそうに赤く腫れ上がった。


「使えない奴だな。君は用済みだ!」


 千夏さんはギロリと鋭い目で勝を睨みつけると、吐き捨てる様に反論した。


「もうアンタ何かに協力したくないわ!」


 パシーンっと乾いた音がもう1発響く。


「勝! 千夏さんから離れて!」


 私は怒りを露わにして剣を振り下ろした。手加減のない本気の一撃だった。でも、勝は余裕の笑みを見せる。


「感情に任せるとろくな事にならないぜ。勝利を掴め逆転のジョーカー。その力で主人の望みを聞け!」


 勝がジョーカーを空に掲げると、死神が私の前に出現した。


「そのまま捕まえろ!」


 死神は勝の命令に従い、私を羽交い締めにする。


「うっ……苦しい……」


 カラン、カラン、っと音をたてて剣が地面に落ちる。


「千夏、君の仕事ぶりには感謝してるよ。その燃える様な激しい怒りの感情が凶源の闇を誘き出してくれた。ある意味1番優秀な魔法少女だね」


「じゃあ、願いを叶えてくれるの?」


 千夏さんは皮肉を込めて勝に挑発する。


「もちろんだとも。君にはたくさん働いてもらったからね。好きな願いを1つだけ叶えてあげるよ」


「えっ、本当に叶えてくれるの⁉︎」


 勝の意外な返事にパッと千夏さんの瞳に希望が宿る。でも一瞬でその希望は打ち砕かれた。


「ただし代償はそうだな……妹の命を貰おうか」


 勝はニヤニヤと不快な笑みを浮かべる。


「妹の命を代償に? そんな事出来るわけないでしょ!」


「じゃあ諦めるんだな。どんな願いにもそれ相応の代償がいるものだよ」


「アンタ、アタシが優奈の病気を治す為に戦っていたのを知らないの? 代償なんかにしたら……」


「本末転倒だね」


 勝は口元に手を当ててクックックっと喉を鳴らす。


「勝!!!! アンタは絶対に許さない!」


 千夏さんは歯軋りをすると叫び声を上げた。


「お〜 怖い怖い。さぁ、後は闇が全てを包み込む。君たちに邪魔される訳にはいかないからね。ここで死んでもらうよ」


 勝は死神から鎌を受け取ると千夏さんの首に狙いを定めた。


「お願いやめて!!!!」


 私はお腹の底から声を絞り出して叫んだ。嫌だ、もう誰かが目の前で死ぬのは見たくない! 誰か助けて!


「死ね、千夏!」


 鋭利な鎌は吸い込まれる様に千夏さんの首元に向かっていく。まるで一コマずつ見ているように全てがスローモーションに見えた。


 あと数センチで千夏さんの首に届く。その刹那、眩い光が辺り一面を照らした。


「ライトニングフラッシュ!」


 強烈な光のせいで目が眩む。瞼を閉じても目の奥が痛い……ようやく光が収まって辺りを見渡すと、1人の少女が立っていた。


「恵ちゃん。大切なカードを捨てたままにしないでよ〜」


 心地よく耳に残る澄んだ声に、黄色をベースにしたゴッシクドレス。その姿はまるでお姫様みたいだった。後ろ姿でも分かる。私たちを助けてくれたのは……


紗央里(さおり)さん!」


「ごめんね、遅くなって」


 紗央里さんは風になびく髪を抑えると、私に手を差し伸べた。




* * *


「えっと助けていただきありがとうございます」


 解放された千夏さんは紗央里さんの元に駆け寄って感謝を伝える。


「1人増えた所で何も変わらない。まとめて相手してあげるよ」


 勝は背後に控えている死神から鎌を受け取ると、私たちにめがけて投げてきた。鎌はブーメランの様にクルクルと回って襲いかかってくる。


「恵、こっち!」


 千夏さんが私に手を差し伸べる。その手を掴むと、グイッと体を引っ張られた。


(あれ……これは……?)


 千夏さんは軽く頷くと、すぐに棍棒を担いで勝に攻撃を仕掛けた。すかさず私も攻撃に参加した。


「くそ、めんどくさいな!」


 千夏さんの重い一撃と、私の鋭い攻撃が噛み合ってジリジリと勝を追い詰めていく。


「2人とも伏せて!」


 背後から紗央里さんの声が聞こえる。反射的に伏せると、コインが頭上を飛んで行った。


「っ………やるじゃないか」


 まるで昔から一緒に戦っていたかのように私たちの連携は完璧だった。


「捕えろ!」


 勝が厄介な闇の鎖を出して私たちを捕まえようとする。


「2人とも下がって!」


 紗央里さんが地面に手をつくと、透き通った声で高らかに宣言をした。


「地に属する星座たちよ、私に地の加護を与えよ!」


 尖った岩が私たちを守る様に出現して勝の攻撃を防ぐ。


「2人とも次で決めるよ!」


「「はい!」」


 私と千夏さんは同時に返事をすると、全力の一撃を放った。


「太刀風!」「劫火粉砕!」


 風の剣と火の棍棒が重なって強烈な技が炸裂する。勝は一瞬逃げようとしたが、その行手を尖った岩が塞いだ。


「逃がさないわよ!」


「忌々しい!」


 逃げ場を失った勝は闇のオーラを鎌に集中させた。おそらく勝もこの攻撃で決める気だ。


「これで終わりです!」


 剣を振り下ろしたその瞬間、後ろから紗央里さんの悲鳴が聞こえてきた。


「きゃぁ!!!!」


「紗央里さん!?」


 チラッと後方を確認すると、地中から出てきた闇の鎖が紗央里さんを拘束していた。


「恵、危ない!」


 千夏さんが私を突き飛ばして勝の攻撃を代わりに受け止める。間一髪ガードが間に合ったが、千夏さんは後方に大きく吹き飛ばされてしまった。


「紗央里さん、千夏さん、今助けに行きます!」 


「おいおい、人の心配をしてる場合か?」


 勝がパチっと指を鳴らした。今度は闇の鎖が私の体に巻き付く。


「………っ!!」


「惜しかったね。君の敗因は仲間思いのところさ。紗央里の事なんて無視して攻撃を続けていたら良かったのに」


 勝は鎌を掲げて狙いを定めた。空に浮かぶ凶源の闇に照らされて不気味に輝く。


「せっかくだから玲奈の時と同じようにやってやるよ!」


「勝! 恵から離れなさい!」


 すかさず千夏さんが助けに入ろうとしたが、腹部に手を当てて顔をしかめる。どうやらさっきの攻撃が効いているようだ。


「恵ちゃん、今助けるわ!」


 紗央里さんがコインを飛ばすが、勝はひらりと避ける。


「終わりだ!」


 勝は冷たく言い放つと容赦なく鎌を下ろした。私の体は切り裂かれて、ダムが決壊した様に勢いよく鮮血が飛び出した。


(嘘でしょ……)


 私はそのまま崩れ落ちる様に倒れこんだ。生温い血の水溜まりが地面に広がっていく。


(あれ? 私……このまま死ぬの?)


 感覚が麻痺しているのか痛みはない。とにかく熱い。心臓の音が耳元で鳴っているみたいにうるさい。そして寒い……急に体が冷えて足先の感覚がなくなっていく……


「おやすみ、まぁ、もう目は覚めないだろうけどね」


 その言葉を最後に私の意識は薄れていった。

ご覧いただきありがとうございました!

次回も18時頃に投稿します。あと3話です。

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