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 更に1週間後。


 幸い腕の怪我はたいしたことなく、痛みもなくなっていたが、大事をとってその日も右腕のトレーニングは控えておいた。


 下半身中心のトレーニングを終え、体育館の正面玄関から表に出ると、原多木(はらたき)さん、靖川(やすかわ)さん、佐羽島(さばしま)君の三大マッチョがいたので挨拶する。


「お疲れ様でしたー」

「あ、お疲れ様です。えーと、錫木(すずき)さん、この後お時間ありますか?ちょっとお伺いしたいことがありまして」

「え?ああ、いいですけど」


 4人で駐車場の隅に移動したところで|佐羽島君が俺に尋ねてきた。


「錫木さん、なんか右腕を怪我されているようですけど、あの金色のダンベル使いました?」

「ああ、えーと、すみません、せっかく忠告してくれたのに」


 バツが悪くて佐羽島君には黄金(ゴールデン)ダンベルで怪我したことは言ってなかったのだ。


「あ、いえ、いいんです。責めてる訳じゃなくて。実は僕が怪我したのも原多木さんの忠告を無視してあれを使ったからでしたし。ただ、錫木さんが使ってみた感想とか怪我したときの状況を聞きたかったんです」

「?感想とか状況、ですか?」


 その後、黄金(ゴールデン)ダンベルの使い心地が意外と良かったことや、ダンベルサイドカールでスピードを上げた瞬間に驚くほどの負荷を感じたと思ったら腕を傷めていたことなどを話した。


「まあ、そんな感じでしたけど、それが何か?」

「ああ、ここからは俺から説明しよう」


 俺の疑問に最年長の原多木さんが一歩前に出て答えてくれた。この人、身長も一際高いのでそうやって近づかれると威圧感が半端ない。


「ま、一言で言えば俺達――ここに居ない常連さんを含めてだが――は、昔からあの金色のダンベルによる被害が出ないように活動している。具体的には利用者に使用しないよう忠告したり、使用して怪我した人に話を聞いてその情報を共有したりだ」

「昔からっていいますと……」

「少なくとも俺がここに通い始めた28年前にはあれはあった。そしてそのときの常連はすでに被害防止に努めていた」

「28年前!?」


 あの輝きはとてもそんな昔からあったものとは思えない。


「と、言っても科学実験みたいに回数を重ねることもできないしな。1人1回の経験を皆で共有しても情報としては非常に限られたものになる」

「怪我の原因があれにあると分かったら二度と手を出さないでしょうしね」


 その後、原多木さんから共有されている情報を教えてもらった。

 共通しているのが、まず誰の手にも馴染むこと。そしてトレーニングのスピードをアップした途端にあり得ないほどの急激な重量の増大を感じ、気付いたときには怪我をしているという点だ。

 一方、トレーニングの種類は関係ないらしい。

 三大マッチョが怪我したときも、トレーニングはショルダープレス、サイドレイズ、ハンマーカールと各人バラバラで、怪我した箇所も違うという。


「このことを施設側に伝えたりは?」

「それやったら頭おかしいと思われるか悪質なクレーマーと判断されるかのどちらかだろうな」

「ですよね」


 公に訴え出ることは出来ないが施設の備品を勝手にどうにかすることもできない。

 秘密を共有する者同士で皆の事故をなるべく防ぐようにするしかないってことだ。


「分かりました……これからは俺も誰かがあれを使わないように気を付けておきますよ」

「ああ、できる範囲で頼む」


 今後は俺も協力することでその場は解散となった。


 なんか不思議な話だが、所詮ダンベルだしな。腕の怪我くらいで命に関わるようなことにはならんだろ。


 そんなことを考えながら横を見ると佐羽島君の様子が少しおかしい。

 車を停めている場所が近いので解散後も俺と同じ方向に歩いていたのだが、何か後ろをちらちら見ている。


「佐羽島君、何か気になることでも?」

「あ、ええ、靖川さんなんですけど、今日も調子悪そうだったんで大丈夫かなあ、と」


 佐羽島君の視線の先に靖川さんの後ろ姿が見える。確かに俺も気になっていた。顔色は悪かったし、今見えてる背中も以前に比べて小さくなったように感じられる。


「大会に向けて減量してるとかじゃないですよね?」

「大会は3ヶ月先ですからね。あれじゃ大会1週間前とかの状態ですって。それも絞ってるというよりやつれてるって感じですし。でも『医者に診てもらったらどうです?』って言っても『大丈夫』の一点張りで」


 確か靖川さんも俺と同い年で独身だった。身体を心配して忠告してくれる家族もいないので医者に診てもらう踏ん切りがつかないのかもしれない。


「俺からも病院に掛かるよう勧めてみますよ。『この歳になったら無理はききません』って」

「お願いします」


 黄金(ゴールデン)ダンベルの秘密やら靖川さんの体調やら、どうにも落ち着かないものを感じながらその日は帰路についた。

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