9 ・初体験+赤羅城戦?①
赤羅城と僕による美少年をめぐる闘い。めぐるというのは恋愛感情のことではなく、安否をめぐる闘いであるということだ。
美少年が逃げたら赤羅城の勝ち。
美少年を守りきれたら僕の勝ち。
あとはどちらかが戦闘不能になった場合に勝敗が決する。
赤羅城は僕を殺さないと約束はしてくれた。
してくれたのだが……。
「よっこらせッ!!」
赤羅城は手にもっていた大太刀を勢いよく振り下ろす。
大太刀の刃は地面に激突し、深く突き刺さる。
そして、赤羅城はすぐさま刃を抜き取り、何度も何度も僕に向かって剣を振るって来た。
「赤羅城!!
殺さないんじゃなかったのかよ?」
僕は短刀で自分の体に大太刀の刃が突き刺さらないように弾いていく。
赤羅城の攻撃の勢いはもはや殺戮そのもの。普通に殺されそうな勢いに僕は思わず声を出してしまったのだ。
すると、赤羅城は攻撃の手をやめないまま返事を返す。
「ああ殺さねぇよ!!
ただの暇潰しだ!!」
確かに赤羅城との闘いは初歩的な剣道のようであった。
彼はきちんと大太刀を振り下ろす。フェイントをかけてくることはない。
面を狙うときは面を、胴を狙うときは胴を……。
僕がその攻撃を受け止めるか止めないか。つまり、僕の体力の限界がいつ来るかが今回の勝負の行方を左右するらしい。
「くっそ!!
完全に舐められきってるじゃないかよ!!」
完全に舐められていた。赤羅城にとってはただの遊び相手ということである。この国に来てから赤羅城はずっと暇していたし、大太刀を振る機会を得て嬉しそうだ。
そのイキイキとした喜ぶ顔の赤羅城を見て僕は考えた。
「お前、まさかこうやって闘う為に僕の必死な説得を拒否したんじゃないだろうな!!」
「カッカッカッ!!」
笑っている。図星だったのか。
戦闘狂の赤羅城にまんまとハメられた。
美少年の対処はもともと僕と赤羅城で意見が割れてはいた。
争うことにはなっていたのだが……。わざと僕が必死になって赤羅城を止めるために戦闘を決意する所まで追い込んでいたのだ。
戦闘を行ってでも止めると決意したのは僕自身だ。確かに、マルバスに言いつけるとでも言えば赤羅城は渋々だが諦めただろう。
彼も僕もマルバスの前で問題行動を起こせないのである。
僕らは罪人。逆らえば即死刑だから。
しかし、赤羅城を止めるためなら問題にはならない。
僕は死刑にはならない。
だが、これでは問題を起こそうとした赤羅城が死刑になってしまうじゃないか。
「罪人先輩が無理に動くと俺の手元が狂っちまうぜ!!」
赤羅城は自分が死刑になるかもしれないということを理解しているのだろうか?
僕は赤羅城の攻撃から逃げながらその事を彼に尋ねようとするのだが、怒濤の連続攻撃に聞く隙もできない。
「くそッ!!」
「おい、罪人先輩。受け身ばかりじゃつまんねぇよ。遠慮しないで刺してきな!!」
確かに、このまま逃げ続けても時間の無駄だ。
地面がボコボコと穴が開きまくるだけだ。
それならば、赤羅城が抵抗できないようにするしかない。
多少怪我を負わせてでも止めるしかない。
例えば、手に傷を負わせて大太刀を握らせないようにする。
僕はその作戦を逃げながら必死に考えることにした。
そして動き出す。
僕の短刀では遠距離からの攻撃は不可能。
なので、赤羅城に向かっていくしかない。
僕は赤羅城が大太刀を振り下ろした隙に背後に移動する。
そして、赤羅城が向かってくる僕に横目で気づいた瞬間に僕は地面を蹴る。
飛び上がる。
「あ!?」
大太刀に狙いを定めていると勘違いしていたのだろう。
だが、武器を奪うだけでは赤羅城との肉弾戦には勝てる気がしない。
僕は作戦を行う直前でそう判断したのである。
「おらッあ!!」
そして赤羅城の顔面に向かって思いっきり蹴りを行った。
生まれて初めて行った僕の飛び蹴りは成功。
飛び蹴りは赤羅城の顔面に当たる。
「……がッ!?」
赤羅城は飛び蹴りの勢いに身を任せてそのままバランスを崩した。
このまま彼を背中から地面に激突させる。
そして、すぐさま馬乗りになり、首筋に青き短刀を向ける。
そうすれば、赤羅城も敗けを認めるはずだ。
戦場での闘いをたくさん経験してきた赤羅城ならば、直接飛び蹴りをくらう経験も初めてだろう。
鎧兜と武器を使う戦場で飛び蹴りなんてくらう機会はないはずである。
「これが飛び蹴りだぜ赤羅城!!」
このまま彼を地面に倒せば勝ちだ。
───そう思っていた。
普通の相手ならその作戦で倒すことはできる。
しかし、相手が赤羅城だという事を僕は作戦に加えていなかったのである。
「……!?」
ガッシリと蹴りをくらわせている足首を掴まれたのである。赤羅城も倒れている最中だというのに、彼は僕の足首を掴まえたのだ。
そして、「オラァァァァァ」と気合いの入った大声を出しながら、掴まえた足首を赤羅城は思いっきり地面に向かって叩きつける。
自分が地面に達するよりも速く。
僕の体は軽々と地面に激突した。
「「イッ!?」」
体が痛い。砂が少し口に入ってくる。僕はペッと口の中の砂を吐き出す。たったその時間だった。
僕が横になっていた数秒の間に赤羅城は立っていた。
「…………」
「どうしたんだよ赤羅城。この数秒でお前の勝ちだったじゃないか」
僕は横になったまま赤羅城を見つめる。
なんだかもう疲れてしまったのだ。
先程も述べたようにマルバスに言いつけるとでも言えば赤羅城は渋々だが諦める。
マルバスとしてはせっかく同盟作りが完了した所。
それを他国の者がこの国の者と一触即発し、拷問による激しい損傷を与えた。
なんて知れてみろ?
同盟作りは即破綻だ。
それは赤羅城にも分かっていて欲しかった。たぶん分かっていないのだろうが……。
さて、考え事も済ませた。僕の視線は赤羅城に向いている。
しかし、あれから赤羅城は動いてこない。生きてはいるのだろう。
だが、なにもしてこない。
「?」
僕は不思議に思いながらも立ち上がる。
すると、赤羅城は立ち上がった僕に向かって、まるで何かを思い出したかのような表情で言った。
「お前…………なんで此処にいるんだ」
目を見開いて信じられないといった感じで僕を見てくる。
赤羅城は見たのだ。かつての王都にいた仲間の弟と同じ顔をした少年を……。
その記憶の中の少年と僕の顔が同じだったのである……。




