8 ・白+赤
赤羅城によって振り下ろされた大太刀の刃は階段に突き刺さっていた。
階段に倒れ込むような体勢になっている美少年に傷はない。
美少年が運良く避けた?
いや、たぶん赤羅城が避けたのであろう。あくまでも脅しのつもりなのだろうか。
恐怖で美少年は声もあげられず、ただ赤羅城を見つめている。
美少年からしてみれば、ヴァイオリンを弾いていたら突然命を狙われたような物だ。どんな理由があろうとも美少年は被害者である。
僕は突然の奇行に走った赤羅城に対して叫ぶ。
「何してんだ!!
赤羅城!!」
僕の声を聞いても赤羅城は大太刀から手を離さない。
「ボクがいったい何をしたというのかな?」
美少年は赤羅城を睨み付けながらも、まっすぐに赤羅城の瞳を見つめて問う。恐怖はしていても冷静な対応を取っている。
すると、赤羅城は階段に刺さった大太刀を抜いて横に向けた。
「おい、てめぇ。命惜しければ俺の言うことを聞きやがれ」
「赤羅城と呼ばれていたね。ボクが何をしたんだい。ヴァイオリンの音色がうるさかったのかな?」
「あ?」
「そういうことならば、最初にそう言ってくれ。ボクも自分の意思で演奏をやめてあげることができる。
なんでも、無理やりやめさせるというのは嫌われると思うよ」
美少年は階段に倒れていた状態から立ち上がり、パッパッと服に着いた汚れを払いながら赤羅城に告げた。
それが赤羅城に対する嫌みであったことに違いはない。
しかし、赤羅城は嫌みに対する怒りを押さえ込むと今さらではあるが冷静になって答えた。
「おい、勘違いしてんじゃねぇーよ。俺はそんな理由で襲ったんじゃねぇぜ」
では、どういう理由で襲ったのだろう。
何も言わずに襲った事は赤羅城に非はあるが、理由は僕も聞いておきたい。
「てめぇからは微かに“邪気の匂い”がする。教えろや!!
てめぇの目的はなんだ?
それとも関係者にいるのか?」
邪気の匂い。
それは赤羅城がアナクフスやモルカナに来た理由である。
その邪気の匂いを持った正体と殺し合いがしたい。
それが赤羅城が僕ら側に着いた理由である。
僕もつい先程その説明を聞いたから良く覚えている。
しかし、美少年は急にそんな事を言われても、さっぱり分からないようで首を傾げながら逆に赤羅城に聞いてきた。
「なんのことだい?
邪気の匂い?
それはいったいなんなんだ?」
「知らねぇのはいい。だが、教えろ。お前の関係者を洗いざらい。全員俺が確かめてやる!!」
それはまさに脅し以外の何物でもなかった。さすがにやりすぎである。
そして、赤羅城が美少年の胸ぐらを掴もうとしたその時、僕は思わず声をかけてしまった。
「いい加減にしろ。やめるんだ赤羅城!!
その人は関係ないだろ!!」
階段に足をかけて僕は上にいる赤羅城に注意を行う。
すると、赤羅城は僕を睨み付けてきた。
「罪人先輩。これは邪気の持ち主を叩くためだ。
俺はこの国なんぞどうでもいい。
だがしかし、俺はあんたらの為も思ってるんだぜ?
邪気の正体。今のうちに叩いておかねぇと友の関係者みんな殺られる。
いや、この国に入った時点で巻き込まれてるかもしれねぇ」
確かに赤羅城の予想は的中している。僕らは今ループ現象に巻き込まれている。
おそらく、それが邪気の匂いを発する正体の仕業なのかもしれない。
それでも、事情をきちんと話してから協力して貰うべきである。だって目の前の美少年は本当に知らないという表情だったから。僕はそれを信じる。
「それでも!!
それでも一度落ち着こう赤羅城。お前が邪気の正体と闘いたいのは聞いている。
けど、事情は話すべきだ!!」
「罪人先輩……」
赤羅城が急に静かになった。いや苦悩しているのかもしれない。彼は大太刀を持っていない腕をギュッと握りしめて悩んでいるかのようであった。
届いたのだろうか?
僕の必死な説得が彼の心に届いたのだろうか?
「悪いが罪人先輩。
これは俺のやり方だ。腕の1本2本切り裂いてでも拷問して問いただす。
邪気の正体を確実に見つける!!」
赤羅城への説得は失敗したらしい。
赤羅城は美少年を殺さないように傷つけるつもりなのだろう。
ここまで分からず屋だったとは……。
僕は決意した。赤羅城にその意見を変える気がまったくないのであれば仕方がない。
僕も仲間内で争いたくはない。せっかく仲良くなれたんだ。
けれど、出会ったばかりの美少年が拷問によって傷つけられるのを見たくはないのである。
「バティン……すまない。お前の友達っていう奴を懲らしめる」
「実力で改心させようってか?
カッカッカッ!!
罪人先輩、良いぜ。それでこそ俺の先輩に相応しいってもんよ。
だがいいのかい?
俺は我が友バティンを殺しかけた男だぜ?」
バティンを殺しかけた?
その事実は初耳である。
バティンが殺されかけた相手に勝つ方法なんてこっちは思い付いていない。
……というか。バティンは殺されかけた相手に友と呼ばれているのか。それって、どういう心境なのだろう。
少し不安になってくる。
その心境の変化を赤羅城は見過ごさなかった。
「安心しな。俺はあんたを殺さない。
戦場でのバティン戦とは違う。加減はしてやるぜ」
「それなら良かった」なんて言えない。
生身の人間との闘いなんて初めてだ。
釘野郎という付喪人、亥・戌と呼ばれる怪物である十二死。その2つとしか戦闘をしてきていない僕に生身の人間との闘いは初体験。
けれど、「生身の人間相手なら」と思ってはいけない。
相手はバティンを殺しかけた人物。
手加減はされてもただでは済まないだろう。
それでも「逃げなきゃ」とは思わなかった。
「分かった。止めてやるよ!!」
僕は愛用で歴戦の武器である青き短刀を握りしめる。
そして赤羅城による美少年への拷問を止めるため、赤羅城を力で押し倒す!!




