7 ・赤羅城+美しく切ない音色
現在の時点はルーラーハウス。
ハルファスとマルバスの同盟作りが無事終了した場面である。ルーラーハウスでの出来事は今回もまったく同じ流れで終結することになった。【3①・一番+同盟作り】にてハルファスが「やった~。フンフフーンフフフーン」とマルバスとの夜を楽しみに思いながら鼻唄を歌って契約書にペンを走らせている場面である。
その間、僕はまるで“速送り”にでもあったような感覚を味わっていた。もう20回以上も経験しているという事だからそれも仕方がないのかもしれない。
言ってはいけないが無駄な時間。このループを終わらせるためには必要ではない時間だと僕は判断したのである。
「ヨッ、罪人先輩。散歩でもどうだい?」
マルバスとハルファスが2人きりで話を始めたので、荷物持ちだった僕は席を外し、廊下で外を眺めていたのだが……。
ちょうど、大広間から出てきた赤羅城に声をかけられた。
赤羅城と散歩。まぁ、取って喰われるわけもないし、断る理由も特に思い付かない。
「ああ、いいよ。僕も散歩に同行しよう」
なので、僕は赤羅城の提案に乗ることにした。
時刻はだいたい夕日が地面を照らしている夕方である。
昼間に比べて人通りも少ないため、のんびりと散歩ができていた。
「なぁ、罪人先輩。何かあったのか?」
「いやいや、ちょっと考え事をしていただけさ」
「そうかい。てっきり俺以外にも暇な奴がいるかと思ってたがガッカリだぜ。この国、平和すぎなんだよなぁ」
僕の側で歩いていた赤羅城はため息をついた。
確かにこの国にやって来てからというもの、赤羅城はいつもつまらなさそうな態度をとっている。
「平和なのは良いことじゃないか?
それほど誰かと戦闘したいものなのか?
僕としては別にこの状況は好きなんだけどなぁ」
「あんたらはそうだろうよ。
だけど、俺が前にいた環境は違う。
やっぱり俺は誰かの剣として闘うのが好きなんだ。今じゃ牙も折られた犬っころと同じだね」
そう言って再びため息をつく赤羅城。前の居場所での活躍はそれほど充実したものだったのだろうか?
そういえば、彼がなぜバティンと友達になったのかを僕は聞いていなかった。彼の前の人生について聞いていなかった。
「なぁ、赤羅城。お前はどうしてモルカナ国に来たんだい?」
「あ?
どうしてかってねぇ~」
赤羅城は僕からの質問についてう~んと悩みながら考えている。
そして、とぎれとぎれではあるがその理由を考え付いたようで、赤羅城はゆっくりと語り始めた。
「……匂いかな」
「匂い?」
「ああ、実は俺さ。元々とある王都の騎士団長の1人だったのさ。でも、クビになっちまってな。
仕方がないから何処か雇ってくれる国はないかと捜していたらよぉ。アナクフスで匂ったんだ」
「匂った?」
「ああ、ワクワクするような“邪気の匂い”さ。そしてアナクフスでもモルカナでもネゴーティウムでも同じ匂いを感じたぜ。
俺はその正体と殺し合いたいから此処にいる」
「へー、お前アナクフスにいたのか!?
しっかし邪気の匂いねぇ」
赤羅城がアナクフスにいたというのは初耳だ。アナクフスは前に同盟作りに行った場所。
しかし、変な匂いなんてしなかった気がする。
異臭なんてなかったのだけれど……?
「カッカッカッ、先輩にはわかんねぇか。
まぁ、アナクフスの匂いは綺麗さっぱり消えちまってるし……。行く宛もないからよ。
友のいるモルカナにでもお世話になろうと思ってな。そういうわけでモルカナ側についたのさ」
「そうだったのか。とりあえず、お前が僕の仲間だって聞いて安心したよ」
その返事を行うかのように赤羅城は少し僕に向かって微笑むと、再び視線を前に向ける。
どこまで歩いていくつもりなのかは分からないが、赤羅城の散歩に僕も付き合った身なので途中で脱け出すこともしない。普通に会話を行っていた。
どこからかヴァイオリンの音色が聴こえてくるまでは……。
美しく切ない音色が聴こえる。
「なぁ、赤羅城。なんだろうなこの音」
どこから聴こえてくるのか分からない音色。その切ない音色に僕は耳を向けていた。
その音色に気をとられている者は僕と赤羅城以外にはおらず、すれ違う人々は平然とした態度をとっていた。
この音色には慣れているのだろうか。
「………………」
赤羅城はというと、急に静かになってしまってまっすぐに道を歩いていく。
その顔は真剣な表情となっている。
急に態度が急変した赤羅城の後を追うように僕も歩く。
彼はとある裏道に入っていく。そこは人通りも少ない道。しかし、音色の音が先程までよりも聴こえてきやすい。
方角は確かにこの方向であっているようだ。
しかし、赤羅城がなぜその音色の正体を探ろうとしているのかが分からない。
案外、僕と同じようにこの曲を弾く人が気になるんだろうか。
迷子になりそうになるほど角を曲がりながら、僕と赤羅城は裏道に入って10分後にとある場所にたどり着いた。
そこは広場。少し大きな階段へと通じる広場である。
夕日がまるで階段に向かって沈んでいるような光景を見ることはできたが、それよりも階段に座ってヴァイオリンを弾いている美少年に目が向いてしまう。
彼は白いシャツとズボンという単純な服装を着ており、手にはヴァイオリンを持っていた。
その姿は白い髪に赤い目をした好青年というよりは美少年と呼ばれるくらい美しい。まるで白色のバラのように美しいのだ。
そんな彼は人通りもない階段に腰を下ろしていた。
きっと、万人にモテるような顔立ちの美少年である。僕とは真反対だ。
そんな美少年が演奏中にやって来た僕たちの視線に気づき、視線を向け返してきた。
「美少年だ……」
僕は彼のとったその行動にさえも美しさを感じてしまう。もう美しい以外の単語が思い付かない。
だが、赤羅城だけは違っていた。
赤羅城は美少年からの視線を向けられた瞬間に、飛び出していたのだ。
「おい、赤羅城。おまっ!?」
手には大太刀が握られている。
私服姿の赤羅城は勢いよく階段をかけ上がる。
僕が止めようとしたのも間に合わない。そんな素早さで階段をかけ上がると、美少年を睨み付けた。
美少年は突然目の前に現れた武器をもった大男に圧倒されているようで、ヴァイオリンを手放してしまう。
美少年を睨み付ける赤羅城。その瞳に映っているのは訳もわからずただ彼を見ている美少年の姿。
そして、赤羅城は理由も告げることなく。
手に構えていた大太刀を振り下ろしてしまったのだ。




