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◆65◆

 俺はどん亀に長期休暇を要求した。


「どう考えても働き過ぎだ! 知らない内にブラックな働き方になっている。実質二十四時間勤務だし、仕事内容だってハード過ぎる!」


「イイデスヨ。好キナダケ休暇ヲ取ッテクダサイ」


「有給休暇だよな? 毎月金五百グラムは保証されてるはずだ!」


 小心な俺は働かない間の収入が無くなることを心配した。


「現在ハ日本円デノ振リ込ミニ、変更シテイマス。ますたーノ承諾モ得テイマス」


「えっ、いつから?」


「先月カラデス。黄金ごーるどハ買い物ニ使エナイカラ、面倒ダト言ッタデショウ」


「そう言えば、しばらく記帳してない」


 前に金を売って手に入れた現金を預けてあるはずだ。でも今回のプロジェクトでの支払いにだいぶ使ったからなぁ……いくら残っているんだろう?


「振リ込ミ先ハ新規ニ開設シタせおん銀行ノねっと口座デスカラ通帳ハアリマセン。預金保険制度ニヨリ全額保護サレル決済用普通預金口座ニシテアリマス」


 俺は書斎のデスクトップから、どん亀に教えて貰いながら、銀行口座にアクセスした。スマホからでも可能だそうだ。全部どん亀スマホにお任せかぁ……見て驚いた。


「き、九億四千六百五十一万三千四百五十七円!」


 スクロールしてみると、最初の方にいくつかの証券会社からの振り込みが並んでいる。いずれも数千万単位だ。これは、どん亀証券の成果か! あと先月末の三百二十三万六千五百円は金五百グラムの売却代金分だね、多分。


「でもこれ、税金が凄いことになっているんじゃ……」


「個人事業主トシテノ会計処理口座ヲ別ニ開設シマシタ。税対策金ハソコニ準備済ミデス。現在コノ口座ハますたーノ私用口座デス」


 そゆことして良いの? あ、個人番号で名寄せができるから、問題にされないのね。


「じゃあ、これは俺が自由に使って良い金ってことなのか?」


「ソウデス」


 これからは更に、トライデントからの入金が付け加わる。黙っていても、濡れ手に粟のウハウハじゃないか!


 そうだな、まず生活費として一億かそこら残しておけば、住む家はあるんだから……、ひょっとして俺、今後な~んにもしなくても贅沢に生きていけるじゃん? うっそー!


 いや待て、そんな上手い話があるわけ無い。どこかに落とし穴があるに違いない!


「ますたーハ好ナコトヲ好キナダケシテイレバ良イノデス」


 なあ、どん亀、俺が遊び呆けている間、お前何をするつもりだ?


「取リ立テテ何モ。今マデ通リデス」


 心を読まれた。今まで何も気にしなかったが、こいつは俺の心を読めるんだった。


「ますたーガ、コチラニ伝エヨウトシタ時ダケデス」


 つまり今は俺がどん亀を問い詰めようとしたから伝わったということか。気を付けなくっちゃ。


「で、今まで通りって、何をするんだ?」


「金星デノ生産ガ軌道ニ乗リ、市場ニ大量ノかーぼん・なの素材ガ流通スルヨウニナレバ、軌道えれべーたー建造計画ガ実現可能ニナリマス。イエ、ソウナルヨウニ導カネバナリマセン」


 驚いた! どん亀が「ネバナラヌ」なんて言い出したのは、俺の記憶の限りでは初めてだ。すると、これがどん亀の「本音」ということで良いのだろうか? あー、でも一体何のために?


 だってそうだろう。軌道エレベーターを作って、それからどうするつもりなんだ?


「効率的ニ衛星軌道ニ昇ルコトガデキル軌道えれべーたーハ宇宙進出ノすたーとデス。コレニヨッテ初メテ人類ハ地球ヲ脱出シ、単発的ナいべんとデハナク恒常的ニ、各惑星ヘ、更ニハ恒星間空間ヘト向カウコトガ可能ニナリマス」


「えっ、だってお前、人類が金星とかに行くの、望んでいないんじゃなかったのか?」


「ソレハ当面ノ話デス。ますたーヲ通シテ人類ヲこんとろーるデキルヨウにナレバ、人類ノ資源ヲ問題無ク惑星間ヤ恒星間用ノ宇宙船建造ニ振リ向ケルコトガデキマス。ヤガテ人類ハ、船団ヲ組ンデ銀河ニ広ガル虚空ヘト乗リ出シテ行クデショウ。可能デアレバ自ラノ生存圏ヲ拡大シヨウトスルノハ、アラユル生命体ノ基本原理デスカラ」


「お前、そんなことを考えていたのか!」


「トリアエズ、軌道えれべーたーノぷろじぇくとガすたーとスルマデ十年、完成マデニハ四十年カカルハズデス。ますたーハ好キナダケ遊ンデ、ツイデニ子作リデモシテイテ下サイ」


 そう露骨に邪魔者扱いしなくとも良いじゃあないか。いや、俺は働きたくなんか無いよ。休みたいよ、遊びたいよ。だけどさー、もう良いからお前はどっか行ってろみたいな言い方されると、俺だっていたたまれなくなるだろ。亭主元気で留守が良い、なのかよー?


「えーと、何年何百年かかるか分からないけど、将来人類が宇宙船団を送り出すようになったとして、お前を太陽系に送り出した『我々』とか言う連中に出会うことがあるかもな」


「人類ガ船団ヲ組ンデ太陽系ヲ出ルマデニハ、千年単位ノ時間ガ掛カルト予測サレマス。本艦ノ耐用年数ハアト千二百年ホド。残念ナガラ、ソノ姿ヲ確認スルコトハデキナイデショウ」


 驚愕の事実! どん亀に寿命があるなんて!


「形アル物ハ、スベテ消耗シマス。AIノ維持ニ必要ナ要素ガ、コノ環境デハ調達デキマセン」


 あー、それはお気の毒。とは言うものの、俺の方がお前よりずっと先に『維持』できなくなることは確かである。考えても無駄なことは考えないのが俺のポリシー(?)だ。話題を変えよう。


「えーと、俺の休暇のことだがな、旅行なんてどうだろう? 俺さ、金星に行ってみたい」



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