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◆35◆

 多関節ボットが、鈴佳の頭部に作業肢アームを近づける。なんか尖ってるな。ドリル? 頭に穴を開けるのか?


「『まいくろ・ましん』ヲ注入スルダケデス」


「穴を開けずにできるのか?」


「小サイノデス」


 やっぱり開けるんかい!


「痛クナイ、痛クナイ」


 いや、俺なら御免被ごめんこうむるよ。


「侵襲ハ僅カデス。頭蓋骨ニ径一ミリノ穿孔ヲ行ウダケ。術後ハしーるシテオキマス」


 それって、額の中央に赤い宝石でプラグ、とかじゃあないだろうな?


「こすぷれ? ソレトモ猟奇趣味デスカ?」


「で、何をしてるんだ?」


「頭蓋骨ノ内側ニ心的通話ノ送受信しすてむヲ構築シマス。タダシ、コノ女ニハしすてむノこんとろーるガデキマセン。従的しすてむデスカラ」


「それで?」


「更ニ、前頭前野、扁桃体、海馬、扁桃体基底外側核、視床部髄板内核、正中核ナドニあくせすスル回路ヲ『まいくろ・ましん』ニ形成サセマス」


「わからん」


「側坐核ニ投射スル部位デス」


「余計わからん」


「脳ノ快楽中枢ヲこんとろーるスルしすてむデス」


 無茶苦茶ヤバい代物やつだった。


「ひょっとして、俺の頭にも穴を開けて、その『マイクロ・マシン』とかを入れたのか?」


 山の上から俺が掠われ、どん亀の内部で気がつくまでの間に、意識不明の時間があった。あの時、この謎の施術が実行されたのだろうか?


「イイエ、ますたーノ場合ハ、ソノ指輪りんぐカラノ、さぶりみなる刺激ニヨル情報的侵襲デス。最近毎朝飲ンデイルさぷりニ『なの・ましん』ヲ添加シテイマスガ、今回ノヨウナ外科的侵襲ハ実施シテイマセン」


「何で違うんだ?」


「今コノ女ニ施術シテイル作業おぺハ、即効性ガアリ確定的デス。タダシ今回ノぷろぐらむカラ期待デキルノハ、人間ノすぺくとらむノ範囲内ニ収マル変容デス」


 つまり改造されたとしても、鈴佳はまだ人間だ。じゃあ、俺はどうなる?


「ますたーニハ、我々ノ文明ノ一員トシテノ行動ヲ期待シマス。自主的ナ参加ガ望マシイノデ、判断ノ材料トナル情報でーたヲ現在モ提供シテイマス。ますたー自身ガ望マナイ身体構造ノ改変ハ、『我々』ノ基本るーるニ反シマス。最近ノ『なの・ましん』投入ハ、アクマデますたーノ要求ニ応ジタ強化プランノ一環デス」


「つまり俺に、魂を売ってお前たちの仲間になれっていう勧誘なのか? こんなに力の差があるのに、そんなことが必要なのか? 一方的に蹂躙してしまえば、いいじゃないか!」


「我々ハ、肉体的ニ互イニ交配デキナイ、多様ナ星系ニ起源ヲ持ツ、多星人文明デス。光速ノ壁ヲ超エタトハ言エ、広大ナ宇宙デハ『国家』ノヨウナ政体ハ存在ノ意味ヲ持チマセン。自他ノ境界ガ管理不能ナ量ノ空間デ満タサレ、星系間ノ連結・連絡ハ限リナク稀薄ダカラデス。我々ハ常ニ新タナ『シュ』ト『文明』ヲ取リ込ミ、拡大シ続ケル存在デス。物質的ナ侵略トカ搾取トカニハ、関心ガアリマセン」


「つまり、何がしたいんだ?」


「ますたーニハ、我々ノ代理人えーじぇんとトシテ、地球人類デハナク我々ノ利益ノタメ行動シテ貰イマス」


 拒否権無しかよ! どん亀は、この日のために、『俺の利益』を積み重ねてきたわけだ。俺が引き返せない所まで事態が進んでしまった時点で、この展開だ。何しろ、俺は『既に人間ではない』のだから、今さら人類の側に立つことはできない。どうせ俺は人でなしだよ。


 はめられたと言えばはめられたのだが、自ら好んで首を突っ込み、甘い汁を吸ってきた俺には弁解の余地が無かったし、弁解するつもりも無かった。


「あー、で、鈴佳こいつは?」


「ますたーノあしすたんとトスルタメ改造シマシタ。ソレヲ言エバ本艦モ同ジ立場デスガ」


「そうなの?」


「本艦ハ、代理人えーじぇんとヲさぽーとスルタメニ存在シマス」


「どん亀は単なる無人探査艇じゃないのか?」


「本艦ガコノ惑星デ実施シタ調査結果カラ、人類ハ我々ノ文明ノ発展ニ寄与スル特異性ヲ持ツト判定サレマシタ。規程ニヨリ、我々ハ現地種族カラ我々ノ代理人ヲ選定シ、ソノ者ガ現地種族ノ代表者ヲ兼ネルモノトシマス。ソノ際、本艦ニハ当該代理人ヲ全力デさぽーとスル責務ガ課サレテイマス」


「それって、人類の代表をお前たちが勝手に選ぶってことか? しかもそいつが、お前たちの利益代表だって! それじゃあ、自作自演のマッチポンプみたいなものじゃないか。お前たちだけに都合良くできているとしか、見えないな」


「人類ト我々ノ関係ハ平等デハアリ得マセン。物質的ニモ、知識ヤ技術ノ面デモ、我々ノ資産ハ圧倒的デス。人類自身モ、新生児ヤぺっとノ動物ニ、成人ト同ジ権利・義務ヲ与エハシマセン。代表者ノ選定ハ、我々ノさぽーとノ一部デス」


 限りなく疑わしいロジックだが、どん亀が言うとおり、問題解決能力は奴らの方が圧倒的に上だ。抵抗は無駄な努力であるだけでなく、危険だ。


「つまり、大人しく言うことを聞くのが身のためだ、ということか」


「前回ノ南あめりかデノ経験カラ、人類ニハ我々ヲ今直グ受ケ入レル力量きゃぱしてぃガ無イコトハ理解シテイマス。現在ハマダマダ試行錯誤・事前準備ノ段階デス。表ダッテノ交渉ハ選択肢ニ含マレテイマセン」


 と言うことは、陰謀論的なあれだな。知られぬまま、影から地球人類を支配することが目的の謎の組織? 『我々』の代理人になる俺は、その組織の首領ボスで、鈴佳は部下第一号? 戦隊物の幹部とか手下とかは、こうやって作られるわけか!


 何気に重大な内容の話をしている内に施術が終了したらしく、昆虫っぽい動きであのボットが退場した。


 俺はどん亀に確認を取ってから、鈴佳を抱き上げ地上に戻る。


 次の日、鈴佳が酷い二日酔いだというので、一日休ませてやると伝えた。


「何でそんなに優しいの?」と、奴は不審がっていた。まあ、術後の養生だ。何しろ、頭に穴を開けたんだからな。



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― 新着の感想 ―
[一言] やめろ! ショッカァァー!! ぶっとばすぞぉ〜www
[一言]  話の内容はそんなもんだろうなって思うんですが、日本の民法だと、胎児でも遺産を受け継ぐ権利があったような気がするんですが、その辺りはスルーなんですしょうか。
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