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町に着いた俺はファストファッションのジークロで、鈴佳のTシャツ、ジーンズ、トレーナー、スポーツブラ、その他を見繕った。「可愛くなーい」とか文句を言っても無視だ。
次に作業着とかを売っている大型店に向かい、女子用のゴム長、日除けのつば広帽子、作業用手袋とエプロンを買う。エプロンもメイド用じゃなく厚手の作業用だから間違えないように!
あとドラッグストアで、日焼け止めとハンドクリーム、女子用シャンプーとリンス、生理用品と避妊具、歯ブラシなどを買った。
こいつには畑仕事をさせるつもりだ。だから今回の費用は、必要経費だと思って俺が支払った。鈴佳の借金とするつもりは無いので、デザインの好き嫌いなどは言わせない。そのことは念を押してある。
それでもいろいろ注文を付けようとしたので、購入品目に避妊具を追加したら鼻白んでいた。今のところ使うつもりは無いんだが。
町にやって来たついでに、肉や野菜も買い込んだ。自家用に野菜を作っていると言っても、全てを賄うことはできない。肉や魚は当然無理だ。
鶏を飼おうかと考えたこともある。ただ俺はアレルギー体質なので、鶏の羽毛とか駄目かもしれない。
ボット・ドッグは動物なのだろうか? 薄情と言われるかもしれないが、生身の犬を飼うつもりは、元々無かった。それを言えば、生身の女もだけど。
アイスボックスに肉や魚などの生ものを突っ込み、店で貰ったドライアイスを載せて蓋を閉める。
「ワンちゃんたちの餌は買わなくて良いの?」
「見なかったのか? ガレージの奥に積んであったろう」
「えー、ドッグフードなんて味気なくない?」
鈴佳のやつ、ドーベルマンたちを自分のペットにする気満々だ。単純に「餌をやれば犬なんてなついてくる」と考えていそうだ。だが本物のドーベルマンも、多分お前より賢いぞ。ましてやボット・ドッグだからな。餌で籠絡するのは不可能だ。
「犬を生食で育てる奴もいるが、健康に長生きさせようと考えるなら、良質のドッグフードだ。特にドーベルマンは、過食によって心疾患や関節炎、それから胃拡張捻転症などになりやすくなる。質の悪いドッグフードに多く含まれる穀物や添加物はアレルギーとか発がんなんかの原因になる。フード・コントロールを考えると、年齢に合った質と量のドッグフードを与えるのが一番なんだ」
「生肉とか、食べさせちゃいけないってこと?」
不満そうと言うか、納得していない鈴佳だ。
「量や質のコントロールが難しいからな。それに子犬の頃から食べ慣れた物しか、あいつらは食べない」
実はボット・ドッグたちは、超小型の動力ユニットのパワーで動いている。口から取り入れられ嚥下された特製のドッグフードは、皮膚や筋肉などの疑似生体組織の維持のために消費されるだけだ。
だから飼育経験のある人間が、注意深くドッグたちの食事を観察すれば、不審に思うこともあり得るだろう。無論、賢いボット・ドッグたちは、そんな隙を見せたりはしない。
「あいつらだけで留守番させているのもかわいそうだ。急いで帰るぞ」
「はーい」
そんなやり取りがあってスーパーを出て、ショッピングセンターの駐車場に停めた俺の軽に近づいた時である、後ろから若そうな男の声が掛かった。
「なあ、彼女、お茶しない?」
スーパーでの買い物の途中から、鈴佳の後ろ姿をチラ見して、お互いに喋り合っていた二人組だ。まだ暑いこともあり、鈴佳の服装は白いノースリーブのブラウスと膝丈のパンツで、肌がちょっと露出気味ではある。しかし昼日中から、男連れの相手をナンパかよ!
「気の毒だが、これから帰るんで時間が無い」
俺は鈴佳の腕を掴み、自分の後ろへ廻して二人との間に身体を入れた。
「あー、オメエなんかに声掛けてねえよ! なあ、お前はこんなブサ男とはつり合わねーよ。俺たちと遊べよ」
胸まで開けたシャツの中に金鎖なんぞチラつかせているが、靴は汚いスニーカーだし、ゴツい腕時計も安物だ。それに茶髪のカットもボサボサで清潔感が無い。傍でヘラヘラ頷いているお友達も大差ない。
「そんな軽なんかに乗るより、俺たちのあれで、ドライブしようぜ」
男が親指で指し示したのは国産の赤いクーペ、国内トップの某メーカーがF重工と共同開発したスポーツカーだ。新車なら確か三百万くらいで買えるはずだが、型式や塗装から見ると中古だな。あれってツー・プラス・ツーのタイプだから、後部座席に入れられたら窮屈だぞ。
鈴佳は俺の後ろで「えー」とか言ってるが、お前乗り気なのか? 面白がって付いて行たりすれば、山ん中へ連れてかれて輪姦されるのが落ちだって、分かってる?
「これが見えるか?」
「なんだ? あ? ただのスマホじゃねーか」
俺が取り出したのは、どん亀に渡されたやつだ。
パッシとな!
「ワッ、何だ! クソッ!」
「アチッ!」
弱いパルス・レーザーがピンポイントで男たちの網膜に照射された。端からでは、スマホ・カメラのライトが光ったようにしか見えない。実害だって一瞬視力を失うだけで、ショックを与えて行動を遅らせるのが目的だ。
「来い!」
男二人を押しのけた俺は、鈴佳を軽の所まで引っ張って行った。助手席に押し込むと、後部座席にアイスボックスと購入した商品を放り込む。
軽をバックさせ、駐車場から出そうとしたところで、視力が回復したらしい二人が、車に乗り込むのが見えた。
俺の軽は二輪車も作っている日本の自動車メーカーの四輪駆動車で、ワークス・チームの名を冠する、軽だけどスポーツ・セダンである。フルタイム四駆なのに車重が七四〇キロしかない。それでいてパワーユニットとして装備された水冷四サイクル直列三気筒のインタークーラーターボは、六四馬力を出す。
俺はどん亀に強請り、これにシャーシ、エンジン、トランスミッション、サス、ブレーキ、ボディ、タイヤなどのチューンナップをして貰った。ボンネットを開け中を一見しても分からない、素材系の改造が中心である。
マニュアルではなくてオート・ギア・シフトなのは俺の趣味だが、どん亀はミッションとエンジンの制御を知性化し、変速制御プログラムのレベルを上げていた。というより、あいつが手を着けた途端に、この軽自動車がボット化することは避けられなかったのである。まあ、変形とか合体とかは、多分しないはずだ……。
だから新車での車両価格が倍以上で、排気量は約三倍、馬力なら三倍以上のスポーツ車に追いかけられても、町中では余裕でリードを保つことができた。
ただね、こいつらはホントにしつこい奴らで、やかましいブレーキ音を立て、ハイオクの排気を白くまき散らし、改造マフラーから大音量のエンジン音を鳴らしながら、いつまでも追い掛けてくるんだよね。
で、俺は腹を立て、高速のインターに向け、ステアリングを切った。
主人公『俺』は、「本物のドーベルマンも、多分お前が『考えている』より賢い」ではなく、「本物のドーベルマンも、多分お前より賢い」と鈴佳に言おうとして言わなかったのですが、この辺の違いを違和感や過剰表現無しに、文中で書くことができなかったのか……些細な部分ですが気になってしょうが無い。『本質は詳細にあり』と言ったのは誰でしたっけ?




