偶然の結果
「いやぁ、無事に救出成功で一安心よ」
「……あれ?」
目が覚めると、俺の前にいたのは楽しそうなイリアさんだった。
「あら、起きたのね」
イリアさんは俺が目覚めたことに気付いて顔を近付けてくる。
「最悪の事態にならなくてよかった」
更に聞えてくる何処かで聞いたような声。
確かこの声は…サーニャさん…?
「サーニャだったっけ、あなたのお陰で事なきを得たわ」
「いえ、私は何もしていません。ただ伝えただけ…私には、それしか出来なかった」
状況を呑み込めず、俺が何があったのかを聞いてみた。
どうやら今回の件は
色々な偶然が重なり合っていなければ俺達が全滅していたと言う事が分かった。
サーニャさんは俺達とすれ違った後に嫌な予感を感じたそうだ。
流石の俺達でも、あの化け物には敵わないだろうという予感。
何とか合流してくれる冒険者はいないかと探し回ったそうだが
残念ながら、あんな絶望的な報告を受けた後に戦いにいく変人は俺達程度だった。
どうすれば良いかと考えていると、偶然手に取った新聞に
俺達とイリアさんの関係性がデカデカと書いてあったそうだ。
それを見たサーニャさんは一か八かでイリアさんに話をしたらしい。
イリアさんは、今回の件も俺達ならきっとどうにかするだろうと感じており
いつも通りに過ごしていたそうだが、サーニャさんの話を聞いた結果
流石の俺達でも手に余るだろうと判断したそう。
そして、イリアさんは自身の精鋭部隊を率いて、俺達の援護に向ってくれたらしい。
イリアさん達が到着した頃には、既に勝負は着いておりぶっ倒れている俺達を見付けた。
やはり杞憂だったかと感じたが、すぐに異変を察知したらしい。
リバーススキュラの動きが妙な感じになったらしい。
イリアさんはその妙な動きを察知し、警戒状態へ。
その判断が正しかったとすぐに分かった。
リバーススキュラの体内から冒険者達が這いだしてきた。
これだけなら、別に大きな問題は無いし、むしろ生存を喜ぶところだ。
しかし、彼女達の様子は違っていたそうだ。
「よかった、冒険者の人達も助かったんだ」
状況を見たマリス達はすぐに安堵をして居たそうだが
レベッカだけは妙な雰囲気を感じたらしい。
足取りが変な感じだというのに、何故かこちらに向かってきている。
「……おかしい、まるでゾンビ…」
レベッカがその動きを見て最初に連想したのがゾンビだった。
フラフラで、生命活動を行なっていないはず。
更には目も虚ろな状態だというのにフラフラと真っ直ぐ標的へ向ってくる。
出て来た冒険者達もまさしくそれだったと感じたらしい。
焦点は合っていない、フラフラとした不安定な足取り。
だと言うのに、何故か正確にこちらに向かって歩いてきている。
「ゾンビって失礼ね! 生き残った人達よ!?」
ゾンビという言葉にメリーが反応、だが、レベッカの意見は変らなかった。
レベッカは武器を構えることはしないにせよ、最大限の警戒を持って彼女達に近寄る。
逆にメリーは一切の警戒をせずに近付いたそうだ。
「えっと、ひとまずお名前、へ?」
その冒険者達に近付いたメリーは、すぐにその両手を冒険者に掴まれたそう。
抵抗してもかなりの力、鎧から見て前衛だというのは間違いなかった。
メリーの両手をその冒険者が掴むと、すぐに他の冒険者達もメリーに近寄る。
「わぁ! 何!? 止めなさい! 服を脱がそうとするな! 触るな!」
一気に近付いてきた冒険者達に押しつぶされる勢いでメリーは包囲される。
その危機を救ったのは最高の警戒をして居たレベッカだった。
「メリー! これは不味いよ!」
「うぅ、な、何よこれ!? どうなってるのよ! 生存者じゃないの!?」
「……目の焦点が合ってないし、足取りも考えて…精神が壊れてる」
「そんな!?」
ボロボロの状態だったメリー達が交戦して勝てる数ではなかった。
リバーススキュラに取り込まれたと思われる冒険者は100を越えているし
中には一般人の姿もあったことから、その数は計り知れない。
リバーススキュラから這いだしてきたのは生存者ではなく
精神を蝕まれた、ゾンビの様な犠牲者達だったと言う事。
その犠牲者達の全ては全裸だったらしく、体内で恐ろしい事が起こってたのは間違いない。
「…仕方ないわね、皆! 抑えて!」
「はい!」
そして、その犠牲者達を制圧したのがイリアさんが率いてきた精鋭部隊だった。
精神が壊れ、まともな戦闘も連携も出来ない犠牲者達に
完璧な連携に圧倒的な実力を誇るイリアさんの精鋭部隊が敗れるはずも無く
人数差、およそ300の差を容易に埋め、全て拘束するに至ったらしい。
そのお陰で、俺達は無事にイリアさん達に保護され、今に至る。
もしもサーニャさんが今回の事をイリアさんに伝えていなければ。
もし、あの場でサーニャさんとすれ違っていなければ。
もし、サーニャさんの手に新聞が渡っていなければ。
このどれかが達成されていれば、俺達は完全にバットエンドルートだった。
暴走した犠牲者達に全員拘束され、抵抗できない俺達は
目を覚ましたところで手も足も出ずに一方的に蹂躙される。
勝利したはずなのに、次に目を覚ますと絶望が眼前に広がるとか嫌すぎる。
「じゃあ、その犠牲者達は…?」
「一時的に城で管理している状態ね。
精神衛生面も考えて、カウンセリングもしてるらしいけど
全員が正気を取り戻すまでの時間はまだまだ先でしょうね」
「…そうですね、犠牲者達に掛ける言葉も見付かりませんよ。
でも本当に今回はありがとうございました、イリアさん。
お陰で命拾いしましたよ」
「命というか、貞操というか、まぁ、どちらにしても大事な物よね」
て、貞操を拾ったとは言いたくないなぁ。
だが本当に今回の件、俺が知らない間に助けられた。
意識を失った後に、そこまで凄いことが起こっていたとは思わなかったよ。
イリアさんには感謝しないと、マリスの危機を救ってくれたんだから。
後は貞操の危機を救ってくれて、皆の事も助けてくれたわけだしね。
イリアさんが行動派で助かったという感じだな。
そして、サーニャさんにも感謝しないとな。
あそこまでボロボロだったのに、俺達の事を考えてくれて
本当に良い人だよ、あの人は。
「ありがとうございます、イリアさん、サーニャさん」
「わ、私は何もしてない…私は何も出来なかった。
君達よりも年上で先輩だというのに、何も出来ずに…申し訳ない。
不甲斐ないばかりだよ」
「いや、サーニャさんが居なかったら俺達は全員取り返しの付かないことになってた。
サーニャさんとイリアさんのお陰で、俺達は救われたんです」
「……そう言って貰えると、少しだけ救われた気分だよ」
「でも本当に、皆が無事でよかったわよ。
それに、私達の方こそお礼を言わないといけないわね。
ありがとう、たった6人で、あの化け物を止めてくれて。
お陰で、私達は助かったわ」
「…いえ、俺達が止めなくても、きっと大丈夫だったと思いますよ」
「どうかしらね。犠牲者は確実に増えていたし
もっと悲惨な結果だったのは間違いないわ。
あなた達が必死に戦ってくれたお陰で、私達は救われたのよ」
もしあのまま、俺達が負けていたらどうなっていたのだろう。
もし、俺達が既にこの場から離れていたら、どうなっていたのだろう。
とは言え、そんな可能性を推測すると、ろくでもない未来しか想像出来ないがな。
とにかく、今回は勝利したことを祝おう、生き残れたことを祝おう。
あったかも知れない可能性は置いておいて、今は今を祝うとしよう。
あったかも知れない可能性なんて、所詮、かも知れなかっただけでしかないのだから。
今のこの結果こそが全て…被害を被った人達には悪いけど
俺達が全員無事だったという結果が…俺達には最も大事なのだから。




