囮作戦開始
「……」
あの後、俺達は城に泊まる事になった。
これは作戦の1つでもある。
イリアさんとラング様が相談して決った作戦。
(当然、囮作戦をするというのであれば城に留まって貰うしかない。
射程内にいないと、潜伏しているかも知れないモンスターは動かないだろうし。
だから、イリアねーさんとセイナには城に留まって貰う)
当然のことだ。俺達が帰ってしまえば、モンスターは俺を殺しにくいからな。
囮にするというのであれば、殺しやすい場所に居るしかない。
この場合考えられる攻撃は、毒殺と寝込みを襲う暗殺の2つになるかな。
で、最も効果的なのは毒殺ではあるが、正直これは危険でもある。
誰がやったかの特定が容易だし、ここは城だ。毒見もあるからな。
更には何が誰に運ばれるかも分からないから
誤って俺以外を殺してしまう可能性が出てくる。
(次に、私が密かにあなたの事を話すわ。
城の外に噂が出ないように取りはからうけど…もし出た場合は許して)
これも当然の判断ではある。
俺がネクロマンサーや吸血鬼を殺したと言うことを知らなければ
潜伏して居るであろうモンスターは俺を殺す必要性に気付けないのだから。
俺を殺して、モンスター側にメリットが無いのであれば行動は無いだろう。
俺が居る事がモンスター側に何処まで障害になるのか。
それを伝えないといけない。直接的にでは無いけどな。
(次に、イリアねーさんとセイナの部屋は別々にする。
イリアねーさんの部屋には厳重な警備を付けるけど
セイナの部屋には警備は殆ど付けない。
モンスター側は知られていると思っては居ないだろうから
この配置に何ら違和感は感じないと思う。
大商人と、大商人に着いてきていた護衛。
警備に大きな差があっても、何ら不思議はないからね。
警備の人数は2人。これで、潜伏しているモンスターが
近付きやすい体制を用意する。自主的に警備に志願した兵士が居た場合
その兵士がモンスターである可能性が浮上するから
ターゲットを多少なりとも絞ることが出来るはずだしね)
(いや、でも護衛と護衛対象が別の部屋というのは違和感があるのでは?)
(私があなたの事を知って。城に居る間は
仕事を忘れて休んで欲しいと告げたという事にするわ。
そうすれば違和感は無いはず)
(…確かに)
そして、ラング様とイリアさんの予想とは違い、兵士の志願はなかったが
これはまだ当然ではある。如何せん、情報を流す前だったからな。
だが、少しして兵士2人が変っているのを見た。
さっき部屋から出たときに姿が変っていたからな。
(次にあなたの本当の護衛として、あなたの部屋にナナを送るわ)
(ナナさんを?)
(えぇ、シオに伝令を頼んで一緒に来て貰う事にしたわ)
部屋には既にナナさんが待機している。
わざわざ部屋に専属メイドというのは不自然だが
正直、それは俺の様な庶民の感覚でしか無く
王族や大商人からして見れば当然なのだろう。
だから、この配置に大した違和感は存在しない。
「…ナナさん、今回の作戦は聞いてます?」
「はい、シオさんより事細かに聞かされました。
セイナ殿の身は我が命を賭して守ります」
ナナさんは声を細かにして心意気を告げてくれた。
本来なら大声を出したいのだろうが、そんな真似をしてしまえば
作戦が筒抜けになりかねない。
「なら、イリアさんとの情報共有はナナさんを通してしたいと思うので
その…お願いしてもよろしいですか?」
「はい、問題ありません。私はメイド、主にご足労を掛けぬ為にいます」
メイドが居るのにわざわざ自分で情報共有というのは不自然だからな。
そして可能性として、ナナさんが居ない間に襲撃を掛けてくる可能性。
だが、この場合はさほど問題ではない。
むしろ心構えが出来ていれば対処出来るから、ウェルカムって感じだ。
「しかし、武具がない状態で大丈夫ですか?」
「問題ありません。近接戦闘も当然心得ています」
「しかし、相手はモンスター…俺の場合は基本素手なんで大丈夫ですが」
「問題はありません」
「そうですか」
ならば信頼するとしよう。そして、俺はさっさと寝るとしようかな。
「じゃあ、ナナさん…俺は早めに寝ますので」
「はい、就眠中はお任せください」
「よろしくお願いします」
俺はふかふかのベットに入った…こんなの絶対寝られないが
既にイリアさんの家でこれと同じくらいのベットで寝ているから問題は無かった。
(セイナはお昼の間に眠って、夜に眠らないようにしてね。
眠ってる状態で奇襲を食らったらどうしようもないからね)
(ナナが来たら眠る感じでね? 護衛が居ないと恐いからね)
(分かりました)
ここまでは作戦通りに事が運んでいる。
いや違うな、事は運んでいない。何も動いていないのだから。
だが、今は何も動いていないと言うことが大事なんだけどな。
目を覚ましたのは午後7時、十分眠った。
ナナさんに起され、食事の場へ赴く。
そこで、イリアさんから多少習った食事のマナーで食事を始めた。
「……」
貴族や王族などの、位が高い人物達が行なう食事では
基本的に会話は無いという。
食事中はただ食事に集中する必要がある。
会話は食事の場ではマナー違反であり、何とも面白みのない食事が展開する。
俺のような庶民は、わちゃわちゃ話をしながら飯を食う方が良いんだけどな。
その方が食事は楽しいし、笑ってたら飯も美味く感じるからな。
とは言え、それはこっちの世界に来てからと言う話でしかない。
来る前は1人暮らしで、飯は1人で食べていたからな。
スマホを弄りながら、周回をひたすらして。
今、こっちで馬鹿話をしながらの食事を楽しんでいると
何だか、そんな事をしていたのが馬鹿らしく感じる。
「ごちそうさまでした」
食事に毒は盛られていなかったか…まぁ、既に毒見済みだろうし
盛られていないのは当然だとは思うんだけどな。
とりあえず、俺はすぐに自室へ戻る。
「……ここからですね」
「はい」
部屋に戻り、時計を見ながらナナさんと小さく会話をした。
ここからが最も重大で、危険な場面と言えるんだからな。
この状態から状況が動くと予想されるのだから。
俺が予想する危険ゾーンは午後11時~午前3時の間だ。
午前4時からは、人は浅い眠りに入り始めるから
下手をすれば、相手が起きてしまう可能性がある。
最も眠りが深くなるであろう時間は午前2時~午前2時半だろう。
せめてくるとすればその時間だと思うが、予想の範囲は広くしたい。
あまりにもピンポイント過ぎると、ちょっとね。
さて、時間も経ち、今は午後9時、普段ならもう寝てるだろうな。
だが、既に睡眠をしっかり取っていて、眠気はない。
そんな状態で、一応風呂に入る事になった。
「ふぅ…」
「お背中を流しましょうか?」
「え? い、いえ、良いですよ…」
俺はナナさんと一緒にお風呂に入る事になった。
しかし、湯船に浸かっているのは俺だけなんだけどね。
ナナさんはそこに居て、俺の世話をしてくれているだけ。
服は脱いでいて、下着を着用した状態だった。
流石に湯船でメイド服は過ごしにくいだろうしなぁ。
まぁ、裸になられたら、それは目のやり所に困るからこれで良いけど。
しかし……じ、自分の裸を見られるというのは何かいやだな…
俺は全裸だしなぁ…タオルとか巻いてた方が良いのだろうか?
だが、風呂に入るときにタオルとか巻かないからな。
「そう遠慮なさらず、お任せください!」
「わ、分かりましたよ」
ナナさんはどうも俺の背中を洗いたいようだ。
誰かに背中を洗って貰うと言うのは緊張するぜ。
何度か経験しているけど。
「では、失礼します」
あ、ナナさんって、背中を流すのスゲー上手いんだな。
中々に良い感じ…気持ちいいかも。
「では、前も」
「ま、前は自分で」
「いえ、遠慮なさらず」
しかし…やっぱりされるがままってなると、抵抗があるなぁ。
うへぇ、やっぱり恥ずかしい…女の人に身体を洗って貰うと言うのは
凄い背徳感! まるでソープだぜ! 行ったこと無いけど!
と言うか…今更なんだけど俺の状態って、結構な勝ち組では?
見た目女の子だから、女の子とイチャイチャし放題というのは実に素晴らしい!
と言っても、この世界は女の子である地点で相当やばそうだけど。
(ヤバいですよ? 狙われますからね)
(…人の心を読まないでくれます?)
(今更ですね。まぁ、あなたの状態は勝ち組かもしれませんね。
超大物と知り合ったという地点でかなりの勝ち組。
お城に入れて貰ってますし、女王とのコネも手に入った。
まぁ、ハッキリ言って主人公って感じですね)
大体主人公は王族とか超大物とコネを持つからな。
俺の場合もその例に漏れていないと言えるのだろう。
一応は、この世界における主人公的立ち位置だし。
(しかし、主人公は何度も言いますがまた不憫な立ち位置ですよ?
今は勝ち組でも、結局魔王を倒しに行く事になりますしね。
更にはハプニングに巻き込まれやすい不幸体質でもあります)
(何でだろうな)
(そうしないと話が動かないからですよ、当たり前でしょ?
主人公が何もハプニング無く、ダラダラ過ごす作品が面白いわけ無いでしょ?
いえ、日常系ならありかもですけど、エロゲーでは無しでしょ。
エロシーンのないエロゲーとかクソゲーも良いところですよ)
(それはそうだが…でも、あくまでモチーフにしていると言うだけで
マジにエロゲーの世界であるという訳では無いだろ?
それなら、エロシーンがなくても良いんじゃね?)
(実際、今までありませんからね。主人公のくせに)
(死にかけた事は沢山ありました、しっかりリョナ系エロRPGの主人公してます)
(エロがないと。そうしないとただのグロゲーですよ?)
(……そ、そこまでグロくなくね? 腕ちゃんと付いてますし)
(もげそうになってたくせに)
た、確かにそんな事はあったんだけどな…あはは。
(まぁ、入浴シーンは沢山ありますし、セーフですか)
(アウトじゃないのかなぁ?)
(エロゲーとしては問題ありません)
正直、エロい目には遭いたくない…遭わせる立場が良い。
(しかし、主人公のエロシーンが9割の作品予定だったんですけどね)
(どんだけ主人公嫌いだよ!)
(主人公が女だった場合は割とよくありますよ)
(確かにあるけど! 俺はその立場にはなりたくないね!
電子世界の住民ではないのだから! リアルだから!
エロシーンに入って精神崩壊からのデスルーラとか出来ないから!)
(出来ますよ? 私が居ます)
(そうだけど…てか、今更なんだけどルアさん)
(はいはいなんでしょう?)
(…何処から話し掛けてんの?)
今更だが、ルアはこの周りには居ないからな…ナナさんにバレても困るだろう。
普段は服の中に隠れているけど、今は服着てないし。
(おや、私がその気になれば姿を完璧に消すことなど造作ないのですよ)
(じゃあ、なんで普段蝶の状態で服の中に居るんだよ、消えてりゃ良いじゃん)
(消えてると攻撃がねぇ)
き、消えてたら攻撃が出来ないのか…ならば今は暴れ放題では?
と思ったが、ナナさんが居るし下手な事は出来ないよなぁ。
「うわぁ!」
「あ、大丈夫ですか?」
か、考え事をしている俺を現実に連れ戻したのは不意に掛けられたお湯だった。
熱湯ではないし、冷たい水という訳でも無かったけど、不意で驚いた。
「こ、声は掛けたつもりだったのですが…聞えてませんでしたか!?」
「あ、は、はい」
「も、申し訳ありません! 確認をしないばかりに驚かせてしまい!」
「あ、大丈夫ですよ。別にこれ位。ちょっと驚いただけですし」
「しかし、私の不手際で!」
「大丈夫ですって、大事には至ってませんし。それに次気を付ければ。
そもそも、今回は考え事をしていた俺に非があるので」
「ありがとうございます! 以後、このようなことが無いよう気を付けます!」
…まぁ、何か…これはこれで楽しいかも?
(意外とMなんです?)
(いや、俺はNだ)
(ならば私はSですね)
(……ん?)
(すみません、不意を突きすぎました。磁石です磁石)
(……あぁ、俺がNでお前がSと…引っ付くじゃん)
(この世界に居る以上、私は離れないという意味ですよ)
(何だよその言い回し、告白ですかぁ?)
(おや、ただの腐れ課金野郎が随分な口を叩きますね?
私、女神ですよ? 監視しているという宣言です)
(そんな暴言を…容赦ねぇ)
(あなたは常に監視されています。精々気を付けることですね)
(は、はーい…)
こう言う暴言には、大体照れ隠しとかが入っていて欲しいと願うが
ルアの暴言にはそんな照れ隠しの要素など無いんだろうなぁ。
やれやれ、女神様にフラグを建てるのは大変か。
ま、俺はマリスルートを目指すだけだけどな!




