ついに王都へ
さて、災難が続くかと思ったが意外と最初だけだったな。
後は特に大きな問題も無し、アドバイスにしたがって
村を見付け次第泊まって休む方針に変えたから
王都に到着するまでの予定時間は大分伸びた。
それでも、その甲斐あって災難は降り注ぐことなく無事に到着した。
「はぁ…これが王都」
でっかい…小さめの高層ビルと同じくらい石造りの巨大な壁で
窓が上下左右で広い間隔で設置されていてる。
窓の中に誰かがいるようにも見えるが
それよりも俺は城壁の上が気になった。
この高さの建造物を前にすれば、最初に気になるのはやはり頂上だろう。
城壁の上に居る兵士はここから見ればまるで豆粒にしか見えない。
と言うか、ワーウルフだから見えてるけど
城壁の上に居る兵士なんて、一般人は見えないんじゃ無いか?
そんな懸念すら覚えるほどに高かった。
次に特徴的なのがやはり窓だろう。
何故窓を設置しているのかを想像するのは簡単だけどな。
敵が来たときに迎撃をする為、ただそれだけだろう。
見張りとしても機能はしているんだろうけどな。
城壁があまりにも高いから、地上は見えにくいし。
でも、流石に超巨大な
何でこんなに城壁を高くしているのかは謎だけど。
「王都と言えば王都だけど、あれはただの城壁よ?」
「はぁ…圧倒されるわ…わ、私も田舎者ねぇ…」
「一応、軽く説明してあげると、城壁の所々に彫られてる紋章、見える?」
「は、はい」
「あの紋章は説明するまでもなく王家の紋章なの」
蝶が描かれているのは何となく分かる。
蝶が5匹、その中心には少し大きめの花が1つ描かれていた。
「ラルノ蝶が5匹、中心にラルフの花が描かれているのよ」
「ラルフの花? ラルノ蝶?」
「魔力を纏う珍しい花でね、モンスターが嫌う花でもあるの。
だけど、私達人間からして見れば言い香りはするし、綺麗な花なの。
寿命も長くて、10年以上持つ事もある、奇跡の様な花。
だから、花言葉は長寿、除災、栄光、絆とか、好意的な物が多いわ」
へぇ、だから紋章にその花を描いているのか。
「で、ラルノ蝶はそのラルフの花が大好きな蝶でね。
導きとか、栄光への道、とか、そんなイメージを持たれているの。
5匹描かれている蝶はこの国を作り出した5人の英雄を指してるの。
つまり、その5人の英雄達のお陰で我々はモンスターの脅威から
身を守ることが出来る、この村を作りあげた。と言う意味があるそうな」
「5人の英雄とか、何だか格好いい響き!」
「私も気になります、5人の英雄」
「ふふ、良いでしょう。とは言えおとぎ話だけどね」
「そうなんだ…少しがっかり」
「マリスちゃん落ち込まないで、歴史なんておとぎ話みたいな物なんだから。
私達は正しい歴史なんて知らないからね。
その場に居なかったんだし、だから、歴史なんて意外と大した事無いよ。
凄いことをした人が居たって話があっても
それはもしかしたら、何処かの誰かが作り出した幻想なのかも知れないし
こんな話があれば盛り上がるかも、と言う事で適当書いただけかも知れない」
「――?」
イリアさんの言葉を聞いたマリスだったが、全く理解できていない様子だ。
あの話を聞いても、キョトンとした間の抜けた表情で首をかしげてる。
は! 今気付いた! マリスの尻尾が動いている!
ピンと立ち上がって、クルクルと同じ様に回っている!
何故だ! 何故俺は今まで、マリスの尻尾に注目していなかったんだ!
マリスには尻尾と耳が生えているんだぞ!? 感情の変化で動いてるはず!
クソ! マリスの可愛らしい顔にばかり目が行っていたという事か!
何という事だ! 尻尾を! マリスが喜んでたりしてる間だ!
元気よく動く尻尾を見たかった! いや! 見れば良いんだこれから!
よし! 見る! 今度からはマリスの尻尾にも注目せねば!
「ま、何が言いたいかって言うとね。
昔の話よりも確実にある今の方が大事って事よ。
昔なんて知っても、だからどうしたの? ってなるからね。
そりゃあ、先人の失敗から先の行動を学ぶと言う事は大事だけど
それなら歴史はただの資料としてみていれば良いのよ。
大事なのはこの先、どうやって行くかって事。
国に関しても、今まで安定してたからこの先も安定する。
なんて保証があるわけじゃ無いからね。
ある日突然、国が滅ぶかも知れない。
ある日突然、国にモンスターが出てくるかも知れない。
そんな可能性を考えて、対策して、対処して行くのが1番大事よ」
「うん! やっぱり分からないや!」
「ふふ、7歳のあなたには難しいでしょうね。
でも、きっと為になる日が来ると思うから
お姉さんのさっきのお話し、頭の片隅にでも置いておいてね」
「分かった!」
ぐぅ、俺が世紀の大発見をして居る間にかなり難しそうな話を…
まぁ、難しい話は得意ではないし、気にしなくても良いかな。
「あ、因みに壁がこんなに高いのは、飛行型のモンスターが居るからよ。
何かあった時、城壁の上から対処出来る様にね」
見栄とか、そう言う理由ではなく、凄くまともな理由だったんだな。
流石名君と言われてるだけのことはある。
「それじゃあ、手続きを済ましに行きましょうか、レベッカちゃん」
「はい」
俺達はそのまま門の前まで移動した。
石造りの壁とは対照的に、門は木造だった。
とは言え、城壁の門。簡単に突き破られては困る。
だからなのか、木造の門は鉄で何カ所か補助されている。
門は閉じたままだから、厚みまでは分からないけど
これならそう簡単に破壊されることはあるまい。
「イリア・シャルロッテ・ビルドレート様、お帰りなさいませ」
イリアさんに気付いた門番が驚きの表情を浮かべた後
すぐに敬礼を行ない、名前を呼んだ。
顔を見ただけで、すぐに反応してくれるって言う事は
イリアさんはかなりの有名人だと言う事だ。
「長いわよ、イリアで良いって言ってるのに」
「しかしながら、モニアドールの大商人であるあなたを呼び捨てなど」
「良いから良いから、でもまぁ、好きに呼んで良いわ。
あなた達にも体面とかあるでしょうしね」
「ご理解、感謝いたします」
「で、いつも通りすぐに門を開けてくれたりはしないのね」
普段は顔パスなんだ…流石有名人……
「そうしたいのは山々なんですが、今日はどうも部外の者を護衛にしている様ですし
流石に、名前等を名簿に記入していただかないと」
「何? 私が護衛に選んだのよ? 信頼あるメンバーに決ってるじゃない。
と言うか、賊とかそう言う類いだったら私は五体満足で帰ってないわよ。
と言うか、この子達が居なかったら、私はここに帰ってきてないし、恩人よ?」
「左様ですか、護衛の皆様、イリア・シャルロッテ・ビルドレート様御身を
お守りしてくれて、感謝いたします」
「ど、どうも」
俺達に敬礼をしてきたのか…最初はしてこなかったのに。
まぁ、街道は安全だと門番も思っているだろうし、それが理由かな。
「2回以上命を救われてるし、お守りってレベルじゃないけどね」
「今回の旅で2度も命の危機を? しかし、街道は」
「今は安全じゃないみたいでね、だから護衛を付けてきたのよ」
「参考までに、どの様な事があったかを聞かせて貰っても?
街道が危険な状態であるという話を聞いた以上は…
やはり、例のネクロマンサー関連ですか?」
やはりモンスターが活発になってきているという話は来ているようだ。
だが、そこまで信じていなかったと言う事か。
今でもちょっとだけ疑ってる様子だし。
今まで話を聞いてこなかったから、この門番達もそこまで深刻とは思って無かった。
少し平和ボケをしている様な感じがするな。
「はい、この紙で良い?」
イリアさんが手に持っていた魔法の鞄からメモ紙の様な小さな紙を出した。
門番達はその手紙を一言告げた後受け取り、メモ紙の中身を確認する。
「……こ…この内容に…う、嘘などは…?」
ある場面で2人とも明らかな動揺を見せた。
「嘘偽りがある訳がないわ、そんな国をざわつくほどの内容でね。
ましてや私は国でもかなり名前が通ってる商人。
そんな商人がデタラメを書いて、いたずらに国を動揺させる筈が無いでしょ?」
「…左様ですね、しかし…にわかには信じられない」
門番がこちらの方を見た。あ、何となく何処で驚いたのか分かった。
いや、驚く場面って何カ所かあるし、どうなんだろうか。
しかしながら、俺達が関連しているのは確定だな。
「何処の事かは分からないけど、ひとまず凄いでしょう。と、言っておくわ。」
「は、はい…」
「サイン、貰えば?」
「い、いえ、流石にそこまでは」
「あらそう、折角のチャンスを逃がすとはねぇ、後悔するわよ?」
「いえ、我々にも一応、プライドはありますので」
ふっふっふ、何だか褒められている気がする!
「それじゃ、通って良い?」
「いえ、まだ名前等を」
「…はぁ、仕方ないわね、あなた達」
「はい、分かりました」
俺達3人は全員、自分の名前と出身を記入した。
一応、ギルドの一員だからギルドランクを書く。
「ら、ランクがG? し、新人の…」
「あ、はい、新人です」
「……し、支部に問題があるのでは?」
「いえ、ありませんよ。よく知ってますから。
なので、この事はどうかご内密に」
「は、はぁ…分かりました」
アリスさんが気を利かせてくれているのを無下には出来ないからな。
アリスさんは俺達の事を大事にしてくれている。
だから、心配してくれて今はまだ報告するべきではないと判断したんだろう。
王都に何があるかは分からないが、俺達よりも王都に詳しいアリスさんの事だ。
絶対にちゃんとした理由がある…俺達はアリスさんの判断を信じる。
「では、中へ」
「ありがとうございました」
さぁ、王都の中へ到着だな。
(おほん、では晴夜さん)
(む! 誰だ! 心の中に直接声を送る奴は!)
(……お仕置きされたいのですか?)
(いや、マジですみません…これはあれだ。
超久し振りに声を聞いたから)
あの襲撃後、道中でルアが声を出すことはなかった。
だから、半分忘れていた、女神のことを。
と言うか! スキル購入の事完全に忘れてたし!
はぁ、報酬額を預けてあれ以降、未だに何も買っていない。
まぁ、ここまで使わなかったんだ、ワービースト狙って貯めるとするかな。
(しばらくの間話をしていなかったのは事実ですけどね。
では、話に戻ります)
(お、おう…と言うか、大事な話?
俺は今から街並みをしっかりと観察して)
(大事な話です、街並みはいつでも見られるんで後にしてください)
(わ、分かったよ…)
今まで何度か逆らって分かったことだが、こいつには逆らわない方が良い。
何でも無い事だと無視でもすれば、俺の人生は終わる。
俺の人生というか、貞操が終わる。だから、話は聞かねばなるまい。




