勇気の一言
うへぇ、頭が痛い…吸血鬼に血を吸われて
マリスの姿を見た後から記憶が曖昧だ。
しかし、記憶が曖昧になる直前のあの姿。
超絶美少女に変貌していたマリスの姿は脳裏に焼き付けられている。
「あぁ、頭痛い…」
「あ、お、おきま…」
「あぁ、起きたよおはよう…ん? どうしたんだ?」
目が覚めて最初に挨拶をしてきたのはレベッカだった。
しかし何だか雰囲気が大分違うように見える。
普段はもう少しドライな感じで話し掛けてくれていた気がするが
今は何だか、露骨に何かを意識して口が開かないような
そんな風に見えた。
「レベッカ?」
「だ、大丈夫!」
俺の疑問を聞いて、何故大丈夫と言ったのかは不思議だった。
普通に名前を呼んだだけで、あの反応は意外だ。
それに顔も隠してる。しかし、僅かに見えたその頬は赤くなっているのが分かった。
何かを意識してる。それはすぐに分かるのだが、何を意識してるかはまだ不明。
しかしだ、何か勇気を出そうとしているのは分かった。
ならば俺は何も言わず、レベッカの言葉を待つとしよう。
「……すぅ…はぁ…」
大きな深呼吸の後、意を決したのかレベッカの表情が変った。
「せ、セイナ!」
「お、おぅ」
「え、えっと…これからは私も敬語を使わないで、は、話すから…
そ、その…あ、い、いきなり話し方を変えたのは! その!」
「……へへ」
どんな重大発表かと思ったら、なんだそんな事か。
笑うつもりはなくても、俺の口元は無意識に緩んだ。
俺の反応におどおどしてるレベッカはかなり新鮮に見えた。
「え、えっと…」
「ありがとう、普通に話してくれて」
「はへ!?」
「俺もその方が気楽で良いよ、何か今までは距離がある感じだったけど
普通通りに話して貰えるのは、こっちとしても気が楽だ」
「ほ、本当? だ、大丈夫? この喋り方で」
「あぁ、そっちの方が嬉しい」
「……」
レベッカの目元がきらりと光る。
何の光かは考えるまでも無かった。
その涙は喜びから来る涙。
悲しみとか、そう言うのから来る涙なら気になるが
喜びから来る涙なら、ただ見られて嬉しいと感じるだけだ。
「…ありがとう」
レベッカのお礼の言葉。この言葉も俺は聞けて嬉しかった。
どんな理由であれ、礼を言われて悪い気を起す奴はいないだろう。
理由が不鮮明であれば、疑問を抱くことはあるかも知れないが
このお礼の理由は非常に分かりやすかった。
自分を変えようと勇気を出し、その変化を受入れて貰えた。
今までの環境を変えようとする最初の1歩ほど重たい物は無い。
その1歩の先にあったのが成功だった…喜ぶなと言う方が無理だろう。
「ん」
扉の向こうで何かが動いた様に思えた。
誰かがこの光景を見ていたというのだろうか。
だとすれば誰だ? どんな人物かは分かるが
その人物が一体誰かまでは分からなかった。
それからマリスも目を覚まし、俺達は村を後にすることにした。
馬は無傷、馬車も損傷は何処にもなかった。
「待ってくれ」
「お?」
俺達が馬車に乗り込もうとすると、1人の女性が声を掛けてくる。
この村のギルドに居た剣士の人だな。
「前回のアンデッド襲撃、君達のお陰で事なきを得ることが出来た。
何か礼をしたいのだが…報酬金などは出なくてな。
依頼があったわけでも無いし、吸血鬼の件も
君達が撃退したという確固たる証拠もないため…その…非常に申し訳ないのだが」
「いえ、いいですよ報酬は、俺もただ命が惜しくて戦っただけなんで」
決して村のために戦ったわけでは無い。
俺が戦った理由はただ単にマリス達を救いたかったからだ。
その為に囮役を買って出て、生き残る為に吸血鬼の意識を奪っただけだ。
「いやしかし、私の気が収まらない…吸血鬼は本来なら
S級の冒険者がようやく相手できる程の実力。
そのモンスターを撃退したというのに報酬も何も無い。
そんな事、私は認めたくないんだ。
だから、これを…吸血鬼撃破の報酬には遠く及ばないが
推薦状だ、村のギルドで戦ってるギルド組員全員分の推薦状」
推薦状か、名前と判子にサインした人物のランクが書いてある。
1番ランクが高いのは、このサーニャ・イース、ランクAか。
ランクAって相当上位なんじゃねーの?
この上はまだあるみたいだけど、SとかSSSとか。
「へぇ、あなたAランクなのね、流石前衛ね」
「え? このAランクは…」
「あぁ、私だ、一応前衛だからな。
現状、前衛の数は少なく、前衛と言うだけで評価はかなり上がる。
あくまで評価だけだがな」
アリスさんも前に前衛のことは話してたからな。
評価その物は簡単に上がったとしても、あまり嬉しい話ではないが。
「とは言え、一応はランクA、ギルドにこの推薦状を送れば
中々にいい待遇をしてくれるだろう」
「はい、ありがとうございます」
「いや、お礼を言うのはこっちの方だ、お陰で村は助かったよ。
道中、気を付けろよ…あの吸血鬼が逃げたんだからな
夜間は必ず村へ泊まる事をお勧めする。
後は森等の側面は極力通るな。
吸血鬼とは言え、影ならば多少の活動が出来るからな。
発見されてしまうリスクを少しでも下げるためにも森等の
影が生じる場所は通らないことをお勧めする。では、幸運を
機械があれば、また何処かで会おう」
「はい、お体にお気を付けて」
「お互いにな」
前衛は生存率が非常に低い。
数少ない前衛仲間に会えたんだ、また会える事を祈るばかりだ。
サーニャさんと別れを告げた後
俺達は彼女のアドバイスに従い出来る限り影のない道を通った。
山道も越えるし、村があれば必ず泊まった。
俺はあの吸血鬼に目を付けられている。
そして俺はこのパーティーのライフラインでもある。
俺が連れ去られると言う事は、このパーティーの壊滅に等しい。
そもそも3人しか居ないパーティーの1人が抜ければ壊滅的だが。
……だがまぁ、何というか…護衛対象が増えるとは思わなかったが。
「いやぁ、美味しいわ~」
「……ち、サキュバス、なんで積み荷に混じってやがった」
「いやだって、あの村はそろそろ飽きちゃったし…」
「一言は言ったのか!?」
「言ったわよ~、問題無いってさ。
宿の方はしばらく営業できないし2人でも十分回るからって。
2人とも、私の旅立ちを祝ってくれてたわ。
お気に入りの相手が出来てよかったねって、うふ」
「じゃあ、なんで付いてくると言う事を俺達に告げなかったよ!」
「イリアが、積み荷に隠れてドッキリがいいかもって」
「イリアさん…」
「まぁまぁ、賑やかな方が楽しいでしょ?」
「ちょっと違うでしょ…」
「私も最初は驚いたけど、ちゃんと服着てたから今なら大丈夫だと思うよ」
「私、最初から服を着てたつもりだったんだけどなぁ…」
服と言ってもほぼ下着だったからな。最低限の部分しか隠してなかったからな。
ありゃ、マリスの目から見れば…いや、常人の目から見ればほぼ裸だろ。
あんな格好で出歩いてて、変態と言われても文句は言えないだろ。
「セイナ達に手を出したら許しませんからね」
「だ、出さないわよ…流石に吸血鬼をタイマンで倒す化け物に手は出せないわ」
「もっと褒め称えるがいい! 俺の活躍を!」
「お姉ちゃん最高!」
「ふふん!」
「な、なんて愛らしいドヤ顔…」
「自慢できるだけの事はしてるからな」
まぁ、殆ど地の利で勝利したような物だけど。
条件が少しでも違ってたら負けてた戦いだが
結果として勝てているので問題は無い。
「でもイリアさん、本当に今日も同室で寝るんですか?」
「何を当たり前の事を言ってるのよ」
「いやだって…ここはVIPルームとかではないから
広い部屋でも、流石に5人も眠れるような宿じゃ…ベット2つだけですし」
「安心しなさい、解決策は既に考えているわ!」
「は、はぁ…どんな物でしょう」
「セイナちゃんとマリスちゃん、後は大人が1人で1つのベット。
残り一方は大人2人で眠れば問題無いわ!」
「……」
まぁ、確かに俺とマリスは子供だからそれでも問題は無いかも知れない。
だが、大人2人の方はあまりにも狭すぎるのではないだろうか。
「と言うか、窮屈な思いをしてまで同室にこだわる理由は何ですか?」
「愚問ね、私は広い部屋など見飽きているの。
お金があると言うのはね、感動を簡単に買えてしまうと言っても過言ではないの。
だから、私はお金で買えない感動を味わいたい。
お金で買えない楽しいを手に入れたい、だから同室にするの。
お金では買えない楽しいが詰ってるでしょ?
広いだけじゃ面白く無いのよ!」
お金持ちじゃないと言えない台詞だ…
「まぁ、分かりやすく言うと賑やかなのが好きだからよ」
「何かシンプルにまとめたら凄くあっさりしてますね…」
「そう言う物よ…と言うわけであみだくじ!」
「あ、あみだくじ…ですか?」
「えぇ、あみだくじ! 既に決定してる2人に
あみだくじを作って貰って
私達3人がそのあみだくじに参加。
当たりを引けば2人と眠って、ハズレならば大人2人!」
……まぁ、俺達が何か苦労をするわけじゃ無いしやってみるか。
ひとまず俺はマリスと相談して、何処に当たりを置くかを決めて
適当に線を引っ張った。
「よし、私は真ん中!」
「私は左で」
「なら残りは私が」
「さ、あみだくじ!」
結果……当たりを引いたのはレベッカだった。
「ま、負けた…」
「引きが弱かったわ…」
「え、えっと…イリアさん…なんなら、こ」
「いえ、勝負は勝負。私の完全敗北よ。
交代なんて物は無し、勝負が穢れるし」
そこら辺は凄くまともだな。
ひとまず俺達はそのあみだに従い1日を過ごした。
王都までまだまだ距離はある。油断しないように凄そう。




