少女の悩み
吸血鬼の逃走の件でギルドの剣士さんはこっぴどく叱られた。
確かにあの吸血鬼を逃がしてしまったのは大きい。
私にもかなりの落ち度がある…危うくセイナさんを…
「レベッカちゃん、今日は元気ないわねぇ」
「あ、イリアさん…すみません、不甲斐なくて」
セイナさんとマリスさんは同じベットで寝ている。
セイナさんの一時的な魅了は今も覚めてはいない。
吸血をされて、もうすでに3時間は経過してるけど…
でも、意外と今まで通りという感じで安心したのはある。
もしあの魅了で2人の関係が壊れていたら…想像すると少し恐い。
そう簡単に壊れる関係では無いとは思うけど
でも、仲が良い2人だから関係が進みすぎて壊れてしまう。
姉妹以上の何かになってしまったりしたら…でも、それは私が憂う事じゃないかな。
「あら、そんなはぐらかさなくてもいいのよ? お姉さんに話してみなさい。
あなた、あの子達の中で1番年上だからって気負いすぎてるでしょ?」
「そ、そんな事は…」
「私はこれでも商人よ? 人の心くらい、多少は読める。
あなたは今悩んでる。自分は2人の役に立ててないんじゃ無いかって。
そして、仲間外れでもある、だからこれ以上仲間外れにはなりたくない」
「……あはは、全部筒抜けです?」
「まぁね、だからほら、私に話しても良いのよ?
依頼人だからって気にしないで、年上は利用する方が良いわよ?」
「利用って言い方は…あまり」
「それ位に考えてる方が、人間関係は楽よ?」
「楽かも知れませんが…それは何だか逃げてるような気がして」
「逃げれば良いと思うけどね、面倒な交流なら
適当に流しながらすれば良い、それが楽よ。
それがいやって言う事は、レベッカちゃんは私との交流
そこまで嫌いじゃ無いって事でいいのかしら? ふふ、嬉しいわ」
「勿論、イリアさんとの交流は大事ですからね」
「そ、なら余計に話して頂戴、悩みを打ち明けて貰えるって言うのは
信頼して貰ってる証拠でもあるのだから。
商人は証拠が大事なの、確かな証拠がね」
「……分かりました、イリアさんには敵いませんね」
「経験が違うのよ」
全くその通りだと思う、まるで私の全部を見透かしてるような感じ。
商人さんと交流をする事は何度かあったけどこんな感じなのかな。
「…えっとですね、実は私、今すごく幸せなんです」
「そうなの?」
「はい、セイナさんとマリスさんと一緒に旅が出来て凄く幸せです。
お2人に直接はなすことは出来てませんけどね」
「言っちゃえば良いのに、それとも恥ずかしいの?」
「えへへ、実を言うとそうなんです。恥ずかしいんです」
子供相手に恥ずかしがる必要は無いってセイナさんなら言うんだろうなぁ。
自分の思ったことをすぐに行動に移せるセイナさんだからね。
あの行動力は本当に憧れる…やっぱり、私が憧れた人達の娘なんだって分かる。
「セイナさんの両親って、凄く強い人達で…
私はずっと、その人達に憧れてたんです」
「あら、楽しいの? 一緒に旅が出来て」
「はい、セイナさんとマリスさんのご両親。
父親はセリス、母親はマリナって言うお名前だったんです」
「あら、2人の名前にそっくりね、お互いの名前から取ったのかしら」
「はい、そう言ってました。双子だったから自分達の名前を合せたって」
「へぇ、素敵ね双子の姉妹って」
「はい、お互いに支え合って生きて欲しいとも言ってました」
「素敵なご両親ね」
「はい、私も憧れるほど素敵な方々でした」
セリスさんとマリナさんは本当に強い人達だった。
セリスさんは男だって言うのにモンスターを相手に
女性以上に有効打を与えられるほどの手練れ。
危険な前衛も自ら買って出ていた人。
マリナさんはそのセリスさんへの的確なサポートが得意。
動きが速く、並の狩人では追いつけないセリスさんの動きを完全に読んで
正確無比な矢で支援をするようなスナイパーだった。
私じゃ射抜けないような獲物も一瞬で射抜くほどの弓矢の腕前は伝説だった。
弓矢はセリスさんも扱えて、こっちは常人では扱えないほどに
強靭な弓を扱い、獲物を貫き殺す攻撃型の人だった。
私もセリスさんの弓を1度使わせて貰ったけどビクともしないほど固かった。
「私もお2人のご両親の元で修行をさせて貰っていた時期もあるんです。
お父さんお母さんは2人をライバル視していましたけど説得して
色々と教えて貰ってたんです」
「じゃあ、あなたとセイナちゃん達は知り合いなのね」
「はい、2人は覚えてないでしょうけどね
色々と教えて貰って他のは狩り時ばかりでしたし
家にも上がらせて貰った事はありますが殆ど寝てましたし。
特にセイナさんは行く度にいつも寝てました」
「あら、お寝坊さんなのね」
「はい、かなりのお寝坊さんでした」
ご飯の時間ですら眠りながらご飯を食べてた。
うとうとしながら、マリスさんにご飯を食べさせて貰ったりしていた。
うとうととしているセイナさんの口元に必死になって箸を伸ばして
食べさせようとしているマリスさんの姿は健気で可愛かった。
口元に来たご飯に反応して眠りながらでもセイナさんが
そのご飯を食べてくれたときのマリスさんの嬉しそうな表情も覚えてる。
「そして、私が少し大きくなった頃ですね
私、2人に言われたんですよ。
娘達が大きくなったら、そのお世話を頼むって」
「そうなの?」
「はい、きっと2人はいつかこの村を出ることになる。
その時が来たら、一緒に旅をしてやって欲しいって」
「あら」
「正直、こんなに早く旅に出ることになるとは思いませんでしたけどね…
本当なら、もっと力を付けてから一緒に旅に出たかったんです。
弓術(大)じゃなくて、最低でも特大までは成長したいって。
そうしないと、2人にご迷惑が掛るから。
信頼してお願いされたのに怪我をさせちゃってたら…世話無いですけどね」
「ふふ、あなたも意外と馬鹿ねぇ~」
「え?」
「冒険をするってのは怪我をしてこそなのよ?
怪我をしないで旅なんて出来ないわよ。
それに、その2人はきっとあなたの事も大事にしてるわ。
信頼してるのは間違いなくそうでしょうけど
きっと、あなたに抱いていたのは成長して欲しいという願い。
2人と一緒に怪我をしたり、辛い思いをしたり、悩んだりして
一緒に成長して欲しいという想いが込められてるのよ。
自分の技を教え込んだ弟子なんて、娘に近いでしょうからね」
「あ……」
「あなたは2人のお姉ちゃんとして堂々とすればいいのよ。
お姉ちゃんらしく、色々と悩んだりして成長していけばいいのよ。
必死になって強くなろうとするその姿を見て妹達も成長する。
だから、安心して…あなたが孤立することはないわ。
だって、あの子達のお姉ちゃんなんですもの」
お姉ちゃん…私が2人のお姉ちゃん…そんな事、考えもしなかった。
「だからね、敬語、止めちゃっても良いんじゃ無いの?」
「敬語を?」
「えぇ、敬語は距離があるからね、家族なのに敬語で会話って寂しいじゃない」
「……あ、あはは、さ、流石にそんないきなり馴れ馴れしくは出来ませんよ」
「じゃあ、私が依頼をしたと言う形にしてあげる」
「え!?」
「そのままだと、いつまで経っても敬語のままだからね。
折角だから、お姉ちゃんがチャンスを与えてあげるわ。
といってもこのチャンス、強制なんだけどね」
「な、なんで私の為にそんな事まで」
「私、じれったいのは嫌いなの。
それじゃあ依頼、2人に対して敬語をやめなさい。
少なくとも私と一緒に行動している間は止めて?
報酬額は…そうね、30万?」
「そそ、そんな報酬とか要りません! わ、私の為にしてくれてるのに
どうしてイリアさんが報酬を!? おかしいですよそんなの!
い、依頼と言うことでは無く、指示という事にしていただけば」
「いやよ、私は1度言ったことは曲げないの、30万を出すから敬語をやめて」
「おかしいですよそれは…」
「理由はさっき言った通り、じれったいのは苦手なのよ。
長く一緒に旅をするんだから、不快感を得るかも知れない物を潰すために
依頼という形で敬語を禁止した、これだけの事よ」
「でもそれは!」
「実は最初から依頼額は道中次第で上げる予定だったからこれで良いのよ」
「で、ですが」
「はーい、この話はもうおしまーい…私、楽しそうな人を見るの、大好きなのよ」
そう言い残してイリアさんはさっさと自分の部屋に戻ってしまった。
うぅ…ま、まさかこんな事になるとは思わなかった。
凄く申し訳ないよ…私の為に気を利かせてくれたのにお金を貰うって。
だけど…これ以上言っても話は地平線だというのは分かった。
なら……やろう! せめてものお礼として、楽しそうな姿をお見せしよう!
折角背中を押してくれたんだ、ここで引いたら女じゃない!




