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村への道中

ケミーが出発して3日後、俺達はこの小さな村から出た。

俺はこの村の名前は知らないのだけど、出発するときに見た看板には

ワードと書いてあったため、この村はワード村なんだろう。

村を出てすぐに、俺はマリスの違和感に気付けた。


「うぅ…」

「どうしたんだ? マリス」


マリスは不安そうな表情をし、俺に引っ付き挙動不審に周囲を見渡している。

まるで落ち着きが無く、初めて車に乗った犬みたいに不安そうにしている。


「もしかして…恐い?」

「こ、恐くないもん!」

「じゃあ、そんなにしがみつかないで欲しいな」

「お、おぉ、お、お姉ちゃんが恐いかなって思って!」

「ほぅ、それはありがたいな。

 だけど、お姉ちゃんは全く恐くないから大丈夫だよ

 むしろ歩きにくいな~、だから離して欲しいな~」

「つつ、強がってるんでしょ!? 仕方ないから、このまま!」

「いやいや、強がってないよ、全く不安無いしね」

「は、初めて村の外に出たのに!?」

「森にも行ったし、そこまで不安を抱くことも無いからな。

 森よりも見通し良いから、森よりも安心そうだし」

「で、でも! 今までずっと村にいて、その村から出るんだよ!?」

「大丈夫さ、お姉ちゃんは冒険家タイプなんだ、未開の地って良いよね!」

「うぅ~!」

「だから、離してくれないかな~、お姉ちゃん、動きにくいのはいやだな~」

「もぅ! お姉ちゃんの意地悪! 私が恐いから引っ付いてるんだよ!」

「あはは! それで良い! 素直が1番だ! 良いだろう、そう言う理由ならば

 そのまま引っ付いても良いぞ!」

「もう! 本当、お姉ちゃんって意地悪なんだから!」


むふふ、これは初のツンデレイベントでは無いのかね!?

いやぁ、強がりだけど恐がりの妹ってのも良いもんだなぁ。

しかも獣耳で幼女! 隙が無い可愛さでは無いか!

へっへっへ、正直、あんな事を言われて意地悪をしない様な

男はきっと居ない! と言うか、多分女でもあの場は意地悪したくなる!

ふふ、マイエンジェル、本当に可愛い!


(まぁ、彼女が可愛いのは認めますが、鼻の下を伸ばしすぎです。

 一応、安全地帯ではないのですから、周辺の警戒は忘れずに)

(分かってるよ、でも、こんな場面、意地悪しない方がどうかしてるぜ!

 ルアもそう思わない? 思うよね?)

(えぇ、多分私でも同じ様に意地悪を言います…可愛いですしね!

 しかしながら、あなたは自分の行動が彼女も自分の一生も左右すると言う事を

 しっかりと覚えておいてください、あなたの油断でモンスターに襲われ

 彼女は人生を棒に振るい、あなた自身もただの穴になりかねませんし)

(穴って表現止めろ)

(じゃあ、オナホールで)

(女神であるお前が言っちゃいけない言葉だ! てかその表現も止めろ!

 下手したら自分が道具になるとか、そんな表現止めろ!)

(なるじゃ無いですか、下手すれば意思を持たない道具や人形に)

(く! あぁ、そうだけど…この世界、本当に女には厳しいんだな…)

(男にも厳しいですよ、敗北=死ですし、当然ながらこの世界ですから

 お嫁さんモンスターに攫われ、帰ってきたら精神崩壊のガバガバとか。

 後、サキュバスも存在してるので、男が性的に安全という訳でもありません)

(いや、それはむしろ男的にはご褒美では…?)

(結局快楽地獄でしょうに、男からして見ればご褒美と?)


…考えてみると、ゾッとする気がする、ご褒美では無いのか。


(そうだな、ご褒美では…無いな、うん)

(分かればよろしい)


実際、当事者になったことは無いからあれだけど、実際はどうなんだろうか。

なってみたいという風に思う自分も居るには居る。

しかし、出来ればそんな状態になりたくないという自分も間違いなくいるし。


「あ、お姉ちゃん!」

「な、何だ!?」


考え事をしていると、不意にマリスの声が聞え

驚き、若干声を荒げてしまった。


「く、熊がこっちに来てるよ!」

「く、熊? 何で?」

「多分お姉ちゃんの声で興奮したんだ!」

「でも、ここは街道で、熊がいるってのもおかしいし!」


そもそも、熊が人を襲う理由は縄張りを守ろうとする習性のため。

と言うか、熊とかいたんだこの世界。


(あれは一応熊ですけど、分類的にはモンスターです)

(え!? 熊のモンスター!? どう違うんだよ普通の熊と!)

(まず爪を伸ばすことが可能です、結構自在に。

 相手を無力化するために、ターゲットを見付けると意地でも追いかけてきます。

 熊の場合は縄張りから逃げれば襲っては来ませんが、あれは襲ってきます。

 死んだふりも当然無意味で、使用すればその地点で拘束され敗北するでしょう。

 死んだふりをした場合、死んだふりをしている対象に致命傷を避けて爪を突き立て

 動けなくした後、巣に持ち帰り他のモンスターと同じ様に悲惨な目に遭いましょう。

 非常に巨大なので、精神崩壊も待ったなしなので絶対に掴まらないでくださいね)

(巨大って何が!?)

(言わせないでください、後、力が強いので拘束攻撃も避けてくださいね

 あなたならギリギリ脱出可能かも知れませんが、まぁ、格闘(特大)持ちで

 ギリギリ脱出なので、それ以下だと脱出は不可能。

 拘束された場合は背骨を折られ、身体の自由が奪われます)

(死ぬじゃん!)

(案外生きてるんですよね、それでも、特にワーウルフは生命力もありますし)

(マジかよ…つまり、拘束されないように立ち回り、致命傷も避けて動いて

 最悪拘束された場合は出来る限り抜け出せと)

(はい)


難易度高いな…


(クソ、どうしてそんなのがここにいるんだよ)

(不意に出てくるタイプのモンスターでして)


もしもこいつを2人だけで相手をしようとなると、結構厳しいんじゃ。

でも、狙った獲物を追いかけてくるみたいだし、逃げるという選択は無い…か。

図体的に考えて、俺は逃げる事は出来るかもだけどマリスは難しいだろう。

格闘(特大)の俺でギリギリ拘束から逃げ出せると考えると

身体能力もその状態の方が若干上ってだけでしか無いのだろうし

図体的に考えても、マリスという重りを背負った状態で

逃走は不可能に等しいと思われる。

なら、戦うしか無い、ターゲットを俺にするように立ち回ろう。


「お姉ちゃん! に、逃げようよ!」

「駄目だ、多分逃げ切れない、俺が足止めするから

 お前は後方から援護頼む」

「う、うん…でも、だ、大丈夫?」

「大丈夫だとハッキリ言えないから、お前に援護を頼むんだ」


最悪の場合の保険、拘束されたときにもし抜け出せなかった場合は

マリスの弓術に賭けるしかない、最悪の場合の保険という奴かな。

マリスにギルドへの伝達を頼むというのが無難な策ではあるのだが

それなりの距離を歩いているし、更にマリスは外に慣れていないみたいだしな。

しかし、あと少しで目的地だというのに、散々だ…

目的地に行って、ケミーとレベッカを呼ぶ方が良いかも知れないけど

この熊が邪魔で突破は出来ない…でも、それが1番である事は違いない。


「…やっぱり作戦変更、あの熊を突破してケミー達に報告」

「え!? どうやって!?」

「あの熊の注意を俺に惹きつける、至近距離に近付いて…その間にお前は

 村へ向って走ってくれ!」

「でも!」

「良いから!」

「うぅ!」

「この熊!」


俺は危険を承知で熊のモンスターに接近し、注意を俺に惹きつける。


「待ってて!」


その間に、マリスは熊の背後を通り、村へ向って走り出した。

それが確認できて、俺は安心したよ。


「ぐが!」

「いっつ!」


くぅ! 回避出来たと思ったのに、爪を伸ばして攻撃してきた!

深手では無いにせよ、これは結構いたいな。


「くぅ!」


熊はすぐに接近してきた…完全に俺を捕まえようとしている。

その瞬間だ、捕まえようとする瞬間、両手は広がる。

つまり、腹ががら空きになる、その拘束攻撃は

成功すれば勝利を確信できるが、代償として隙だらけなんだ!

この一瞬を物に出来れば、この窮地は脱せられる!

こぶしを握り、出来る限りの全力で腹を!


「な!」


俺が熊の腹をぶん殴ろうとした瞬間に熊の後頭部に巨大な矢が刺さった。

熊は動きが止まり、こちらに倒れ込んでくる。

何とか身体を動かし、熊の下敷きにならないように避けた。


「……誰が」

「妹を救いたかったのね、弱いのに健気な子、私達が通りかからなければ

 あなたは死んでたわよ? 妹を悲しませる事にならなくて、良かったわね」

「……」


ひ、1人じゃ無かったのか、それに、何で俺を囲んでいる?

不自然で不思議だ…普通は囲まないし、武器だって構えちゃいないだろう。

なんて、馬鹿を頭の中で装っても意味は無い…あぁ、分かってるよ、理解してる。

こいつらが…ピンクキャットだ、ピンクの猫の刺繍が鎧に付いてる。

胸当てとか、そう言う、防具にそのピンクの猫が書いてあるんだ。

ピンクキャットという組織を知っていて、そのターゲットを知っていて

更にはこの辺りにその被害が出ていると知っているというのなら

こいつらがピンクキャットだと言う事はすぐに分かる。


「安心して付いてきて、妹さんも後から連れてきてあげるから。

 妹よね、あの獣耳の可愛らしい女の子」

「そ…そうだけど…それに、連れてきてってどう言うことだ!?

 い、妹に何かしようって言うのかよ! そんなの許さないぞ!」

「あらあら、全く男勝りな子ね、妹の為にそんな性格になったのかしら

 可哀想に、女の子に生まれたって言うのに」

「……」


どうする? この場面、上手く立ち回れば一網打尽に…は、無理か。

流石に1人でこの数を相手にするのは無理がある。

数は10を超えてるんだ、しかも山賊、少数で今までやって来たとすれば

個人個人の実力は馬鹿には出来ない筈だ。

多分、俺を殺すと言うことはしないだろうが、ここで俺が暴れると

マリスの正体もバレちまうから、接触の機会が無くなりそうだ。

もしここで暴れなかったら…マリスに接触しようと動くだろうし

仮に正体がバレても、こっちは敵地内に居るわけだから

崩壊させるチャンスは残るだろう…ならここは。


「さぁ、行きましょう」

「く、来るな」

「もぅ、逃げようとしないで、怪我してるんだから」

「知らない人に付いていくなって妹に言い聞かせてるんだ

 姉である俺がそんな事をするわけには」

「本当に男勝りな子ね、背伸びしちゃって、はい」

「あ! 止め!」


抱き上げられた、抵抗しようとすれば抵抗できるんだけど

下手に抵抗すると正体がバレそうだし…仕方ない。

あまり強めに抵抗せず、嫌がってる風を装うとするか。


「離して!」

「子供の力で大人に勝てるわけ無いでしょ? 

 さ、暴れたら怪我が酷くなるわよ、大人しくして」

「お、大声で叫べば」

「それは困るから」

「むぐ!」


うぅ…ね、眠たく…あ、そうだ、寝たふりをしよう。


「うぅ…」

「よしっと、それじゃあ連れ帰りましょうか」

「そうね」

「この子、何が好物なのかしら」

「と言うか、馴染んでくれるか不安ね…今までに無いし、こう言うタイプの子」

「男勝りの女の子って、苦労してそうよね」

「そうね…後はこの子の妹、どうやって連れ戻そうかしら」

「姉が帰ってこないってなると、丁度来てるギルドの人達に保護されそうだし」

「あの場で捕まえていれば良かったわ…村に近いからって躊躇わないで」

「そうね、でもやっぱり問題はこの子よ、妹の為にあのモンスターと戦おうとする程に

 勇敢な女の子なんだし、どうやって抑えましょうか」

「力尽くはあまり好かないし…うーん」


……どうやら、お、俺がギリギリ起きてるのには気付いてない…

でも、やっぱり眠い…だが、に、逃げるときの為に…み、道は覚えておかないと…

うぅ…が、我慢だ…堪えろ…くぅ…あ、あぁ…やっぱ無理…意識…が…。

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