第九十二話
晩御飯を何にするか、神埼は冷蔵庫とにらめっこしていた。昼過ぎから慣れない勉強と一生懸命格闘していた林、深刻な顔をして緒方に何か話していた大塚、生徒会の仕事を頑張った緒方に美味しいものを食べさせたい。今までは二人分だったが、今日からしばらく倍の四人分を作る。緒方は疲れているだろうから自分が作ろうと席を立った。後ろから林がやってくる。「俺も手伝おうか?ご飯作ってるし」林も緒方と同じくらい背が高く、神埼とはちょうど頭一つ分の差がある。冷蔵庫をじっと見て、いろいろあるんだなぁと呟いた。「炒飯と鍋焼きうどんはどうだ?鶏肉があるから出汁も取れるし」醤油ベースの優しいうどん。よく煮込めば消化しやすくお腹にも優しい。神経を使うことが多かった四人にとって胃に優しく、みんなでつついて食べられる鍋はとても良いだろう。今日はきっと話し込んで寝るのが遅くなる。お腹が空いたときのために炒飯も多めに作っておきたい。神埼は頷きながら笑った。大塚と緒方は二人で話し込んでいる。昼過ぎに大塚が遊びに来たとき少し様子が違う気がした。いつもよりも明るくよく笑う。変な違和感を感じていた。大塚は人に悟られないように気を使う。緒方と似ていると言っていたけれど、一緒にいることでなんとなく大塚のことも感じ取れてきたようだ。「大塚に、神埼んとこ泊まれって言ったのは俺なんだ。どうしても引っ張り出したくて。大塚って一旦考え込むと、どこまでも深く考えるからな。生徒会や先輩たちのことでも疲れてたし」休息が必要だと思って。じっと林は神埼を見ている。大塚が胸に何かを抱えていることは神埼も気づいていた。きっとこの間話していた弟のことだろう。自閉症のことを神埼は詳しく知らないが、自分の感情を素直に出せず周りから理解されにくいと聞いたことがある。怒っていないのに怒っていると言われ、自分の気持ちを表現できない。もどかしいだろうなと神埼は思った。「うん。休む場所にここを選んでくれてありがとう。すごく嬉しい。大塚は本音を言わないんじゃなくて、言えないんだよね。この頃そう思うんだ」安心して自分の思っていることを言える場所。本当は自分はどう思っているのか、振り返り自分と向き合える場所。そんな休息できる場所が大塚には必要だ。自分の本当の気持ちを確認した上で具体的にどうするか。作戦会議のようなものだろう。神埼は大きく笑った。「俺、精一杯サポートするね。俺のすることがズレていたり、余計なことだったら教えて。誰かをサポートするのは初めてなんだ」大塚の力になりたい。緒方や林のように人付き合いはしたことがないし、経験がないけれど、何かできることがあると信じたい。邪魔にならないように、背中を押せるように。自分は自分のできることをしようと神埼は思った。林は優しく微笑んでいる。「心強いよ。緒方も神埼といるようになって変わったし。相談しやすいからさ」鍋焼きうどんの材料である鶏肉とキャベツを取り出している。変わったって?神埼は詳しく聞きたくて林に尋ねた。少し笑って林は緒方の方に視線を向ける。昔を懐かしむように目を細めた。「昔、俺が緒方を冷たいやつだって思ってたのは話したよな。加えて、あいつ。あんまり人に相談しないんだ。いつも一人で抱え込む。大丈夫じゃないのに、大丈夫だって思い込んでいるような。不自然だったんだよ。節々で」林は人の心を察知する能力に長けているのではないかなと神埼は思う。見えないものが否応なく見えるのだろう。感受性の強い林の洞察力が心の奥の扉を閉めてしまっていた緒方に反応したのではないか。そして警戒しつつも心配で、そばにいたのではないか。神埼は、うん。と返事をした。神埼が知らない緒方のことをもっと聞きたい。一人でいた時、自分から見た緒方は何もかも完璧で神埼の欲しいものをすべて持っていたように見えたけれど。それは自分が自分のことしか見えていなくて憧れや理想を緒方に投影していたのかもしれない。本当はあの時、緒方も苦しんでいたかもしれないなと神埼は思った。「でも、生徒会での演説もそうだけど。神埼のことで本気になったと思ったら、生徒会の仕事でも本気になっただろ?で、昨日なんて先輩たちにも遠慮なく素で話してたし。だから、安心して大塚を連れてきた」何かあった時に、今の緒方なら周りの先輩や家族に相談するだろう。自分一人でどうにかしようとはしない。大塚の話を聞きつつ、抱え込まないだろうなと林は安心した。林からすれば緒方も大塚も似ていて、能力は認めているが危なっかしい。周りに心を開いて助けを受け入れることを拒絶しているように見える。長い間、親の介護を一人でやってきたし、家計もどうにかやりくりしている。でも祖父が周りからのサポートを受け入れるようになって変わった。家計のやりくりは相変わらず頭を使うが、町からの介護支援制度や補助金がある。ヘルパーから安くて美味しい料理やちょっとした節約術を教わったり、温かい支援をたくさん貰っている。何より自分一人でするのではなく、協力してやっていくことに変わった。林にとって一番大きかった。誰かに頼ることができる。助けを受け取って任せられる。申し訳なさそうにしていた親も、今は嬉しそうに自分を送り出すようになった。「大丈夫だな。いっぱい迷惑をかけて頼りにしようって思った。何より、神埼は緒方よりも強いからな。緒方は神埼といると嘘はつかない」そのままの緒方になるもんな。林は神埼を見つめている。嬉しくて大きく頷きながらその視線を受け止めた。「美味しい鍋焼きうどんと炒飯作らなきゃね。とりあえずお腹を満たさないと始まらないよ!大塚は麺が好きだから、いっぱい食べてもらうんだ」鍋に鶏肉を入れて出汁を取った。野菜もたくさん煮込む。大塚や緒方の力になってほしい。元気になってほしい。神埼はありったけの心を込めながら話し込む二人を見守っていた。
皆様、おはようございます(*^^*)いかがお過ごしでしょうか?
買い物に行ってきまして、ポテチを買ってきました。突然食べたくなるポテチ。。偉大です。。
いつもかつもニケはくだらないことが大好きでございます。皆様これからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)




