第八十話
緒方を送り出してから神埼は目を閉じて下を向いた。少し目眩がしてふらふらする。疲れていたようで近くの椅子に座った。緒方と一緒にいたいが、緒方はなんだかんだと頼りにされていてそれを自分のために止めるのは気が引けた。神埼は何かを頼まれるよりも大切にされることが多く、気が向かなくても努力すればある程度できる緒方や大塚を羨ましく思った。「。。いいなぁ。。」本人たちは予定が変更されたり、怒りが湧いてきたりと大変そうだが神埼からみたらそれも格好よく見える。頼りにされて、実際に力を尽くせば人があっと驚くようなことができて、説得することができる。神埼は頼りにされたことが少ない。頼りにされて自分なりにやってみるのだがうまく出来ていないらしく、周りからよく気を遣われた。「。。はぁ。。」緒方と自分を比べることは意味がないと思うが、こんなときに自分のなかでじんわりとした劣等感が溢れてくる。大塚も緒方に似て、本人は疲れるだろうが基本的になんでもこなしていく。緒方や大塚がいてくれるとそれだけで人が安心して事がスムーズに進んでいく。タイプといえばタイプだが、神埼は二人が羨ましい。緒方と一緒にいて久しぶりに落ち込んだ。「おーい。神埼。暇ならゲームでもならねえ?」下を向いていた視線を上げると林が笑顔で手招きしている。何だろうと神埼は席を立った。「トランプ!懐かしいなぁ。何やるの?」林はトランプをきってカードを混ぜている。ババ抜きでもやるか。中央にカードを置き、一枚カードを取った。神埼もその次にカードを取っていく。五枚のカードが手元にやって来た。すべての数字が揃っていなくて捨てることが出来ない。林はカードを取るたびに捨てていく。神埼は急に嫌な気持ちになってカードを机の上に置き、そのまま頭を伏した。「?どうしたんだ?。。ちょっと待ってろ。今日は妙に合うなぁ」カードを取るたびに数字が揃うらしくどんどん捨てていく。神埼はますます沈んだ気持ちになった。林は林なりの特技があって独特の雰囲気がある。人の心に敏感でさりげなく優しい。緒方と大塚が太陽なら、林は月のようだ。優しく暗闇を照らしのんびりと独自の道を歩んでいる。神埼は林のことも羨ましかった。自分は何かになろうとして努力しても結局同じ場所に戻っている気がする。自分にとってこれだ!というものを探して、または憧れたり羨ましく思うようなものになろうと努力しても時間が経つにつれ何も変わっていない。何かの役に立とうとしても、うまく出来なくて守られる。または気を遣われて距離を置かれる。ほとほと自分が嫌になった。「。。トランプ。。やりたくない。ちょっと眠りたい」自分が嫌になる。どうして自分はうまく出来ないんだろう。いつも守られるんだろう。緒方といて忘れていた。いつの間にか押し込んでいたものが溢れてきた。こんな自分が嫌だった。「。。。。」顔を伏しているので林の顔は見えない。きっと怒っているだろうなと神埼は思った。大切にしたいのに。ここで笑顔になってゲームの続きをしなければ。重い頭を上げようとしたときだった。林が神埼の頭をポンと軽く叩いた。「。。緒方に怒られるかもだけど。あいつに言えないこともあるだろうしな」何度か頭を叩いている。撫でるのは止めておこう。林の独り言が聞こえてきた。「さっき緒方とお前が見つめ合ってた時。緒方、本気だった。本気で怒ってたな」俺、初めて見たよ。林のくぐもった声が聞こえてくる。「あいつ、あんな風に怒るんだな。今まで同じことがあっても、にこにこ笑ってて。ちょっと違和感があったんだ」神埼の頭から林の手の感覚が消える。トランプを片付けている音が聞こえた。「よく怒らないなぁって。俺も感情的な方じゃないけど、変だなって。それで緒方とはよく話してたけど踏み込めないっていうか」がさごそとトランプを箱に入れる音がする。鞄にしまっているようだ。「表面では優しい奴だけど、逆に怖かった。冷たいっていうのかな。。。こっちが本気で感情ぶつけてもうまく避けられそうで。だから緒方のこと、あんま信用してなかった気がする」ごめんな。林は神埼の方を向いて話したのだろう。声が近くから聞こえる。「でも、神埼といる緒方って、何て言うか。。。あー、緒方だなって思うんだよ。隠してないな。こんな奴なんだなって。昔の緒方より安心する。こいつならぶつかっても大丈夫だってさ」緒方の感情を表現してくれるっていうの?こっちが本気で感情をぶつけたらさ、相手も相手の感情をぶつけてほしいだろ?そんな感じ。林はもう一度神埼の頭を軽く叩く。「だからお前が緒方と一緒にいてくれて、本当に嬉しいんだぜ。お前ってわかりにくいかもだけど、わかる奴にはもう十分過ぎるほどわかるから、あんま気にすんなよ」ポンポンと神埼の頭を叩いている。そんなものなのかな。神埼は先程まで沈んでいた心が少しだけ軽くなるのを感じた。そっと顔を上げてみる。林は神埼の頭を叩きながら何かを考えている。よくわからないが自分は必要とされているらしい。神埼は少し嬉しくなった。でもまだ心はすっきりしない。自分の一番気にしていることを林にぶつけてみたくなった。「でも。。俺はいつも守られたり気を遣われたりする。うまく出来なくて距離を置かれたりするんだ。いつも必要とされて、頼りにされて。実際にできる緒方と大塚が羨ましいよ」林くんだって。。。言いながらさらに落ち込んできた。神埼はまた顔を下げる。神埼の声に気づいた林が顔を向ける。きょとんとしていたが、急に大きな声で笑った。楽しそうに笑うので神埼はムッとする。自分に無いものを持っている三人が羨ましい。いつもうまくこなしていて格好いい。神埼は林を軽く睨んだ。「馬鹿だなぁ。神埼。守られるって凄いんだぞ。気を遣われていいじゃないか。距離を置かれるって俺らの方がよく置かれるよ!なに考えてんのかわからないとか。うまく出来すぎて可愛くないとか」風当たり強いんだぞ。よくはみだすし。目立つし。何かを思い出すように見上げている。「だから、お前ってすげえの。こんな俺らと一緒にいてくれるんだし。実際、神埼と一緒にいたら絡まれることも減ったしな」神埼いると、みんな優しいんだよなぁ。お前って大切にしなきゃって思わせるもんな。人に。楽しそうに嬉しそうに笑っている。「このまま守られとけ。で、これからも俺らを守ってくれよな」屈託なく笑う林は珍しい。林の笑顔を見ていると神埼の心のなかに温かいものが広がっていった。自分にはわからないが林たちの力になることは出来ているようだ。はっきりとした根拠はなくて不安だが、林は笑っている。神埼はほっとした。「本当に?誤魔化してない?」静かに顔を上げた神埼に林は大きく頷く。安心しきれていない神埼に、お前に嘘なんて通じるかよ!と無邪気に笑った。
皆様、こんにちは(*^^*)いかがお過ごしでしょうか?
今回の第八十話はとても悩みました。。どうしよう。。と。で、やっと書きました。なんか壁に出会っている気分です。出会えた壁くんとよく話し合って書いていきたいと思います。うーむ。。
ではでは皆様、素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)




