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常識くんと愛さん   作者: ニケ
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第五十七話

編み物を始めた。細かくて単純作業で目がしばしばする。一つ一つの編み目を懸命に作っていく。よく手作りには想いがこもるというけれど、こういうことなのかなと神埼は思った。2月も下旬になるとこれから少しずつ温かくなるだろう。だから、編み物なんて必要なくなると思ったのに。木村から手袋を見せてもらってその温かそうな、何とも言えない優しい雰囲気に心が踊った。手作りだと聞いて納得する。目には見えないが何となくその手袋から穏やかなものを感じたからだ。「初めは大変だけど、続けていたらいつの間にか、ね。冬の寒い時期しか使わないけど、その寒さが楽しみになるのよ。」雨が憂鬱なのに、傘がお気に入りなら楽しみになるでしょ。そんな感じだと木村は笑っていた。その手袋で頬をすっぽりと包み込んでいる。その姿は可愛くて、温かそうだ。「編み物、やってみたいなぁ。。」自然と出た自分の声に神埼はびっくりした。目の前の木村を見ると、わくわくとその目を輝かせている。やっぱり!!神埼くん、ハマると思うわ!!叫びながら荷物をまとめている。もう、帰るようだ。「もうすぐ生徒会も終わるだろうし、緒方くんが戻ってくるから帰らないと。神埼くんといるとまた大変だから。」楽しそうに笑っている。なんでそこで緒方が出てくるんだろう。よくわからないが木村はとても急いでいる。お薦めの本持ってくるわね。初めはマフラーがいいと思うわよ。にっこり笑って立ち上がった。その姿を見送ろうと神埼も立ち上がる。しかし、その場で止められた。「いいの、いいの。神埼くんはここにいてね。」まあまあと止められ、また明日と手を振りながら去っていく。その急すぎる動作に神埼はきょとんとした。木村の後ろ姿を見送った後、座ろうとしたとき後ろから声をかけられる。「神埼くん、お待たせしました。帰りましょう。」走ってきたのだろうか。息が上がっている。額を見れば少し汗をかいているようだ。緒方が神埼の荷物を持ち出した。ゆっくり帰ってくればいいのに。適当に時間潰しておくよ。笑って言ってみると、緒方は首を振る。嫌です。一言ぼそっと言った。追求してみるが、頑なにそっぽを向いて答えない。珍しいなぁと思いながら、神埼は緒方と教室を出た。木村から借りた本と編み棒と毛糸。本にはDVDが付いていたから、本とDVDを交互に見ながら編むことを進める。一行編むのがこんなに大変だなんて。やってみないとわからないものだな。神埼は目をこする。少し休憩しようとコーヒーを台所へ作りに席を立った。居間を見ると緒方が昨日作ったチョコレートケーキの残りをゆっくりと食べていた。お気に入りのコーヒーカップに温めた牛乳、その横には砂糖を置いて。コーヒーの匂いを嗅ぎながら飲み、うっとりとそのチョコレートケーキを一口ほおばる。目を閉じて何度も口をもぐもぐさせている。面白い。。まるでキリンがのんびりと草を食べているようだ。口が左右に揺れている。台所にきた神埼に気づいた緒方は素早くそばにやって来た。朝から部屋にこもっていた神埼を心配していたのだろう。さっきまで幸せそうに食べていたのに、それらをあっさりとほっぽりだしている。神埼の顔をしばらく覗きこんでいたが、安心したのか笑った。緒方からティータイムを誘われたが編み物が気になる。また部屋に戻って編み棒を握った。緒方の首にこの色のマフラーがあったら。そんなことをイメージするとどうしても編み物の続きがしたくなる。神埼はもう一度本を開き、DVD再生のボタンを押した。冬はあともう少しで終わってしまう。寒さもなくなって温かくなるだろう。だけど、どうしてもマフラーを編みたい。理由はわからないが作りたい。学校の帰りに買っておいた目薬をさしながら、神埼はまた編み棒を握った。

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