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常識くんと愛さん   作者: ニケ
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第五十五話

バレンタインデーがやってきた。教室に行ってみると楽しそうな雰囲気でふわふわしている。浮かれていてわくわくしていて、色で表現したら淡いピンク色だろう。緒方は思わず笑みがこぼれた。こうして改めて見てみると、クラスメイトたちは高校生らしく無邪気だ。いつもクラスメイトたちから鈍感だ、天然だとからかわれている緒方にとって、周りは同級生だが年上の兄、姉のようだった。緒方が家庭の中で末っ子であることもその要因の一つだろう。「緒方くん、いつもより増して嬉しそうね。」ふと声をかけられて横を向くと木村の姿があった。今日は髪を束ねている。その表情は柔らかく優しい。ほのかにチョコレートの匂いがした。「神埼くんは一緒じゃないの?」首を傾げて尋ねる姿は可憐だ。どこか心が和む気がする。しかし、緒方はそのことよりも木村の口にした言葉が気にかかった。なぜ神埼くんを!?緒方の叫びは木村の心に届いたのだろう。木村は突然吹き出した。「あははは!。。すごい顔。。!はぁ~。。そうじゃないの。神埼くんと一緒じゃないのに緒方くんが嬉しそうだから。どうしたのかなって。」チョコレートもらえるのね。木村は納得したように笑っている。自分の鞄の中から包み紙を取り出した。これ、神埼くんに渡しておいて。それから、花壇ではありがとうって。木村は緒方にウインクする。その表情はなぜか悪戯っ子のようだ。なぜ自分に渡すのか。釈然としない表情の緒方に木村は言った。「だって、緒方くん、嫉妬深いじゃない。その顔、もっと遠くから見ないと耐えられないわ。」頼んだわよ。くすくすと笑いながら木村は行ってしまった。その足取りは軽い。自分はそんなにも嫉妬深いだろうか。。。木村にはっきりと指摘されて自分を振り返ってみる。神埼と木村のツーショットが目に浮かんだ。確かに神埼と木村が一緒にいるところを見ると無性に悔しくて、何を話しているのかとても気になる。本音を言えばそばに行って聞いていたいし、自分もその中に加わりたい。しかし、それは余りにも情けないような、身勝手なような、何とも言えない気分になる。それに神埼と木村は仲が良い。卒業式も迫ったこの時期、緒方は何かと生徒会から呼ばれる。そのたびに昼休みや放課後は神埼とゆっくり過ごせないのだ。それだけでも虚しいのに自分がいない間、神埼はよく木村の花壇で過ごしているらしい。「。。花壇。。。」花は好きだった。しかし、それを知ってか知らずか花を見ると少し憂鬱になる。緒方は一人ため息をついた。神埼が可愛いことはよく知っている。さらにとても優しいことも。その繊細さが女子はおろか男子にも人気なのだ。長い間一人でいた神埼の良さが少しずつ開いていって、広く伝わっていく。人一倍傷ついたからこそ、優しい。その独特の優しさや心地よさに人は惹かれていく。緒方は遠い目をした。「いいことなんですが。。。寂しいです。。。」はぁーとまた大きなため息が出る。自分はこんなにも心の狭い人物だっただろうか。ぼんやりとしていたのだろう。不意に肩を叩かれる。反射的に振り向いたら頬に何かが当たった。自分の頬が視界に入って振り向けない。その何かはさらに緒方の頬をむにむにと突ついてくる。「緒方のバーカ。引っ掛かった!」神埼の無邪気な声がした。痛いです、と言おうとした瞬間、不意に甘い優しいカカオの匂いが鼻をかすめる。もっとよく嗅ぎたくて大きく息を吸った。目の前には可愛らしい小包のプレゼントがある。鼻をさらに近づけ勢いよく吸ってみた。甘く、優しい匂い。緒方は思わず目を閉じた。「緒方。ハッピーバレンタイン。」目を開けると、そこには神埼がいた。無邪気に笑っている。緒方のなかにどうしようもない愛しさが溢れてきた。さっきまであんなに落ち込んでいたのに。虚しかったのに。ああ、ずっとそうやって自分を翻弄してほしい。目の前の神埼に手を伸ばしてゆく。こんなにも温かいものがあるなんて。ここ!教室!!教室!!緒方!目を覚ませ!!自分の耳元で神埼が何か必死に叫んでいたが、緒方には聞こえない。その顔が真っ赤であることも緒方には届かない。助けを求める神埼の叫びがいつまでも響いていた。クラスメイトたちは遠くからのんびりと二人を見守っている。

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