表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
常識くんと愛さん   作者: ニケ
52/319

第五十二話

緒方が変だ。近くに寄ってきたと思ったら下を向いて眉間を手で抑えている。しばらくその状態で動かなくなり目を開けたと思ったら自分を見つめ、はっとしたように目をそらす。可笑しい。神埼はそんな緒方をぼんやりと見ていた。ちょっかいを出したくなったが、緒方はどこか苦しそうなのでそっと見守っておこう。ここは一人にした方がいいかもしれない。神埼はなだめるように緒方の頭を撫でて安心させるように笑った。緒方の動きが止まる。「緒方。ちょっと購買まで行ってくるから、ゆっくりしてろよ。」そんな自分を呆然と見やる。神埼はそんな緒方に笑って見せた。変な緒方を教室に置いて、購買まで歩いていく。今日も冬なのにぽかぽか陽気でとても気持ちがいい。神埼は歩きながら伸びをした。ふと外が気になって窓に近づいてみた。空が青い。雲がのびやかに流れている。「あら、神埼くん。こんにちは。」珍しいわね、こんなところで。横から声をかけられた。柔らかなウェーブが揺れている。木村だ。木村はジョーロにスコップという出で立ちで微笑んでいた。目の前の花壇を見ながら水をやっている。世話をしていたのだろう。木村は昼休みになると教室では姿が見えなかった。花壇の花を見つめながら雑草を取っている。その横顔は穏やかで楽しそうだ。花壇の花はイキイキとしていてとても美しく煌めいている。「花を育てることが上手なんだな。花が元気で楽しそうだし。」見たままを伝えた。木村は目を丸くして、笑った。そう見える?その笑顔はどこか嬉しそうだ。笑い終わって、ふと思い出したように呟いた。「私ね。。昔はこんな風にお花のことを楽しいとは思えなかったの。」スコップで花壇の土を優しく掘り返していた。横にあった肥料を混ぜていく。「幼い頃から植物が大好きだったの。いつも本を読んでわくわくしていたわ。そんなときお父様から花壇を頂いて。嬉しくてお世話をしてた。でも、本で書いてあった通りにしてもすぐ枯れてしまうし。なのに道端や公園の花壇はとても綺麗に咲いているでしょう?なんだか虚しくなって。」スコップを土に置き、花にそっと触れながら思い出すように触れている。「それでお世話をしながら、なんでもっとしっかり咲かないのか、元気にならないのか、ってイライラしていた。花を見るのも考えるのも嫌になったわ。」あんなに好きだったのにね。穏やかに笑っている。神埼は木村が世話をしている花壇の方を見つめた。「でもね、私はあの時自分のことしか考えてなかったの。本当に必要なことは花の様子を見ながら、声を聞きながら育てていくことだったのに。周りの花壇と自分の花壇を比べて、焦っていたのよね。せっかく大好きなお花を頂いたのに、うまくやらなきゃいけないって。誰もそんなこと思ってないのに。」可笑しそうに笑っている。私、子供っぽいでしょう?そんな木村に神埼は首を横に振って大きく笑った。俺もよくやるよ。その無邪気な笑顔に木村もつられて、今度は声を立てて笑った。「この花たち、すごく元気だよ。のびのびしてる。」神埼は花壇の花にそっと触れてみた。同じ花なのにそれぞれ印象が違う。茎が長い花もあれば、葉っぱが小さい花もいる。同じ花壇のなかで仲良く並んでいる。どこか気持ちが良さそうだ。「枯らしちゃったお花を思い出して、悲しくなったりするの。でも、そばにいられてそのお花たちのことを考えられて幸せだったわ。」あんまりいい思い出じゃないけれど。その木村の言葉に神埼は、俺もあんまり思い出したくないよ。と答える。二人は笑い合っていた。午後の授業も終わり緒方と一緒に帰る。隣にいる緒方を見上げると相変わらず変だ。今度は眉間にシワがあって、深い。その深いシワをつついてやりたい。じーっと見つめてみた。緒方の視線が神埼に移る。「。。。木村さんの好きなタイプは、背の高いスポーツがお好きな方だとお聞きしました。みんなを引っ張っていくリーダーのような。だから、神埼くんは正反対です。」前を向いて急に手を握ってくる。今日の緒方の手は冷たい。外にでもいたのだろうか。神埼は気にせず緒方を見上げている。「木村さんはとても優しくて温かくて素敵な方だと思いますよ。なので相応しい方がいらっしゃるはずです。神埼くんとは、ちょっと合いませんよ。、。。やっぱり。。いや、その。二人がいてはダメとかそういうことではなく。。いや、違います。そもそも、木村さんの好きなタイプはですね。」顔が赤くなってきた。これは猿まっしぐらだな。温かくなってきた緒方の手をそっと握り返した。赤く染まった顔が今度はおたふくのようにふくれている。あ、マントヒヒだ。緒方がマントヒヒに変化した。ぷくぷくと膨らんでいる頬を神埼はぼんやりと見つめた。緒方はマントヒヒにもなれるんだな。感心したように頷く。もちろん神埼は緒方の呟きなど聞いていない。夕日がのんびりと傾いていく。緒方の呟きは続いていた。今日も優しい夜がやってくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ