第百十九話
緒方の穏やかな寝顔と呼吸を聞いていたら、うとうとと睡魔がやってきた。どうやら神埼にも移ってしまったらしい。唐揚げを作っている時は全く眠くなかったのに。おかしいなと思いながら目をぱちぱちと何度も瞬きをして眠気を追い払っていた。気づいた林が可笑しそうに笑っている。「神埼。寝室に行って緒方と一緒に横になったらどうだ?手伝うから」神埼に寄り添っている緒方の体を一旦引き剥がして片方の肩から持ち上げていく。三人に比べて小柄な神埼が緒方を連れていくのは無理だ。大塚も気づいてもう片方の肩から緒方を支えている。大丈夫か?という大塚に微笑みながら答えた。急に睡魔がやってきて少しふらふらする。支えていた緒方を林に任せて大塚がやってきた。よろける神埼の腕を引っ張りあげる。とても眠い。二人の笑っている声がかすかに聞こえた。柔らかいものに包まれて、それが布団だと気づいたのは目の前に見える緒方の後ろで林が毛布を上にかけている姿が見えた時だ。穏やかに眠っている緒方と自分に、疲れたんだろうなぁとのんびりとした呟く声が聞こえる。明日目が覚めた時に二人には礼を言おうと考えて、さらにやってきた睡眠の大きな波に意識を委せた。穏やかな暗闇の中に落ちていくような心地だった。緒方がいる。真っ白くて綺麗な空間の真ん中でのんびりと周りの風景を見つめている。心を奪われているようだ。楽しそうなわくわくしている緒方の顔を見て頬が綻んでいくのを感じた。神埼も周りを見渡すととても綺麗な光がぼんやりと浮かんでいる。小さなものや大きなもの。色もピンクや黄色など様々で心地がいい。優しくて穏やかで温かい。緒方に抱き締められた時のような不思議な安心感に包まれていた。緒方が神埼に気づいてこちらに手を振っている。早く緒方のそばにいきたくて足に力を込めた。でも神埼は動けない。なぜだか足が動かず地面にペッタリとくっついている。緒方は笑って手を振るだけだ。緒方のそばに行きたいんだ。何度力を込めても神埼の足は動いてくれなくて、緒方の笑顔が歪んでいく。悲しくて苦しくて。繰り返し緒方の名前を呼んだ。驚いたように見つめる緒方がゆっくりとこちらに向かってくる。早く緒方に触れたい。両手を伸ばして緒方を呼ぶ。嬉しそうに笑いながら神埼に手を伸ばし抱き締めてくる。嬉しくて先程の悲しみの分涙が溢れてきた。緒方が自分の元へとやって来てくれた。自分に気づいてくれた。嬉しくて嬉しくて緒方の温かい胸の中で思いっきり泣いた。泣きじゃくる神埼をしっかり包み込みながら緒方は優しく神埼の頭を撫でている。目の前に緒方がいて受け止めてくれる。頭を預けて感情を素直に表現できる。幸せだ。ありがとうと伝えたいのに次から次へと涙が溢れてきてなかなか口にはできなかった。そんな神埼に優しく笑ってそっと唇を近づけてくる。神埼は素直に受け取った。ありがとう。緒方。。俺を見つけてくれてありがとう。目を開けると心配そうな緒方の顔が視界のほとんどを占めていて驚く。咄嗟に後ろに引こうとしたのに動かない。緒方が神埼の頭をしっかりと手で抑えていて離れようとした神埼を自分の方へと引き寄せる。先程と同じように胸に抱かれている。どうした?と聞こうとしたが自分を抱き締める力が強くてそのまま身を委せた。緒方の鼓動が聞こえてくる。とても落ち着いて心が穏やかになっていく。不思議だ。神埼は目を閉じた。「神埼くん。あなたは一人ではありませんよ。ずっとそばにいますから。一人で。。泣かないでくださいね」静かなしっかりとした声だった。緒方はいつもだらけていてふわふわした声をしている。のんびりで少し間の抜けた声なのに、こんな低くて強い声も出るんだな。神埼はぼんやりと思っていた。何も返事がない神埼を不信に思ったのか緒方が覗き込んでくる。目が合った。「怖い夢でも見たのですか?大丈夫ですよ。私がいますから」緒方がそっと頬に触れてくる。あ、自分は泣いていたのか。。ということは動けなかったあの状態は夢の中だったのか。納得したら、夢の中の緒方のそばに行けなかった時のことを思い出した。心が急に痛くなる。怖い。「緒方。。夢を見たんだ。緒方がいて、そばに行きたいのに行けない夢。怖かったよ。。」聞きながら緒方は顔をしかめる。不満そうに唸って、夢の中の私は何をやっていたのですか?と低い声で聞いてきた。機嫌が悪そうな怒りを含んだ声に珍しいなと神埼は笑みをこぼす。何笑ってるんですか!?と苛立ったように口を尖らせた。早く答えてください!と急かされる。苦笑しながら神埼は答えた。「ちゃんと俺に気づいて来てくれたよ。抱き締めてもらった。ありがとうって思った」そうですか!と嬉しそうに笑っている。またぎゅっと強く抱き締めてくる。頬にかかる緒方の息がくすぐったい。「よかったです。いくら夢の中の私でも神埼くんを悲しませるなんて、とても心外です。夢の中に私は割り込んで交代してきます」そして、こうやって抱き締めます!!力強く言う緒方に嬉しいようなくすぐったいような。幸せな気分だ。神埼は可笑しくなって、じゃあ現実世界のお前はどうするんだよと緒方に問いかけた。また交代し直すのだろうか。「緒方。。俺の夢の中の緒方はね。とても綺麗な空間の中で幸せそうに笑っていたんだ。。俺、すごく嬉しくて。。でも緒方の元には行けなかった。。それが悲しくて苦しくて。。涙が出たよ」緒方が幸せそうならそれでいいと思ってたのに。そばに行けなかったことが嫌だったんだよ。止まっていた涙がまた溢れてくる。心が温かくて幸せなのに涙が止まらない。緒方が神埼の涙にそっとキスをした。優しく微笑んで、そうですかと呟く。「それは。。とてもよくわかります。私も同じですから」屈託なく笑って何度もキスをしてくる。照れ臭い。緒方は笑いながら囁いた。「私だって。。あなたのそばにいたい。それだけではありませんよ。あなたにいつも頼りにされたいし、求められていたい。それと同じくらいあなたに頼って甘えたい。欲張りですか?」緒方は神埼のおでこに自分のおでこをくっつける。子供っぽいしぐさにまた可笑しさが込み上げてきて神埼は声を上げて笑った。「私はいつでも願っています。そして、私の願いはそれだけです。あなたのそばにいて、頼って頼られて。こうやって抱き締め合う。後は何でもいいんです。。私の願いを叶えてくれますか?」あまりにも平凡でささやかな願い。簡単に叶うような願いにくすくすと笑いが止まらない。簡単でお手軽すぎる。それで本当にいいのかと問えば、それが重要なんです!と力説する。「馬鹿だなぁ。。緒方。。そんなのすぐに叶っちゃうよ。。」なぜだろう。さっきから涙が止まらない。緒方の自分を抱き締める力も、腕も。嬉しそうなこの目の前の顔も、何度もキスをしてくる唇も。とてもとても愛しい。嬉しくて唇を寄せたら、私は愚かですからと呟く緒方の声が聞こえた。
皆様、おはようございます(*^^*)いかがお過ごしでしょうか?
卵焼きを作ったらフライパンにくっついて散々な形になりました。。うーむ。そろそろ買い換え時のようです。。まあ、どんな形でもお腹に入ってしまえば同じですよ!
ではでは皆様、これからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)




