第8話 エッグ・プラントの社長が捕まる
タク:水野拓(みずの・たく)。男。30歳代前半。東海林商事のアクティブな御曹司で、重役。
メイ:久米郁葉(くめ・いくは)。女。20歳代後半。タクの彼女。小柄な手品師で、手品と同様、楽しむことに貪欲。
うらなり:成浦なすび(なりうら・なすび)。おっさん。ギャング会社である「エッグ・プラント」の輸入課の課長。ドジ。
第1話[キャンプしてたらダイヤモンドを見つけちゃった]
第2話[東海林商事の笑って死ねる拷問]
第3話[空港で歩きスマホと8の字転倒]
第4話[抱き合って? エッグ・プラントに潜入]
第5話[盗んだ飛行機で孤島に向かったら銃撃を受けた]
第6話[エッグ・プラントの社長の温情はウソ]
第7話[わたくし、素敵なワインが飲みたい気分ですの]
第8話[エッグ・プラントの社長が捕まる]
第9話[うらなりのハッピーエンド]
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▼ 第8話[エッグ・プラントの社長が捕まる]
震源がどこかは不明だが、この孤島では震度2程度で、被害は皆無に近い。
しかし、ここカクー国では、現地の警察官は大騒ぎする。
孤島では地震になっても、本土に揺れが届くことは珍しい。だから、カクー国の人は地震の経験が乏しい。地震に気付かないことも多いから。
東海林商事の救援者が、タクに伝える。
「過信はできませんが、この程度の地震なら大丈夫でしょう。震源に近いから地震を感じると、推測されます」
「近くの海底火山が噴火したのか?」
「はい、その可能性が高いでしょう」
「いよいよ結末が近いな! この噴火の地震という偶然を、そのまま物語の結末にするのは反則だ。反則のままじゃ、終われないよな」
眉は怒ったように上がり、「V」の字に閉じた口の横から舌が出ている。タクはやる気満々だ。なぜなら、大好きな某洋菓子のキャラクターの真似をすれば気分が高揚する。
「噴火という偶然さえも、ポジティブに利用してやる。東海林商事の御曹司を、なめるなよー!!」
「そうですね。我々も、頑張ります」
メイが走って来る。
「社長からの伝言です! 建物の中は危険です! ヘリポートに移動してください!」
タクは瞬時に考える。本当に社長が言ったかどうかは関係無い。メイがそう言っているのだから、理由があるのだろう。だったら、やるべきことは決まる。
「メイ、ここにいるみんなと、ヘリポートに逃げろ」
東海林商事の救援者は、この二人の信頼関係が頼もしい。
建物の各所にいる全員に伝えるため、タクは受付カウンターの内側に飛び込んだ。そして、放送設備で呼び掛ける。
「館内の全員に伝えます。今すぐヘリポートに行きなさい。今すぐヘリポートに行きなさい。建物の中は危険です。今すぐヘリポートに行きなさい。今すぐヘリポートに行きなさい」
ヘリポートには、島にいた全員が集まる。皆、着の身着のまま。エッグ・プラントの社長もいる。
メイは、建物の反対側、飛行機から脱出したシェルターに向かう。シェルターから、手品道具(悪者を捕まえる罠)を持って来る。
シェルターは船の上にある。島の近くで海底火山が噴火したのだ。早くしないと、津波が来る。小さな地震とはいえ、津波は侮れないし、再度の地震がすぐに来る可能性もある。
ヘリポートに集まった避難者の中に、料理長がいるのを、うらなりが見付ける。本当に、食事に毒を入れるよう指示されていたのか?
うらなりが料理長に近付き、小声で聞く。
「料理に毒を入れるよう、指示されていたのか?」
一瞬、料理長は驚く。
「僕は、毒で殺されるはずだった。この地震で助かったがな」
うらなりの告白で、料理長は憐みの顔になる。
「そうでしたか、あなたが……。確かに、あなたの食事に毒を入れるように、指示されました」
「ということは、社長が僕たちを殺そうとしたこと、エッグ・プラントがギャングの会社であることが、本当だったんだ」
うらなりは、信じていた社長の言葉が嘘であることが、ここで明らかになり、ひどく落胆した。
「とはいえ、私は料理長です。本当に毒を入れるのは、料理長の矜持として、できません」
「そうですか」
「だから、代わりにこれを……」
料理長は、ポケットから下剤の瓶を出した。
「僕に、下剤を飲まそうとしたのか?!」
「そうです。料理長としては、これも許せませんが、社長の指示に対する、ささやかな抵抗です」
うらなりは感激し、料理長と両手で握手した。
料理長は続けて言う。
「本物の警察が来て、状況が変わったので、あの女性と食事する社長の料理に入れるつもりでした。しかし、この地震で、それも無理になりました」
「殺されるはずだった僕は、もっと聞きたいことがある」
喧噪の中、うらなりは、料理長をヘリコプターの裏に誘った。そこで思い切り、会社の悪口を言った。料理長も、会社に不満を持っている。料理長との会話から、うらなりは、エッグ・プラントがギャングの会社であることを確信する。
メイがヘリコプターに乗り込んだ。シェルターから持って来た手品道具で、何かを仕込んでいるようだが、うらなりは邪魔をしない。ヘリコプターから降りたメイに向かい、うらなりは親指を立てて「Good」のサインを出した。
一方、タクは、ホテルの外壁から書庫の窓ガラスを割って、中に入った。噴火による地震だから、窓が割れても不自然ではない。
書庫の中から、カクー国のダイヤモンドを密輸した証拠となる機密文書を発見した。これを警察に渡せば、エッグ・プラントの社長を合法的に逮捕できる。
書庫から出るには、普通にドアの内側から解錠した。
書類を警察に手渡すと、警察はすぐに本土に無線連絡した。
警察官の一人が、社長に近付く。
「社長ですね。あなたを逮捕します」
「なぜだ! この地震で、警察署も裁判所も動いていないだろう。逮捕状が無いのに逮捕するのか?!」
「いいえ、緊急逮捕です。まずは、我がカクー国のダイヤモンドの不正輸出の資料が見付かったことが逮捕要件です。裁判所から逮捕状が出るのを待っていては逃げられるので、緊急逮捕ができます」
手錠の前に、まずは手首を掴む。
「そんな馬鹿な」
社長は、離れたところにいるタクを睨んだ。
警察官は続ける。
「噴火も地震も小さなもので、本土では感知されていません。警察も裁判所も、通常通りです。間もなく、裁判所の判断が得られ、エッグ・プラントの関連会社の捜索もなされるでしょう」
「くそっ!」
掴まれた手首を振りほどいて、社長は逃げ出した。そして、警察のヘリコプターに乗り込もうとした。しかし、ドアが施錠されていた。
次に、東海林商事のヘリコプターに乗り込んだ。ドアがわざとらしく開いていたからだ。
エンジンを起動させ、ローター(プロペラ)が回る。しかし、離陸しない。ペダルを強く踏むと、靴がペダルにくっ付いた。レバーを強く握ると、手がレバーにくっ付いた。苛ついて、体を強く上下させると、衣服が椅子にくっ付いた。
この、くっ付く仕掛けは、うらなりと料理長が話をしている時に、メイが手品道具で施したもの。
ローターの回転は、ダミーとしてのゆっくり回転だから、程なくして止まった。ローターが全く動かなければ、社長は諦めるかも知れない。しかし、中途半端に動いたから、イライラした社長は、あちこちを強く操作した。
強く触るとくっ付く接着剤は、トロール将軍からプレゼントされたもの。
社長は接着剤で逮捕された。ふと見ると、側近も逮捕されている。
エッグ・プラントの特殊警察のヘリは、今になって到着した。ヘリの中を警察が調べると、タクたち三人の毒殺に失敗したことに備え、暗殺道具がどっさり。死体の運搬も予定していたようだ。
これも、エッグ・プラントがギャングの会社という証明になる。
幸いにも、津波はほとんど無く、船の破損は無い。震度2程度なので、ホテルの損傷も無い。
本当に、噴火と地震による被害は皆無で、大騒ぎしたのは、地震の経験が無いカクー国の警察官だけだった。
社長は手錠を掛けられ、連行された。接着剤のせいで衣服を剥がされ、下着姿になっている。片手には、ヘリコプターのレバーの取っ手がくっ付いたままだ。その姿を見たエッグ・プラントの社員たちは、大いに喜んだ。
うらなりが先導し、全員でバンザイをした。どうやら、社員はみんなブラック企業の苦しさに不満を持っていたようだ。うらなりは、かつらを振り回して喜ぶ。
うらなりと話していた料理長が、大きく2回「パンパン!」と手を鳴らし、大声でみんなに呼び掛ける。
「さあさあ、みなさん。お祝いです。これから美味しい料理を作ります。パーティーをしましょう!」
料理長は、調理スタッフと簡単な打ち合わせをして、料理を始める。
みんなも、あり合わせのもので、パーティーの飾り付けを行う。
誰も彼もが、スペシャルな日を喜んでいる。
次回は …… 第9話[うらなりのハッピーエンド]
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