第四十五話 強敵の気配
アーテルを出発して二日。
街道を進む景色も少しずつ変わってきていた。
森は深くなり、人の往来も目に見えて少なくなる。
街道そのものは整備されているものの、左右の木々は鬱蒼と茂り、昼間だというのに薄暗い場所も増えてきた。
「この辺りからだ。」
先頭を歩いていたゲランが振り返る。
「ここまでは初心者でも何とかなる魔物が多かった。だがここから先は違う。」
その言葉に自然と気が引き締まる。
「そんなに強くなるんですか?」
リリアが尋ねる。
「あぁ。」
ゲランは頷いた。
「お前たちでも勝てる相手はまだ多い。ただ、気を抜けば死ぬ。今までみたいに楽勝とはいかねぇ。」
なるほど。いよいよ王都へ近付いてきたということか。
俺は剣の柄を握り直した。
◇◇◇
それから一時間ほど歩いた頃だった。
「止まれ。」
ゴッソが静かに呟く。
同時に俺の気配察知も反応する。
「来る。」
ガサッ。
草むらが揺れた次の瞬間。
「グルルルル……。」
低いうなり声。
現れたのは灰色の毛並みをした狼人間だった。
「ウェアウルフ!」
俺は思わず声を上げる。
「七匹か。」
ゲランは数を確認すると、口元を緩めた。
「まぁ何とかなるな。」
その余裕はどこから来るんだ。
七匹だぞ?ウェアウルフは不帰の森でも苦戦した相手だ。
それが七匹。普通なら逃げたくなる。
「ダイスケ。リリア。一匹任せる。残りは俺らが見る。」
そう言うとゲランとゴッソは六匹へ向かって駆け出した。
「え?」
「え?」
俺とリリアは思わず顔を見合わせる。
六匹相手に二人?しかし二人はまるで慌てる様子もない。
ゲランは一匹の爪を剣で受け流し、そのまま体を回転させて別の一匹を蹴り飛ばす。
ゴッソも槍を自在に操り、飛び掛かってくるウェアウルフを次々といなしていく。
「倒さないんですか?」
リリアが思わず叫ぶ。
「全部俺らが倒したらお前ら強くなんねぇだろ。」
ゲランが笑った。
なるほど。育成か。
「リリア!」
「はい!」
俺たちも目の前の一匹へ向き直る。
「ガァッ!!」
ウェアウルフが飛び掛かる。
速い。だが以前ほど恐怖はない。
「そこ!」
剣を振る。
ガキンッ!
爪を受け止め、そのまま体を流す。隙ができた。
「ここです!」
リリアのフレイルが大きく振られる。
ゴッ!!
横腹へ直撃。体勢を崩したところへ。
「ソードスラッシュ!」
渾身の一撃。
ザシュッ!!
ウェアウルフが地面へ倒れた。
「やった!」
だが喜ぶ暇もない。
「ほら次!」
ゲランが笑いながら一匹蹴り飛ばした。
そのウェアウルフが俺たちの前へ転がってくる。
「えぇ!?」
「さっさと倒せよー」
どうやらある程度弱らせてから渡してくれているらしい。
「行きます!」
リリアが飛び出す。
俺も続く。
◇◇◇
そんな戦いが三十分ほど続いた。
ゲランとゴッソが六匹を巧みに相手取り、弱らせた個体を俺たちへ回す。
俺とリリアで確実に仕留める。それを何度も繰り返した。
最後の一匹を倒した瞬間…
【レベルが上昇しました】
「おっ!」
思わず声が出る。
「レベル上がったか?」
ゲランが笑う。
「あぁ!Lv13だ!」
「おめでとうございます!」
リリアが嬉しそうに拍手する。
「あ……私もレベルが上がりました。」
少し驚いたように目を丸くする。
「おっ、ダブルか。めでたいな。」
ゲランが笑う。
ゴッソも珍しく少しだけ口元を緩めた。
ひとまずステータスを確認する。
ステータス
名前:ヤスモトダイスケ
レベル:13
加護:均衡成長
スキル:万能適正、武器扱い Lv5、採取 Lv3、解体 Lv4、火魔法 Lv3、水魔法 Lv3、風魔法 Lv2、気配察知 Lv2、投擲 Lv1
筋力:46
敏捷:46
体力:46
魔力:46
精神:46
運:46
魔法:リトルファイア、ファイア、ファイアボール、ウォーター、ウォーターカーテン、ウォーターショット、ウインド、ウインドケージ
技:ソードスラッシュ
更に、
【解体 Lv5になりました】【気配察知 Lv3になりました】
スキルまで上がった。蟻をひたすら解体したおかげかな。
◇◇◇
解体を終え、再び街道を進み始める。
しばらくして。
「止まれ!」
ゲランが鋭く叫んだ。前方には巨大なキノコが三本。
いや。違う。動いた。
「……うわ。なんだあれ…」
思わず本音が漏れる。
高さは一メートル近い。傘の色は青とも緑とも言えない。
まだら模様が全体へ広がり、見るだけで気分が悪くなる。
「マタンゴだ。」
ゲランが低く言う。
「おい!胞子は絶対吸うんじゃないぞ!」
「牛でも一呼吸で死ぬ。」
ゴッソが槍を構える。
「マジかよ……。」
アルトベルクで戦ったマイコニド。
あれも十分気持ち悪かった。でも…
「マイコニドが可愛く見えるぞ……。」
「ダイスケ!燃やせ!」
「了解!」
俺は右手を前へ突き出した。魔力を集中させる。
掌の上へ火球が現れる。
「ファイアボール!」
炎が大きく膨らむ。狙うのは三匹の中心。
「いけっ!」
バスケットボールのチェストパスのように火球を放つ。
ゴォォッ!!
火球は真ん中のマタンゴへ命中した。
瞬間、大きな火柱が立ち上る。
「ギィィィッ!」
隣のマタンゴにも炎が燃え移る。
その隙を。
ドスッ!!
ゴッソの槍が正確に貫いた。残る一匹へは。
「終わりだ。」
ゲランの剣が一閃。
ズバッ!!
真っ二つになったマタンゴは、そのまま地面へ崩れ落ちた。
戦闘は一分も掛からなかった。
「いやぁ。」
ゲランが笑う。
「ダイスケがいると楽でいいな。」
「いつもはどうしてるんだ?」
「胞子が来ないように風上に回り込むんだ。」
ゴッソが答える。
「胞子を避ける。そのまま槍で突く。」
なるほど。火魔法があるからこそ、近付かずにまとめて攻撃できたわけか。
「火魔法が使えて本当に良かった……。」
俺は燃え尽きたマタンゴを見ながら呟いた。
ウェアウルフ。マタンゴ。
どちらも今までの魔物より一段階危険だった。
それでもゲランたちはまだ余裕を残している。
王都まであとどれくらいだろう。
この先には、まだ見たこともない魔物が待っているはずだ。
俺は気持ちを引き締め直し、再び王都へ続く街道を歩き始めた。
【ステータス】
名前:ヤスモトダイスケ
レベル:13
加護:均衡成長
スキル:万能適正、武器扱い Lv5、採取 Lv3、解体 Lv5、火魔法 Lv3、水魔法 Lv3、風魔法 Lv2、気配察知 Lv3、投擲 Lv1
筋力:46
敏捷:46
体力:46
魔力:46
精神:46
運:46
魔法:リトルファイア、ファイア、ファイアボール、ウォーター、ウォーターカーテン、ウォーターショット、ウインド、ウインドケージ
技:ソードスラッシュ
名前:リリア
レベル:11
スキル:採取 Lv3、解体 Lv4、鈍器術 Lv3、索敵 Lv1
筋力:27
敏捷:48
体力:29
魔力:32
精神:59
運:66




