148 海賊の遺産、それは――!
「うあああああああ~~~~~んっ、もうやだああ~~~~!」
――パイセンと別れたあとのこと。
右の道を行ったわたしは、それはもう数多の罠に引っかかった……!
矢が飛んでくる罠。落とし穴の罠。毒ガスが出る罠に天井が崩落する罠になんか爆発する罠と、殺す気マンマンのラインナップだ。
まぁ、みんなのおかげで無事ではあるんだけどね……!
「大丈夫だレイテ嬢。なにがあっても俺たちが守ろう」
「あ、ありがとう。けど、できれば最初から罠には引っかからない方向でいきたいわ……!」
最強王子に暴風幼馴染に撲殺執事らが、なんとかはしてくれた。
だけどわたしはもちろん、みんなも引っ掛かってはそれを無理やり打ち砕くような、セルフ問題解決スタイルなのよねぇ。
「はぁーあ。ドクター・ラインハートみたいに、罠が見抜ける人がいたらいいのに」
あの人ってば、なぜかお父さんにキレられながら連行されちゃうんだから。
なんか悪いことしたのかしらね?
「一応、見抜けそうな人自体はいた気がするけど……」
じと~っと、真後ろの空間を見る。
そこには洞窟の壁面が広がるだけだが、しかし。
『なははっ、悪いな嬢ちゃん!』
胴間声と共に、なにもない場所に彼は再出現した。
「俺みたいな玄人が罠を全部なんとかしたら、冒険にならねーだろ? あんたらがなんとかする姿を愉しみてーんだよ」
と言いながら現れたのは、白の放射光を纏った元海賊団船長・エイハブだ。ようやく脳が彼の存在を思い出す。
これが彼の異能らしい。罠にまみれる道すがら、説明してくれた。
「異能『密室の白鯨』。他者の認識から消える力とか、犯罪者が持っちゃ一番やばいやつでしょ……」
そう。彼は物理的に消えていたわけではない。
ことわざの〝部屋の中のゾウ〟よろしく、このクソデカオッサンはそこに存在しているはずなのに、周囲の人間が意識を反らしてしまうのだ。
この二十年間で捕まらなかったのも、たびたびその力で認識を薄めてたかららしい。
「流石は異能海賊団の王様。そんなずるい力で今まで、なにやらかしてきたんだか」
「っておいおい。そんなに使ったこたぁないんだぜ? この異能の使用中は、海軍打ち破る武勇伝あげてもだーれも認識してくれねーし、船員との連携もできなくなるからな」
派手好きな海賊にゃぁ余計な力だよ、なんて言うけれど。
「馬鹿おっしゃい。同じ悪人として、悪人の理性なんて信じないわよ。どうせちょいちょい使ってなんかしてたんでしょ?」
「……はい。ご近所のおかずを味見したりしてました」
「するなッッッ!」
くっっっそ迷惑なオッサンね。
新手の妖怪なんじゃないの?
「レイテお嬢様離れてくださいッッッ! どうせこいつシャワー覗いたりしてますよキシャーッ!」
「それはあんたの願望でしょアシュレイ。……それよりも」
長く続いた罠廻廊の先を見る。
気付けばいよいよトラップはなくなり、まっすぐな一本道が広がっていた。
振り返れば、わたしたちが来た反対側にも道が。
先輩が行った左の道ね。
「どう、ケーネリッヒ? ハロルド先輩まだきてなさそう?」
「ああ。半径百メートル、探知範囲にはいないな。俺たちの勝ちだぞレイテ」
風を読む力の応用で、人の位置もわかるようになったらしい幼馴染が頼もしい。
今度隠れてる猫ちゃん探してもらおうと考えつつ、わたしは前を見据えた。
「ふっふっふ。罠もいい加減にネタ切れでしょ。あとは悠々とゴールしてやるわよ~~~!」
と笑いながら、洞窟の最奥へと向かおうとした――そのとき。
「むっ、レイテ待て! やつの反応ありだ!」
「えっ!?」
感知していたケーネが叫ぶ。同時に、「これは……やつ以外に、大きなものが迫って……!?」と、何かを感じ取っている。
「な、なーんか嫌な予感が……」
「――レイテさまあああああーーー!」
はたして、猛スピードで駆けてくるハロルド先輩。
その背には……、
「あ、あはは、困りましたねぇ。こちらの道、罠はほとんどなくてインスマウスが潜んでいる道で、小動物に変身してそいつらをちまちま避けてきたんですが、最後に……」
大岩トラップ、踏んじゃいました☆ と、先輩は舌を出しながら言うのだった。
踏むなぁああ~~~~!
「じゃあ最後は、みんなで一緒に逃げましょうか!!!」
「うるせーーーー!」
こうして、ゴロンゴロンッと転がり走る大岩を背に、わたしたちは全力ダッシュで逃げるのだった――!
◆ ◇ ◆
「どうするレイテ嬢、あの岩、爆発させるか……!?」
「って洞窟が崩れたらどうするのよ! なんでもかんでも爆発させていいと思ってるのヴァイスくん!?」
「ああ、俺は王として、実の弟すら大罪人なら爆滅すると決めたヴァイスくんだ!」
「クソデカスケールな覚悟すんな!」
そうして、転がる大岩に追われ続けること数分。
「――みんな見て! あの奥の部屋っ、すごい輝きが溢れているわ!」
途中でヴァイスくんに抱えられ、わんわん泣きながら駆けることしばらく。
薄暗い洞窟の最奥に、わたしたちは輝きを見出した!
「あそこがたぶん、お宝のある部屋ねっ。けど……!」
わたしたちの背後には、未だゴロンゴロンッと転がり続ける大岩が。
「このままじゃ、お宝まで滅茶苦茶になっちゃうじゃないの!? インスマウスどもはどういう罠設計してるのよ!」
『あはは、所詮は魚人ですからね。魚に高度な知能は期待しないでください』
……と、諭してきたのは、途中でダチョウに変身したハロルド先輩である。
走るにはこの姿が一番とのことで、わたしたちの横を猛スピードで並走していた。
「流石は万能変身野郎。もうなんでもありね」
『ありがとうございます。ところでお嬢さんは誰ですか?』
「ってダチョウの知能に侵されてんじゃないわよッ!?」
ダチョウは家族の顔も覚えられないことで有名である。
この人、魚に変身していたときも脳みそ魚になってパーになってたらしいのに、なにやってんだか。
「とにかく……ヴァイスくん!」
「ああ」
わたしの意を酌み、抱えてくれていたヴァイスくんが立ち止まって振り返る。
「洞窟内じゃ危なかった爆発奥義、解禁よ。仕方ないからやっちゃいなさい!」
「いいだろう。見ていてくれレイテ嬢」
彼はわたしを下ろすと、深くその場で腰を落とし、引き絞るように拳を構えた。
そして――!
「“ストレイン流異能拳法”――『居合い拳・撃煌一閃』!」
次瞬、ズガァアアアアアアーーーーーンッッッ! と!
目にもとまらぬ速さで拳を放つや、大岩が大爆発!
砕ける破片もケーネが風圧で跳ね除けてくれて、なんとか危機を乗り越えたのだった。
「や、やったーーー! これでわたしたちはもちろん、宝の部屋も岩で潰されなくなったわ! 不労所得に近づいたー!」
「っておい嬢ちゃん。可愛い顔してドサンピンなこと言ってるとこ悪いが」
「ドサンピンってなによ!?」
唐突にディスってくるエイハブ船長。わたしが怒鳴るも、彼は神妙な顔でそれを無視し、
「今ので、洞窟にガタがきたみたいだぜ?」
瞬間――ズズズッ、と。
洞窟全体に、致命さを感じる鳴動が響いた。
あちこちの床や壁に、ぴしぴしとヒビまで入り始める……!
「っ、これは……」
「構成する積層が崩れ始めたな。帰り道を考えるなら、いそいでゴールに向かったほうがいい!」
「わ、わかったわ!」
再び駆けるわたしたち。
そうして、ついに。光り輝く最奥の部屋に飛び込み――!
「ついたーーーーーー! ここがお宝の部屋ねッ――て!?」
はたして、そこには。
「お宝は……どこ……?」
たしかに、光りものならあった。
どこかから流れ込んだ金貨や、宝石の類がぽちぽちと。
しかしそれらは『海賊の遺産』というには、少なすぎる。
「ふ、ふむ。輝きを放っていたのは、この水晶のようですねぇ」
人間に戻ったハロルドパイセンが、わたしと同じく困惑しながら、部屋の天井を見渡した。
そこには内側から光を放つ大結晶が。
「これは『偽魔晶石』ですね。古き魔獣の堆肥が地層内で圧縮された結果に生まれるものとされ、魔獣から採れる魔晶石と同じにように発光する性質を持ちますが、まぁそれだけです」
「そ、それだけって……」
「光り輝いて綺麗ですが、まぁ元は堆肥ですからねぇ。地面から離すとすぐに光も弱ってしまいますし、売っても二束三文ですよ」
「そ、そ、そんな~~~!」
わたしはガックリとうなだれてしまった。
ちょっとぉ、海賊の遺産はぁ!?
大量のお宝はどこー!?
「せ、せめて異能具だけでもないの!? 海賊団の切り札だっていう国を脅かすような異能具パチって、恐怖の女王様になってやるわよッッッ!?」
「レイテ嬢、それなのだが」
そこで、ヴァイスくんが気まずげに口をはさんだ。
「少し、おかしいと思っていたんだ。クォド・エイハブ、やつの存在を消し去る異能を聞いたときからな」
「えっ……あ」
そこで、わたしも思い至った。
「そうだ。エイハブは『年食って自分じゃ宝を取りに行けない』と言っていたけど」
「やつの異能があれば、インスマウスどもを無視して進めただろう。というか」
ヴァイスくんは視線を鋭くし、なにやら満足顔の船長を睨みつける。
「おいエイハブ。……貴様、無一文で漁師を始めた身にしては、ずいぶんと立派な船に乗っていたな?」
そう。あんな大型蒸気船を買うお金、どれだけ優秀だろうが稼ぐのは至難なわけで――、
「貴様……とっくの昔に宝を回収して、その金で買ったな?」
「へへっ、正解だぜ王様」
え、えええええええええーーーーーーー!?
このおっさんなにやってんのぉおおおーーー!?
「やはりか……。ついでに問うが、もしや貴様、切り札の異能具というのは……」
「ああ、そっちについては最初からねえよ。海軍共を脅すための、ブラフだ」
「悪辣すぎるぞ貴様!?」
キレて掴みかかるヴァイスくん!
わ、わたしも同じ気持ちじゃボケー!
「レイテ様怒ったわよ!!! おらっ脛にくらえっ極悪令嬢キック! っていたーい!?」
うええええんっ、こいつ筋肉かたいよ~~~!?
「よくもレイテ嬢を傷付けたなッッッ!?」
「や、今のはお嬢ちゃんの自爆な気がするが……まぁ落ち着けよ」
エイハブは、努めて冷静にヴァイスくんの手を剥ぐと、なにやら熱いまなざしでわたしたちを見渡した。
「なぁおまえら……これまでの道中、大変ではあったけど、同時に楽しくはなかったか?」
「えっ……」
「たくさんの危険があった。泣いたし、転んだし、迫りくる魚人や罠の山にによって、たいそう怖い思いをしたよな。けど!」
エイハブは太い両手を広げ、わたしたちに熱く問いかける。
「常にそばには、仲間がいただろうがよ!? どんな恐怖も、仲間たちと跳ね返したきただろうが! ああ、ソレなんだよ。俺がおまえたちに与えたかった、宝って言うのは――」
そうして最後に、彼は男泣きしながら……、
「『仲間たちとの思い出』! それが海賊の遺産だったんだよおおおおおおーーーーーー!」
エ、エイハブ船長……ッ!
「……みんな」
彼の言葉に、わたしたちはみんなと顔を見合わせた。
そして、思いを一つに頷き合い――、
「――こいつボコッて捕まえて、海運国に売り渡して懸賞金もらいましょうか」
『オオオオオオオーーーーーッ!』
「っておまえらああああーーーーー!?」
――こうして、異能を使う間も与えず、わたしたちはクソ船長を襲撃。
半ば殺す気でボコグチャにして、大金を手に入れたのでした! くそぼけがー!




