147 ※このあとめちゃくちゃ
――魚怪人『インスマウス』。
海棲の魔物で、魚の顔に青い人間の身体を持った怪生物だ。
知能は高くて極めて狡猾。手先も器用で、人間から奪った武器を使いこなす技量もあるとか。
また性格は強欲で、商船の底に武器で穴を開けては沈め、金銀財宝を奪って溜め込む性質もあるらしい。
やつらには苦しめられたなァ――と、海賊団船長・エイハブは、歩きながら語ってくれた。
「そんな連中だ。間違いなく洞窟の奥に、海賊の遺産を置いてくれてるはずだぜ」
「なるほど。でも逆に良かったわね」
海路が危険なほか、インスマウスが住処にしていることもあり、地元民はこの幽霊島を認識しつつも、滅多なことじゃ近づいてこなかった。
ヴァイスくんらがここまで運んでくれる人を探すのも、結構苦労したそうな。
「おかげで二十年間、お宝や異能具は手付かずでこれたんだからね。魚人連中に感謝じゃないの」
「へっ。あいつらに感謝を受け取る殊勝さなんてねーよ。奴らが好むのは財宝と、人肉だけだ」
――おら。さっそく出るぜと、顎で先を指すエイハブ。
すると数瞬後、ぬめる生臭さと共に、洞窟の曲がり角から本当にインスマウスが現れた!
『ギシャァアアッ!?』
「うわマジで出たし。なんでわかったのよエイハブ?」
「がははっ、鼻がいいんだよ。海賊たるもの、潮の変わり目から仲間の壊血具合まで、一発で嗅ぎ取れなきゃやってらんねえからな」
「なんだそりゃ。もう表社会で働いたほうが稼げるんじゃない?」
「!?」
空気を読む能力といい、そんだけハイスペなら出世しまくれるでしょと続けると、船長は「……そういえばそうかも……あっという間に漁師長になれたし」と、なんかショックを受けている模様。
マ、マジでいま気付いたわけ?
「なぜ俺は海賊なんて――っていやいやいやッ! ダークで危険な冒険劇こそ男の人生よ! 安全な出世なんてくだらねぇ~~!」
「結構ゆらいでなかった?」
「うるせぇ! それよりも、来るぜ嬢ちゃんッ」
けたたましい鳴き声を上げ、魚人たちが襲い掛かってきた。
その手には人から奪ったらしき槍や剣が。さらには洞窟内で泣き声が響き、奥からそれを聞き付けた仲間たちが次々と押し寄せてきた。
なかなかの数ね。けど。
「この海賊女王レイテ様の敵じゃないわ。ヴァイスくん、ケーネ、アシュレイ!」
「「「おうッ!」」」
「久々に、大暴れしてやんなさい!」
こっちには、最恐傭兵団を打ち破るような最強戦士たちがいる!
はたして、閃光・風光・灰光を纏った彼らは、魚人軍団を正面迎撃。
千切っては投げ千切っては投げ(+時々爆発。危ないからやめてヴァイスくん!!!)の活躍を繰り広げ、瞬く間に敵を殲滅していくのだった。
◆ ◇ ◆
洞窟内部はめちゃ広かった。
天井の高さについては、少なくとも二メートル超えのクソデカ船長やそれに近いヴァイスくん(※こちらはクソデカ後悔持ち)が悠々歩けるくらいはあり、なかなか快適だ。たまに縦にも横にも広い小部屋みたいなのもあるしね。
インスマウスども、いいとこ住んでたじゃないの。
ま、もう過去形だけど。
「わははっ、嬢ちゃんの従者どもつええなぁ! 海の悪魔と呼ばれるインスマウスどもが、鎧袖一触じゃねえかよ!」
船乗りとしてスッキリするぜと笑うエイハブ。
わたしたちが来た道には、細切れになったり撲殺された魚人肉の山が、ところ狭しと散らばっていた。
いい加減におかわりもなくなったし、もう全滅かしらね?
「おーーーっほっほ! 勝利~! これがわたしの邪悪パワーよ!」
「え、邪悪パワー……? 別にレイテの嬢ちゃんは、ぼけっとしながら落ちてたワカメいじってただけで、なんもしてなくねえか? あと悪とか関係ないような」
「わかってないわねーーーー!」
これだから引退悪役はダメなのよ。
「わたしが邪悪だからこそ、あのつよつよな従者たちは従ってるの! ねぇみんな、わたしが怖すぎて言うこと聞いてるのよね!?」
ね!? と問うと、男共は三人とも超高速で、首を横に振るのだった。
ってなんでじゃぁいっ!?
「あぁすみませんお嬢様つい! お嬢様が『そう』だと言うなら、このアシュレイ、なんでもそうだったことにしますので!」
「やめろぉ変態眼鏡! 虚しくなるから変なフォローすんなぁあ!」
くっっそーーー。心が強い従者たちめ。わたしの波動にまったく怯えていないとは。
わたしの極悪オーラもそろそろワンランクアップさせなきゃね……!
「わたしの極悪伝を小説でいうと現在5巻くらいとするなら、次巻くらいで覚醒するから待ってなさいエイハブ……!」
「……洞窟は空気が薄いからな。お嬢ちゃん酸欠してんのか?」
どういう意味じゃゴラァアアアアアアーーーーーッッッ!?
「大丈夫だレイテ嬢。ちょっと酸欠してても、キミの素晴らしさは欠けていない。それよりも」
そこで、最前を行くヴァイスくんが(なんか酸欠は肯定しつつ)前を指してきた。
なによ!?
「どうやら、ここからは道が分かれるらしいぞ」
って、むむむ。ほんとだ。
ぐねぐねしつつも一本道だった洞窟が、ここにきて二手に分かれちゃってるわね。
「どっちかが外れの道、とか?」
「いやレイテよ、どちらも当たりのようだぞ」
そこで、赤毛おちびのケーネが、両手の人差し指をこめかみに当ててウンウン唸りながら断言してきた。
どしたのあんた?
「マジで酸欠でもして頭痛くなった? 膝枕ほしい?」
「いっ、いらんわ! そうじゃなくて、俺の風圧操作能力で今、エイハブの『空気を読む感覚』を再現していてな……」
などと苦しげに言うケ-ネの身体からは、たしかに微弱な放射光が。
「異能の風を別の感覚器のつもりで飛ばし、感じる空気の具合から、先を読んでいるんだ……。道中の詳細は分からんが、どちらの道も一つの部屋に繋がっているらしい」
「ほえ~」
そらまた便利なことができるようになったわね。
素直にすごいと褒めてあげたら、「ふ、ふん!」とそっぽ向かれてしまった。
なによもう。相変わらずわたしを敵視してるわね~。
「さて、どちらの道もあたりときたか」
これは~……、
「ハロルド先輩」
「ええ、わかっていますともレイテ様」
わたしの意を酌み、無駄イケメンパイセンが頷いた。
「ここからは私とレイテ様御一行で、二手に分かれることに致しましょう。どちらが先に『海賊の遺産』がある部屋に辿り着けるか、勝負です」
そうそう、わかってんじゃないの先輩!
「さぁ、ここからは財宝に続く道。悪辣な魚人たちが罠を張っているかもしれないわ! どちらの道が危険か、『運勢』で勝負よ~~~!」
そう言いながら右の道に駆けるわたし!
その背に先輩は「お気をつけて」と声をかけてくれながら、
「……それもあって、レイテ様とは別で行きたいんですよねー……!」
ん? なんか言ったかしらー?
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※このあとめちゃくちゃ罠踏んだ。
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