144 それはそれとしてジャックくんは消そう!
――ブリランテ海運国は流通の拠点。
物資の搬入・販売が高速で行われる地で、情報もまた流れるのが速い。
臨海学校・二日目の朝。ビーチのコテージに届けられた新聞には、第一面でこのように書かれていた。
『ルクレール聖国、電撃の政権交代!』
『新聖王にセラフィム第十四王子、就任!』
『若き王の後見人には、ストレイン王国・ヴァイス国王が』
「き、昨日の出来事がもう書かれてる……! ヴァイスくんの寝言じゃなかったんだァ~……!」
……曰く、〝事の発端は、セラフィム第十四王子が親族からの暗殺に耐えかね、ヴァイス国王に庇護を求めたことが発端。
かねてより噂されていた通り、政権交代後に公表された資料には、ルクレール聖国の血で血を洗う腐敗した黒歴史が。
かくして、少年の涙に奮起したヴァイス国王は立ち上がり――〟
「ほ、他にも都合のいいことが書かれまくってるわね」
――〝他国による武力侵攻では、と懸念する声もあるが、ヴァイス国王があくまで単騎で粛清を行ったこと。また一切の政治的見返りを求めず、少年王・セラフィムの安全を確保したのちは、即座に帰還したことから、あくまで少年と国民のために剣を振るった正義の行いでは〟とか。
「……他国の王様が革命に関与とか、本来ならば大スキャンダルになるはずじゃない。なのにどーいうことよ、ヴァイスくん?」
テラス席にて。わたしは対面のムキムキのっぽを睨んだ。
朝食後のコーヒーを飲みつつ、「潮風でちょっとしょっぱいなぁ」とかほざいてる天然野郎を。
「ねぇなんでこううなったの!? 色々となんでこうなったのヴァイスくん!?」
「レイテ嬢が元気で俺は嬉しい」
「うるせーーーー!!!」
ほっぺに手を伸ばして顔面グニーーとひっぱってやる! くらえおら~~~!
「なんで革命することになって、なんで情報は好意的で、それからなんでわたしが次期女王にーーー!?」
「ひょれふぁらな」
話しづらそう(※なのになんか幸せそう)なので手を放してやる。
おらっ、説明なさい。
「ごほん。まず、腐敗した聖国を正し、セラフィムとエルザを国の中枢に上げんとした理由。それは公国の立て直しに協力させるためだ」
「公国って……ああ」
ラグタイム公国。
砂漠の王子・シャキールくんの故郷で、『地獄狼』に滅ぼされちゃった場所ね。
「口にはしないけど、エリィもちょいちょい気に病んでいたわ」
紙面に再び目を落とす。
そこには証言付きで、かつて前聖王主導の下、優秀で人気のあったエルザ王子が貶められ、獄殺されたこと。
異能で蘇った王子だったが、王の〝|悪意を高める異能で理性を失い《・・・・・・・・》、『おぞましきエルザフラン』として狂乱してしまった〟――と、知らない情報が書かれていた。
「これ、嘘でしょ」
「その通りだ」
わたしの指摘を、ヴァイスくんはあっさりと認めた。
「落としどころというものだ。エルザの〝死体を操る力〟は、無限に人力を用意できるようなもの。死刑囚の亡骸を使えば、公国の立て直しを急ピッチで行える。だが」
「……あの子は前科がありすぎる。父王のせいで狂ったのは事実でも、まだ踏みとどまれる選択肢があった」
堕ちたのはあくまで自分の選択。
国際社会に出ようものなら、贖罪以上に断罪が求められてしまう。
そこで。
「……父王に嘘能力を盛って、完全な被害者に仕立て上げたのね?」
「そうだ」
悪びれもせずにヴァイスくんは頷いた。
「これがやつの贖罪だ。悪意に堕ちたことをどれだけ悔いていようが関係ない。今後、真実の吐露を一切封じ、〝父王が全て悪いのに、健気に贖罪せんとする王子〟として振る舞ってもらう」
……それが落としどころ、か。
死罪になるよりもある意味辛いかもね。
「都合もよかったからな。聖国は上層部はもちろん、下級層も下剋上に狂っていた。そいつら全員を裁くわけにはいくまい。そこで」
「逃げ道を用意したわけね。これまでの凶行の理由を、〝王が悪意を高めていたから〟とし、意識の自浄を促すと」
「その通りだ。亡き前王には徹底的に、泥をかぶっていただこう」
「うわぁ。そりゃまた、無駄のない名案ね……」
半ば唖然と呟くわたしに、大臣のゲッペルスやシャキールと相談した策だがな、とヴァイスくんは返した。
なるほど、提案されたんじゃなく『相談』か。
流石に全部彼が思いついたわけじゃあないけど、ヴァイスくんも意見を言った結果がコレなのね。
生意気ね。
「ふーーーん。ヴァイスくんのくせに、清濁併せ飲んだ策が取れるようになったじゃない。前はボケっとしてたくせに」
「ああ。ボケっとしてたら弟に革命起こされたヴァイスくんだ」
「クソデカスケールな自虐やめろ」
くっそお。
ヴァイスくんの成長は嬉しいけど、極悪令嬢のわたしに悪知恵が並びつつあるのがシャクね。
ま、まだ並んでないわよね? うんうん、まだまだなはず……。
「で。嘘の情報を流せたことといい、報道批判を抑えられたのはどういうことよ?」
「ああ。外務に強いコルベール・カモミールを抱きこみ、やつの家ごと協力させたのもあるが、まぁタイミングだな」
タイミング……?
「言っただろう? 俺は海運国から、異能具探しの密命を受けていると」
「そうだけど、それがいったい…………って、あ!?」
そういうことか!
「い、いまヴァイスくんがバッシングされまくって、悪意の注目や粗さがしをされまくったら、海運国と取引中なこともバレちゃうかもで……!」
い、いずれどこかでバレるにしても、『海運王』にとって邪悪な王と取引したと知られるより、正義の王と協力したと思われる方がいいわけで……。
「ちょうど、海運国は情報の要所でもあるからな。向こうが勝手に調整してくれたよ」
「うわーーーーー……それで今のタイミングで、革命起こしたわけ……」
海運王様、高くついたわね。
王国の不安定さに付け込んで、運送料の免税を餌に、ヴァイスくんを危険な異能具探しに使ったばかりに。
にしてもなんて悪辣な。
「ヴァ、ヴァイスくん!」
「むむ?」
「わ、わたしの極悪ランキング1位の立場を狙ってるわけ!? あげないわよ!?」
くっそーーー!
最近、配下にした連中の突き上げが激しすぎる……!
「ジャックくんといい、そんなにわたしの極悪玉座が欲しいのか~~!?」
「ああ、ジャックという男はそのうち消すとして、俺が欲しいのはレイテ自身――あぁいやなんでもない」
「いまなんか怖いこと言ってた!?」
前半のせいで後半の内容が入ってこなかったんですけど!?
「それで最後にっ、わたしが次期女王な件だけど!」
「エルザの提案だ。『お嬢は聖女だから、聖国の女王に相応しくないすか?』と。それ以上の理由はない」
聖女じゃなあああい!
「なんならセラフィムも、レイテ嬢に玉座を渡してもいいと言っていたぞ。次期女王が嫌なら現女王になるか?」
「なるかーーーッッッ!」
……などと革命の詳細を聞きつつ、なにをモチベーションにしてか急成長したヴァイスくんをぽかぽか叩いていた時だ(※なんか幸せそう)。
不意に、ざっぱああああーーーんッ! と。海面を突き上げ、大きなクジラが顔をのぞかせ……。
『海賊の宝ッ、見つからないホエーーーーーッ!』
あ、万能変身野郎のハロルド先輩。
あの人、ちゃんと真面目に探してたんだ……。
『ぐぬぬ……絶対にレイテ様名義で宝見つけて寄付して、あの人を無理やり世界的聖女にして可愛い泣き顔させて……』
などと、なんかクッソ歪んだことほざいてるクジラパイセンだけど。
「あ、あのー先輩」
『むっ、これはレイテ様! 宝は見つかったホエ!?』
「あー、それはまだなんだけどさ。なんかわたし」
先輩が宝探ししてるあいだに、
「聖国の次期女王やることになっちゃった」
『ホアッッッ!?』




