139:参上のヴァイスくんと、このままじゃ惨状!
――『彼』の登場に、ハロルド先輩が固まった。
「な、なぜあなたがここに」
「フッ。貴様が報告にあった『万能のハロルド』か。たとえ貴様が何者だろうが――」
そうして『彼』は、
「このヴァイス・ストレインはッ、レイテ嬢の窮地にはいつでも駆け付ける! たとえ国があんまり安定してない状況だろうとッッッ!」
「駆けつけてはダメでしょうっっっ!?」
わたしの最強王子様、ヴァイスくんはなぜか、ビーチに水着で現れたのだった!
わーーーーい!
「残念だったわねぇハロルド! これでわたしは孤軍奮闘じゃなくなったわ!」
「いやいやいやいやいやっ!? 今やヴァイス様は国王陛下なんですよ!? 玉座開けてきたことになにかコメントは!?」
大丈夫よ!
「たとえヴァイスくんが一日二十時間鍛錬の脳みそ筋肉特訓気絶部だろうが、きっとなにかしら考えてきてるわよ! ねぇヴァイスくん!?」
「うっ、まぁなレイテ嬢!」
「いま『うっ』って言いましたが!?」
なんか頭を抱えてしまったハロルド。「レイテ様といると、初の事態にばかり遭遇する……!」と、苦しいんだか笑ってるんだか変な表情をしている。
さっきまで余裕ぶってたくせに。
「さて。改めて久しぶりね……ヴァイスくん」
「ああ。心配していたぞ、レイテ嬢」
黒髪金眼の王子様。その冷徹めいた風貌から『氷の王子』と呼ばれていたけど、今や『みんなの王様』だ。
ボロボロな奴隷だったのに、成長しやがって~~~このこのっ。極悪令嬢うりうり~っ。
「や、やめてくれレイテ嬢っ。その、あれだ。今のキミはその、布地が少なくて、あまり接させれると――あっ」
「ぎゃーッまぶし!?」
なんかピンク色に光ったんですけどー!? 目がァーッ!
なんなのよそれー!
「……すまん。これは、あれだ。男の異能者特有の現象だ。なぁハロルド?」
「私そんな現象起きたことないんですけど!?」
「むッ!? 報告曰く、最近は毎日レイテ嬢とべったりでもか!? 斬るッッッ!」
「なんでキレてるんですか!?」
おーおー、あの余裕ぶったハロルドが押されムードだ。
なにせヴァイスくんは、シンプルに『最強』だからね。意味わからん爆発極光剣技で、最恐のザクス・ロアを消し飛ばした張本人だしさ。暴力の前には変身も意味ないわ。
「……ふぅ、落ち着いた。レイテ嬢よ、キミの学園での報告はちくいち聞いているぞ。遅ればせながら、『狂言殺人事件』の解決、感謝する。あやうく王国が危なかった」
「いいのよ。わたしは王国貴族なんだから」
国が危うくなったら、わたしの税収にも響くからねぇ~。
「謙遜しないでくれ。キミのおかげで『ディムナ部族連合』の陰謀を暴くことができ、各国立会いのもと、賠償も要求することができた。おかげで王国の復興もさらに早まる。それに『地獄狼』残党の存在も内々に知れて、安心できるというものだ」
語るヴァイスくんに、ハロルドがうんうんと頷いた。な、なによ。
「レイテ様、まさに救国の聖女ですよね~~~?」
ってうるせー! わたしは悪女だしー! 誰がどういっても悪女!
「……まぁ、あれだレイテ嬢。ジャックなる少年や、そこのハロルドという男と妙に距離が近いらしいのは、その……脳が痛くなるのでやめてほしいが……!」
「? なんでこいつらと仲いいと頭痛に?」
疲れてるのかな。ヴァイスくん、最後に会った時にも、再々革命や国の重鎮大量死の影響で、結構な量の書類を抱えてたし。
「んで、今日は本当になんでビーチに? マジでわたしのピンチをかぎつけて、じゃないでしょう?」
「うむ……まぁな。ある程度は仕事が片付いたというのもあるが、実は」
そう言ってヴァイスくんは、ハロルドのほうを睨んだ。
「……先ほどこいつが話していた、『ビーチ付近に沈んだ海賊の宝』の件。あれについて、ブリランテ海運国の王から懇願を受けてな」
えっ、他国の王様から懇願? どゆこと?
「宝を沈めた海賊団は、ただの海賊団ではない。『地獄狼』のように異能持ちすら有し、二十年前まで海を荒らし尽くしていた大海賊団『奈落鮫』というらしい」
「『奈落鮫』!?」
またなんか悪っぽい集団名でてきたーー!
悪の組織なんてこの世にわたしのハンガリア領以外いらないのに~。
「わたしの領と被ってるわね」
「被ってない。それよりも」
流された!?
「最期は海洋国家連合と大激突し、そのさなか、『何か』をしようとしていたところ、突然の嵐に見舞われて沈んだ『奈落鮫』。彼らは金銀財宝だけでなく、国を亡ぼすような『異能具』も船に詰め込んでいたそうだ」
「『異能具』……!」
知っている。マジックアイテムとも呼ばれ、ちょうど学園にある『ヒュプノスの礼堂』のように、非生命でありながら異能を宿した物品をそう呼称するとか。
製造方法はモノによる。たとえば例の礼堂は、〝体内改変能力〟を持つ原初の異能者・ヒュプノスが自身のカタチを変えたものだ。
そして、
「――『聖神馬の霊角』。かつてヴァイスくんを救ったアレも、異能具の一種なのよね」
原初の異能者が一人、〝聖獣製造能力〟を持つ『アルテミス』が遺した聖馬より取れたモノだ。
そのように、異能者本人の成れ果てなり、あるいは異能で生み出されたものの一部なりで、特別な力を宿したアイテムを異能具と呼ぶわけね。
「そう。レイテ嬢と俺を繋いでくれた霊角のように、平和的な異能具ならいい。だが」
「大海賊団『奈落鮫』が有していたのは、自分たちを狙う国々に応戦するための代物……。なるほど、それは海運国の王様が助けを求めてくるわけだわ」
自分の支配地にそんなのがあってみなさい。
うっかり子供が拾って起動させちゃったら大惨事よ。謎光線を放つ遠距離兵器だった場合、王様だって危ないし。
「当然、『海運王』は情報を与える先を絞った。大混乱は避けられないし、悪人に知られたらどうなるかわからんからな。そこでいっそ、自国の民ではなく」
「最強で王族なヴァイスくんに捜索を願ったのね」
実力は言わずもがなだし、他国とはいえ責任ある王族。てか王様だ。
自国のトラブルを任せちゃうのはアレだけど、王と王同士の秘密を破れば、国際社会から白い目で見られるのはヴァイスくんのほうだ。〝あいつチクり魔だ〟と嫌われてしまうわけで。
「当然、『海運王』はたっぷりと見返りは用意してくれたがな。向こう五年、〝『地獄狼』に国を荒らされたお見舞い〟という名目で、ストレイン王国が行う海路利用税は免除され、他国への海上貿易仲介料も半額にしてくれるとか」
「あはは、やるわねぇブリランテの王様」
お見舞いという名目が憎い。
裏ではヴァイスくんに泣きついておきながら、表ではむしろ、ストレイン王国を助ける慈悲の立場を得ようってわけ。
「ふん。少々気に食わんが、背に腹は代えられん。王国の安定化に利用してやるさ。……という事情で来たのだが」
再びヴァイスくんは、ハロルドを睨んだ。
「貴様、なぜ知っている? この近辺に海賊の宝と異能具が流れ着いているかもしれないという話は、極秘調査の結果、つい最近にわかったことだ。知っているのは俺と海運王と、それこそ彼のごく一部の重鎮くらいだろう。それを」
「甘いですねぇヴァイス様。まだ、知っているはずのグループがあるでしょう?」
「なに!?」
他に知っているグループ……?
それって……あ!
「わかったわ。大海賊団『奈落鮫』自体よ! そこの構成員なら知っているはずよっ!」
なにせ、例のお宝や異能具ごと、自分たち自身が嵐の海に流されたのだ。
普通ならすぐに気絶して死ぬところではあるけど……。
「もしも意識がつなげていたら、大まかな宝の位置がわかるはず。ハロルドあんた、『地獄狼』だけじゃなく、『奈落鮫』にも属していたのね!?」
「正解です、レイテ様! このハロルド、いろんなところでバイトするのが趣味でして」
「バイトってレベルか!!!」
こ、こいつ。肉体から精神までなんにでも変身できる万能野郎だからって、危険組織にほいほい首つっこみやがって。
マジで人生舐めプ野郎ね。いつか絶対にわからせてやるわ。
「溺死しないよう、魚に変身してどーにか生き延びたんですよねー」
魚になってたの!?!?!?
「でも魚って頭悪いから、その影響で私、自認が魚になってまして、人間に戻れたのはここ数年のことで……」
「黙れハロルド。貴様、やはり信用ならんやつだ。ここで活け造りにしてやろうか?」
ヴァ、ヴァイスくん、妙にハロルド先輩への当たりが強いわね。
わたしと違って初対面よね?
「ふふふ、おやめください。大概のことはしたので別にいつ死んでもいいとは思ってましたが、今はレイテ様を『世界一の聖女』にする勝負が、ちょっと楽しいですので」
「……レイテ嬢に感化されたか。気に食わんが〝わかるやつ〟だ。なら許す」
って許した!? なに不承不承ながらも『フッ、仕方ない……』って顔してんのヴァイスくん!?
「それで、例の海賊団はどんな異能具を隠し持っていた?」
「さぁ知りません」
「なんだと!?」
えっ、知らないの先輩? その海賊団に入ってたのに!?
「もしかして……ハブられてた? わたしがよしよししてあげようか……?」
「違うから憐れみの視線やめてくださいっ! ……そうではなく、ボスたる『ディック船長』は疑り深い方でしてね。二人の幹部に以外、異能具の詳細は秘密にしていたのですよ」
そ、そうだったんだ。
えーーと、つまり……?
「……わたしたち、詳細がまっっったくわからなくて、うっかり起動したら大惨事が起きるかもな兵器まじりの宝を、探さなきゃいけないってこと!?」
「そうなりますね! ではレイテ様ッ、宝探し勝負スタートです!」
って宝に異能具入ってるなんて聞いてないわーー!!!




