139:ビーチのお宝発見合戦! そして、
「わたし、レイテ様は悪女! レイテ様は悪女! レイテ様は悪女! はい復唱ッ!」
「言いませんよ!? ……り、理解不能だ。なぜレイテ様がそんなに悪女にこだわるのかわからない。素直に聖女評価を受け入れれば、万人から褒められる状況なのに……」
なんかドンびいてる様子の万能変身野郎・ハロルド。
はぁ~~やれやれね。
「わからないの? 世の中舐めてる万能が聞いて呆れるわね」
「なッ!? り、理解するから待ちなさい。流石の私もプライドがありますっ。ふむ……レイテ様の献身ぶりからすると、〝あえて悪人を目指すことで、悪党たちの気持ちを理解しようとしている〟……!?」
「全然ちがうわよバカ」
「!? じゃ、じゃあどんな深い考えが!?」
頭悪いのね。教えてあげるわ。
「『悪の組織』とか『黒色』ってさ」
「は、はい」
「『正義の組織』とか『白色』より、かっこいいじゃない? だからよ」
「それだけ!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
えっ、それだけだけど、なによ。
「そ……そんな浅瀬通り越して砂丘な思考で、『救国の聖女』の名を拒否しているのか……!? こんな奇矯な女性がこの世にいるのか……!?」
「砂丘ってなんじゃいっ、奇矯ってなんじゃい!」
好き勝手言いやがってこのやろー。
てか、なんで頭抑えてこれまで見たこともないようなツラしてんのよ。
柔和な仮面はどうしたわけ?
「…………なるほど。いいでしょうレイテ様。受けて立ちますよ」
「おっ?」
「『悪女評価を得たいあなた』VS『さらに聖女評価にしていく私』という決闘、このハロルドが受けて立ちましょう!」
おおっ、急に乗る気になったじゃない。
どうしたのかしら? 傍観者ぶって冷めてたくせに。
「まぁいいわ。よしっ、このレイテ様がボコボコにワンキルしてやるわよ!」
めちゃくちゃ怖いすごい悪女になってやるんだからっ! えいえい、おー!
「ふっ……覚悟しておいてくださいね、レイテ様。こうなれば、世界中があなたを聖女と褒め称える天国にして、あなたの理解不能な悪女願望を壊してあげますよ。あなたを、理解できる凡俗に堕としてあげます……!」
ふふーん、やれるもんならやってみなさい。
「じゃあさっそく、勝負スタートよ! ――あ、埃のかたまり落ちてる。猫ちゃんが誤飲するかもだからひろっとこ」
「悪女とは一体ッッッ!?」
こうして、千変万化の冷めた万能・『地獄狼』隠し玉のハロルドとの対決が始まったのだった……!
まぁーボスのザクスに勝ってるし、わたしの勝ちでしょ! わはは!
◆ ◇ ◆
で。途中入学した一学期も終わり、夏真っ盛り。
学期末に開かれた『臨海学校』に参加したわたしは、青い海の輝くビーチにて、相変わらずハロルドとの勝負を続けてたんだけど……。
「――流石です、レイテ様……! 〝おーっほっほっ、わたし悪女だから海の家ではしたなく買い食いしちゃうわぁ~! トウモロコシに焼きそばウメウメッ!〟と振る舞っていたのは、礼法に縛られた貴族の子女たちの心を、解き放つためなのですね!?」
「うぇえぇっ!? わ、わたしは普通に、悪女として好き勝手に……!」
「生徒のみなさまっ、レイテ様が羽目の外し方を教えてくれたのです! 今日ばかりは無礼講で、彼女に倣って青春しましょうっ!」
『わーーーっ! ありがとうございますレイテ様ー! レイテ様はやっぱり聖女だーーー!』
う、うわーーーーーんっ! どうしてこうなった~~~~!?
またわたし負けちゃったよぉおおおお~~~~!
「ふっふっふ。これでレイテ様の聖女ポイントは、+100は堅いですかねぇ」
「は、はぁ~~!? せいぜい10ポイントくらいでしょ!?」
「いえいえ。青春の思い出は、大人になっても忘れられないと言います。今日レイテ様のおかげではしゃげた生徒たちは、いつか大人になって子供たちに、〝レイテ様という聖女のおかげで――〟と語り継ぐでしょう。その永続性を加味して、100で」
「ぐぬぬぬぬぬ!」
……明確なルールとかは特にないけど、とりあえず聖女評価になったら『+聖女ポイント』、悪女評価になったら『+悪女ポイント』が入ることになった。
ポイント基準もあいまいなのでいちいちハロルド先輩と談義してるけど、ひとまず、わたしの悪女ポイントは現在ゼロである……!
ちくしょおおおーーーーー!
「いやぁ~~もう4000でしたか? レイテ様の聖女ポイントはさくさく溜まっていきますねぇ」
「あ、あんたの口が上手いだけでしょうがっ。たとえばこのまえ、食堂でフォークとナイフづかいのヘタな男子生徒の前で、嫌味として完璧なテーブルマナーを披露してやったじゃない?」
そんなのもう、完全に悪女確定なのに……!
「一緒にごはんしてたあんたが、『流石ですレイテ様……! 彼に恥をかかせないように無言の所作のみで、テーブルマナーを教えてあげているのですね……!?』なんて、小声なのに微妙に周囲に聞こえる声で言ってっ!」
「ああ、あのときは面白かったですねぇ~~。〝直接指導すれば周囲から評価されるところを、相手の気持ちを考え、あえて無言で教えてみせる。レイテ様はまさに私信なき聖女の鑑〟と学園で評価され……!」
「大迷惑じゃーーーい!!!」
く、く、くっそーーーっ。
こんな感じで、ジャックくんとちょろちょろしてたときよりも、わたしの聖女扱いが加速してるよ~~~!
「ふっふっふ。お困りのようですねぇレイテ様。もう諦めて私の聖女になっちゃいますか?」
「あ、諦めるかアホー! わたしは絶対にわたしを評価する連中を見返して、迫害されてやるってばよッ!」
「くくっ、意味わからないこと言わないでください」
なぜか笑ってくるハロルド野郎。こっちは真剣だってのに。
太陽の下のさわやか地味イケメン顔がムカつくわねぇ。
「それでこそです、レイテ様。簡単に勝負が終わったらつまらない。……そこでレイテ様には、〝悪女扱いになれるかもしれない〟とっておきの情報を渡しましょう」
な、なんですって!?
「ここのビーチは、土地的に『ブリランテ海運国』の所有地となります 」
「ああ、うん。造船とか海上貿易で栄えている国だっけ。それがどうしたのよ?」
「それから、こんな国際法があるのを知っていますか? 『未認可の宝物を発見した場合、その土地がどこかの国のものであれば、宝物をその国に献上しなければいけない』と」
……なんかそんなのも、聞いたことはあるけど……。
「で、なんなのよ!? はやくわたしが悪女になる情報言いなさいよ! あんま焦らすと泣いちゃうわよ!?」
「な、泣かないでください。あなたを泣かすとマジで学園中からボコられますから……!」
ハロルドはごほんと咳払いすると、「つまりですね」と話を締め、
「宝を見つけて、贅沢三昧に使い込んでやりましょう! 国際法を無視して、遊び惚けてやりましょうってことですよ!」
「な、なんですってーーー!?」
そそ、それはたしかに悪女になれるわね……!
見つけたあぶく銭で遊びまくる。その時点で悪女ポイント+2000!
そして国際法の無視ッッッ! これは悪女ポイント+6000はいけるわ!
「ご、合計悪女ポイント、8000……! これは世界一の悪女にだいぶ近づくんじゃないの!? で、でも、お宝なんて」
「ふふふ。私は様々な国の人間に化け、あちこちを渡り歩くのが趣味でしてね。そこで聞いたのですよ――」
――〝このビーチの付近には、海賊船より沈んだ秘宝が眠っている〟、と。
ハロルド先輩はわたしの耳元でささやいたのだった……!
「か、海賊の秘宝。なんてほのかに悪そうで魅力的ワードなの……! 絶対に見つけてやるわ!」
「ああ、言い忘れました。私が先に見つけたら、レイテ様の名で海運国の病院とかに全額募金しますので」
「ファーーーッ!?」
そ、そんなことしたらめちゃくちゃ聖女じゃないの!
しかも海運国ってことはいろんな国に船出してるから、いい噂は途端に広がるし!
「ふっふっふ、要は宝の発見合戦です。この勝負受けますか~? この万能・ハロルドに挑みますか~? レイテ様、おひとりで」
「うぐっ」
……そう。実はいま、わたしは珍しくひとりだった。
メイドのエリィはヤバい弟に拉致された(可哀想)。
ジャックくんは『みんな水着なんですよね!? 僕、首筋見ると締めたくなるので……』という理由で欠席(こいつやっぱ怖すぎる)。
アシュレイは変態不審者として未だ逃亡中(こいつはいい加減にしてほしい)。
「さぁさぁ、孤軍奮闘しますか!?」
「わたしは――」
と、そのときだった。
「――いいや、レイテ嬢には俺がいる!」
懐かしくも頼もしい……ある人の声が、ビーチに響いた!




