138:勝負! レイテちゃんは悪女か、聖女か!?(※敗色99%!)
――季節は夏真っ盛り。
夏と言えばアレ。
格式高い『聖アリスフィア学園』も、この時期ばかりは堅苦しさをかなぐり捨てて――、
『海だぁああああ~~~~~~!』
と、いうわけで。
このレイテ様を含めた学園生たちは、一学期の終わりに『臨海学校』へと出たのでした!
わーーー海でっかーーーい。
砂浜きれ~~~~~~~。
そしてーーーー、
「――エルザ兄さん……じゃなくてエリィ嬢! 俺と一緒に、泳ごうな!」
「ちょっ、待てよセラフィム。今の自分とおまえは、メイドと王子でだな……!」
「泳ごうな!!!!!!!?!?!?!?!?!?!?!」
「ぴーーっ!?」
お嬢たすけてーーー! と喚いてくる水着メイド。
はぁー夏ねー。バカップルがうるさい季節だわー。
「知らないわよエリィ。兄弟なんだから、仲良くよろしくやってなさい」
「兄弟なんだからよろしくやったらダメでしょうがよッ!?」
そうして会長に抱えられ、「うわーー!?」とか喚きながらどっか拉致されるエリィを見捨て、わたしが砂浜を散策していた――そのとき。
「ふふふ……ご機嫌麗しゅう、レイテ様」
「うわ出たっ!?」
現れたのは、ラッシュガード姿の好青年・生徒会庶務のハロルドだ。
この野郎。相変わらずむかつく笑顔してるわねぇ~。
「レイテ様、いよいよ臨海学校が始まりましたねぇ。数週間前の私の宣言、覚えていますか?」
……ええ。忘れたくても忘れられないわよ。
「さぁ、勝負の時間です! 『悪女として君臨したいレイテ様』VS『レイテ様には、聖女としてさらに伝説になってもらいたい私』とねぇ!」
く、く、くそーーー! どうしてこんな厄介なことになったあああ~~~!?
◆ ◇ ◆
数週間前。
聖国のセラフィム王子が『地獄狼』残党と暴露し、エリィが第一王子だとわかった後のこと――。
「――仲良くしよう、エルザ兄さん……! 昼も夜も!!!!!!」
「夜ってなんだフィムッ!?」
なんて言い合うセラフィム会長とエリィ。
仲睦まじいようで何よりだ(※エリィはガチ拒否してるが)。
これにてハッピーエンド――って空気だけど、
「で、あんたは結局なんなのよ?」
「おぉっと?」
マイペースに紅茶を入れている男。生徒会庶務で、『地獄狼』残党なハロルド・シンプソンに向き直った。
「わたしの魔眼が効かない変な奴……。あんたはどういう異能で、どんなポジションしてるわけ?」
見れば見るほど『ありがちな貴族生まれの、品ある好青年』って感じのハロルド。
学園を歩けば似たような者はちょいちょいいるわね。イケメンの部類ではあるけど地味だ。
「ふふふ。秘密というわけにはいきませんか?」
「いかないわよ馬鹿。そもそも残党な時点で、調査してヴァイスくんに報告しなきゃだし」
……ハロルド・シンプソンという男。考えてみれば名前まで地味でありがちね。
特筆する点があるとすれば、紫っぽい髪くらいか。
まぁ貴族は異能の原動力『アリスフィア放射光』の影響を受けて髪色もカラフルになるから、さほど珍しくは――、いや。
「……紫系の髪って、わたしのエリィと同じじゃないの。そんなやつがセラフィム会長の遣いをしている点、魔眼で正体がわからない点から……!」
「おおレイテ様っ、気付かれましたか! その洞察力、よほど多くのトラブルに巻き込まれてきたと見える!」
「うるせーーーっ!」
好きで巻き込まれてきてないわ~!
「さすが、カバン一つ見て未亡人の素性を見抜くとされるレイテ様。ハンガリア領発行の漫画化で知ってます」
わたし漫画化してんの!?
「ここは素直に、私も正体を明かしましょう――」
指を鳴らすハロルド。瞬間、ボッと。彼の全身から『モザイク色』の放射光がにじみ出た……!
その中で、ハロルドの姿が揺らいでいく。
「っ、それは」
「私の異能は『箱の中の蛙』。見た目はもちろん、観測しえない魂と精神の情報まで、自在に偽装できる力です」
「!?」
モザイクの中、ハロルドの見た目が老人・女性・子供にと移り変わっていく。
恐ろしいのは、説明しながら『なんとなくの印象』まで変異していくことだ。
「変身能力……! それも、内面情報まで偽れるですって……!?」
まさに変身系の最上位だ。
どんな人間にもなれるし、読心とかそういうのも効かないってことじゃないの。
「厄介すぎるわ。戦闘系よりよっぽど怖いわね」
「そんなことはないですよ。『実在の人物』に変身すると、やはりどこかで違和感が出るんですよね~」
あんまり他人には興味ないせいですかね――なんて舐めたことを言いながら、ハロルドの姿は好青年の学生に落ち着いた。
「立場としては、『地獄狼』からセラフィム王子に遣わされたメッセンジャー兼お手伝い係になります」
「……髪色については?」
「想像通りですよ。〝王子サマはエリィが大好きらしいなぁ? なら愛着もってもらえるようサービスだ♡〟と、ザクス総帥の指令で」
「なるほど。ザクス・ロアが悪趣味なこと含め、色々わかったわ」
セラフィム会長は王子様。
そんな立場の人間が、国際的に警戒されてる『地獄狼』と、ほいほい直接やりとりできないもんね。
それに暗殺も絶えないお国柄だ。おもりをつけてあげたほうがいいと判断したのね。
「エリィは知ってた?」
「知るわけないでしょうがッ! ザ、ザクスの旦那……内緒で弟を『地獄狼』入りさせて変なサービスしてたとかふざけんなっ! あいつクソじゃないです!?」
「あんたはそいつの手下だったでしょうが」
「あ、そうでした……。結構、仲良かったです」
でしょうね。
たまにエリィ、殺人鬼とか同僚の話してるし、カス職場なりに癒しになってたんでしょうね。
「ふふ、ザクス総帥は強欲な方。裏切らない限りは、部下――所有物は良く扱ってくれますからねぇ」
「語ってんじゃないわよハロルド。――今よ、ジャックくん」
「むっ!?」
刹那、好青年の首筋にヒタリと、『影の刃』が押し当てられた。
わたしの弟子(※一回破門にしたけど、なんか泣きついてきて哀れだったから復縁)のジャックくんが、背後に忍び寄っていたのだ。
「これはこれは……ジャックさん、いつのまに」
「レ、レイテ様に目配せで指示をもらってたんですよ。あなたが、〝他人にあまり興味がない〟と言った瞬間に」
「……なるほど。それはやられましたねぇ」
墓穴晒すから悪いのよ。
他人に興味がないってことは、小さな所作を見逃しやすいってこと。
そこを利用しない極悪令嬢じゃないわよ。
「セラフィム会長の事情はわかったわ。聖国ぶっ壊し計画なんて好きにやればいいし、てかしなくても、すでに『最低限の望み』は叶えたでしょ? ねぇ会長」
「フッ、ああ。全ては聖女殿のおかげでな」
ウチのメイドへと親愛の眼差しを送る会長。
「おかげで、兄の心を取り戻すことができた……!」
いつのまにやらエリィの横に移動してきており、その手を絡めるように取ったのだった。
うわこっっわ。エリィも「ヒエッ」とか言ってるし、この弟めちゃくちゃヤバくない……!?
「ま、まぁ会長については良し。なんかやらかすとしても、自業自得な聖国の連中と、エリィ以外に害はないし……」
「お嬢!?」
「それよりも!」
びしっと指を突き付けてやる。
目的が過激なやつよりも、不透明なやつのほうが怖いのよ。
「ハロルド・シンプソン。なんにでもなれるあなたは、一体なにをするつもり?」
問いかけるわたし。
即答は、ない。じっくりと数秒……大聖堂に沈黙が流れ、そして。
「……ふむ。私自身の目的なんて、正直言うとないんですよね」
な、なんですって?
「レイテ様がおっしゃったように、たしかに私はなんにでもなれます。ですが――」
再び、ハロルドの姿がぶれる。
今度は人間どころか、猿や像や虎にまで。もはや変身範囲が異常だ。
「――なんにでもなれるがゆえに、叶えたいことがないんですよ。人間の夢って、わりと身体ひとつで叶っちゃいません?」
それは……そうかもしれない。
たとえばモデルなどだ。当然、所作の美しさも問われるが、そもそも美貌が圧倒的ならそれだけでデビューくらいは叶う。
声や雰囲気まで変えられるなら、芸能系の仕事には大概なれるだろう。筋肉量まで増やせるならばスポーツ選手にもなれる。
なるほど万能だ。夢なんて言葉が、ハロルドの前では安っぽくなってしまう。
「……冷めているわね。人生あまり楽しくない感じ?」
「ええ、熱くなれるのは漫画を読んでる時くらいです。そういう点では、ザクス総帥やレイテ様も対象なんですよねぇ。十把一絡げな他者と違って、現実離れた英傑の活躍は見てて楽しい」
「あぁそう」
それがこいつが『地獄狼』にいた理由か。
納得したわ。なにせ、なにかあっても他人になれば逃げられるしね。
その万能ぶりからすれば、大犯罪組織に入るのも、大した覚悟もいらないわけだ。
「よくわかったわよ……あんたのことは」
本当に、嫌というほどわかった。
要はコイツ――世の中というものを舐めているのだ。
なにせ万能なのだから。自分に不可能はないのだから。
「ああ、それなら――!」
わたしは決めた! 極悪令嬢の矜持にかけてッ!
「勝負よ、ハロルド!」
「えっ、はっ?」
「わたしは『世界一の極悪令嬢』になりたいの! 誰もが聞いたら『ぴっ~!』って鳴いちゃう、恐怖の代名詞になりたいの!」
「えっ、えっ、えっ?」
さぁハロルド。あんたが万能だというのなら――!
「このわたしを、『世界一の聖女』にしてみなさい!!! わたしの極悪パワーとあんたの万能パワーで、綱引きをするのよぉおおお~~~!」
うおおおおおっ、この舐めた野郎に現実の厳しさを教えてやるーーー!
わたしの怖さを心に刻み込んでくれるわぁあああ~~~!
「で、この勝負、受けるの!? 受けないの!?」
「え、えーーーとぉ……」
おらおらどうしたぁ!? 臆したかぁああ~~!?
わたしの極悪パワーの勝ちか~~~!?
「……明かした通り、私はとても万能です。私の能力を知って、勝負を挑んできた人間は……これまでいなかった……。まずそこに驚いてますが」
ますが?
「そもそもレイテ様――もうかなり有名な聖女ですよね? あなたに勝ち目ってないのでは?」
「ガーーーーンッ!?」
こ、こ、この舐めプ野郎が言いやがったなぁああああ~~~~!?




