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氷壺《月のキツネ》  作者: YUQARI
第一章 古寺に封じられた者
12/50

捕まえた鬼火

 しだいに夜は、()けていく。


 日が落ちきって、どれくらい経っただろう?

 しばらく練習していると、いつの間にか僕は、狐火の近くまで跳べるようになっていた。

 《あと少し……っ! もうちょっと……っ!》


 こんなに早く届きそうになるとか、僕って凄くない!? 人形(ひとがた)変化(へんげ)するのも、夢じゃないかも知れない。

 そう思うと、何でもやれそうな気がして、胸が踊る。

 ドキドキと高鳴る胸を抑えつつ、地面を蹴る足に力を入れた!




 ヒョン──!




 そして僕は、調子に乗って、獲物を狩る要領で牙を剥く。

 《……うがぁーっ!!》




 ──ぱくんっ!




『!』

 勢い余って、前足で()()()ではなくて、口の中に入れてしまった。うげ。やらかした……。


 まさか口に入るとか、誰が思うだろう?

 慌てて吐き出そうとする、が。




 ──ごくり。




『……ひっ!』

 思わず飲み込む。

 《しまった食べてしまった……》


 目の前でフワフワと舞っている狐火に噛みつき、思わず飲み込んでしまった。僕は青くなる。

 他の妖怪の火って、食べたらどうなるの……!?


『……あ、あ……どうしよう。どうしよう……っ!』

 オロオロと辺りを見廻していると、弦月(げんげつ)和尚さまがやって来た。


「……狐丸? 狐丸はどこじゃ?」

 暗くなったのに僕の気配がなくて、心配で探しに来たようだ。


 僕は泣きながら、そんな弦月(げんげつ)和尚さまに飛びついた。

 ……当然、涙は出てないけど……でも、心は凄く焦っている。どうしたらいいのか分からなかった。


『うわーん。和尚さまぁ。……ぼ、僕、狐火を……狐火を食べちゃったよう!!』


 泣きついてくる僕の言葉に、弦月(げんげつ)和尚さまは狼狽(うろた)えた。


「な、なに!?」

 素っ頓狂な声を上げる。


 その声に触発されて、僕は動揺した。

 どうしよう。やっぱり食べてはいけないものだったんだ! 僕は更に青ざめた。


『うわーん。どうしよう。どうしよう……』

「き、狐丸、狐丸や?……落ち着け、落ち着くのだ……」

 一生懸命なだめるが、和尚も気が動転している。僕と二人、わたわたとするばかりで、解決の糸口はなかなか見いだせない。


「と、とにかく、瑠璃姫に会いに行ってみるか……?」

『瑠璃姫さまに……《会う》……』

 寺の狐火の正体は、地下に封印されている妖怪のものだ。

 寺の住職である弦月(げんげつ)和尚さまも当然、瑠璃姫の存在を知っている。

『……』


 きっと和尚さまは、ただの和尚さまじゃない。だって、(あやかし)のタマや僕を見ることが出来て、尚且つ(おび)えない。

 もしかしたら和尚さまは、瑠璃姫さまを知っているどころか、封印した張本人……もしくは、瑠璃姫さま……九尾の監視役であったりするのかも知れなかった。



「瑠璃姫……」


 そうぽつりと言った、和尚さまの顔が曇る。

 僕に行ってみるかと尋ねはしたものの、本当は乗り気ではないように見えた。


『……瑠璃姫さまに、会えるの?』

 和尚さまの顔を覗き込みながら、僕は恐る恐る尋ねてみる。

「……」

 僕の質問に、和尚は困ったように笑う。

「あ……ああ、会えるには会える。が……」

 言って、少し黙り混む。

「……妖狐のお前が見ても、楽しいものでは無いぞ?」


 和尚さまは、もう笑ってはいない。

 悲しい表情を、浮かべていた。


『……和尚さま』

 和尚さまの様子が変だ。僕は心配になる。

 《……和尚さまが困るなら、僕は行かなくても……》


 そう思ったとき、ポワッと僕の体が光り出した。

『……う、うわ……っ』

 痛みも苦しみもないが、これはどうしたことか……。


 目が見えない和尚さまにも、その光りが(まぶた)の裏にまで届いたとみえて、僕が光り輝いたと同時に、ビクッと肩を震わせた。

「!」


 これはいかん! と、和尚さまは僕を抱き上げた。

「もう、迷ってる暇などありはせん……っ」


 一声叫ぶと、寺の中へと急いだ。



 騒ぎを聞きつけたんだろうと思う。抱き上げられた和尚さまの肩越しに、タマが猫の姿で、こっそり後を追いかけて来るのが見えた。

 不安に駆られている僕を安心させるためなのか、そっと片目をつぶってみせる。けれど笑ったその顔は、緊張で引きつっている。



 バタバタバタ……と慌ただしい足音が響く。

 夜は静かに()けていく。



 誰もいなくなった暗闇に、木々に取り憑いた狐火だけが蛍のように、淡く輝いていた。





 × × × つづく× × ×


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