捕まえた鬼火
しだいに夜は、更けていく。
日が落ちきって、どれくらい経っただろう?
しばらく練習していると、いつの間にか僕は、狐火の近くまで跳べるようになっていた。
《あと少し……っ! もうちょっと……っ!》
こんなに早く届きそうになるとか、僕って凄くない!? 人形に変化するのも、夢じゃないかも知れない。
そう思うと、何でもやれそうな気がして、胸が踊る。
ドキドキと高鳴る胸を抑えつつ、地面を蹴る足に力を入れた!
ヒョン──!
そして僕は、調子に乗って、獲物を狩る要領で牙を剥く。
《……うがぁーっ!!》
──ぱくんっ!
『!』
勢い余って、前足で触れるではなくて、口の中に入れてしまった。うげ。やらかした……。
まさか口に入るとか、誰が思うだろう?
慌てて吐き出そうとする、が。
──ごくり。
『……ひっ!』
思わず飲み込む。
《しまった食べてしまった……》
目の前でフワフワと舞っている狐火に噛みつき、思わず飲み込んでしまった。僕は青くなる。
他の妖怪の火って、食べたらどうなるの……!?
『……あ、あ……どうしよう。どうしよう……っ!』
オロオロと辺りを見廻していると、弦月和尚さまがやって来た。
「……狐丸? 狐丸はどこじゃ?」
暗くなったのに僕の気配がなくて、心配で探しに来たようだ。
僕は泣きながら、そんな弦月和尚さまに飛びついた。
……当然、涙は出てないけど……でも、心は凄く焦っている。どうしたらいいのか分からなかった。
『うわーん。和尚さまぁ。……ぼ、僕、狐火を……狐火を食べちゃったよう!!』
泣きついてくる僕の言葉に、弦月和尚さまは狼狽えた。
「な、なに!?」
素っ頓狂な声を上げる。
その声に触発されて、僕は動揺した。
どうしよう。やっぱり食べてはいけないものだったんだ! 僕は更に青ざめた。
『うわーん。どうしよう。どうしよう……』
「き、狐丸、狐丸や?……落ち着け、落ち着くのだ……」
一生懸命なだめるが、和尚も気が動転している。僕と二人、わたわたとするばかりで、解決の糸口はなかなか見いだせない。
「と、とにかく、瑠璃姫に会いに行ってみるか……?」
『瑠璃姫さまに……《会う》……』
寺の狐火の正体は、地下に封印されている妖怪のものだ。
寺の住職である弦月和尚さまも当然、瑠璃姫の存在を知っている。
『……』
きっと和尚さまは、ただの和尚さまじゃない。だって、妖のタマや僕を見ることが出来て、尚且つ怯えない。
もしかしたら和尚さまは、瑠璃姫さまを知っているどころか、封印した張本人……もしくは、瑠璃姫さま……九尾の監視役であったりするのかも知れなかった。
「瑠璃姫……」
そうぽつりと言った、和尚さまの顔が曇る。
僕に行ってみるかと尋ねはしたものの、本当は乗り気ではないように見えた。
『……瑠璃姫さまに、会えるの?』
和尚さまの顔を覗き込みながら、僕は恐る恐る尋ねてみる。
「……」
僕の質問に、和尚は困ったように笑う。
「あ……ああ、会えるには会える。が……」
言って、少し黙り混む。
「……妖狐のお前が見ても、楽しいものでは無いぞ?」
和尚さまは、もう笑ってはいない。
悲しい表情を、浮かべていた。
『……和尚さま』
和尚さまの様子が変だ。僕は心配になる。
《……和尚さまが困るなら、僕は行かなくても……》
そう思ったとき、ポワッと僕の体が光り出した。
『……う、うわ……っ』
痛みも苦しみもないが、これはどうしたことか……。
目が見えない和尚さまにも、その光りが瞼の裏にまで届いたとみえて、僕が光り輝いたと同時に、ビクッと肩を震わせた。
「!」
これはいかん! と、和尚さまは僕を抱き上げた。
「もう、迷ってる暇などありはせん……っ」
一声叫ぶと、寺の中へと急いだ。
騒ぎを聞きつけたんだろうと思う。抱き上げられた和尚さまの肩越しに、タマが猫の姿で、こっそり後を追いかけて来るのが見えた。
不安に駆られている僕を安心させるためなのか、そっと片目をつぶってみせる。けれど笑ったその顔は、緊張で引きつっている。
バタバタバタ……と慌ただしい足音が響く。
夜は静かに更けていく。
誰もいなくなった暗闇に、木々に取り憑いた狐火だけが蛍のように、淡く輝いていた。
× × × つづく× × ×




