ならば、死ね!
「マスター、パールヴァティー様の帰還準備が整いました。こちらの世界へ呼び戻します」
「宜しく頼む、それとシヴァさん
彼女の出迎えをお願い出来ますか?」
「何故かね?貴方はこの研究の総責任者だろ」
「そうですが、70手前の私には10代の娘さんの全裸姿は目に毒ですからな…」
シヴァは私に苦笑いを浮かべつつ、了承してくれた。娘さんの服を持ち【DIVEシート】の開閉ハッチの前に立った
「そうそう博士、【MOON SHOT DIVE プログラム】ですが、ソレの全権を我が【心理の目】に譲って貰えないでしょうか?」
シヴァは突然、とんでもない事を言い出した
「私個人としては利権関係に興味はありませんので、どこの誰が管理責任件を持とうと構いませんが、日本政府はあなた方のクライアントではないのですか?」
「DIVEシステム終了しました、ハッチ解放します。周囲の方はお下がりください」
DIVEシートからプログラム的な機械音声が流れる。シヴァはハッチが解放された後、パールヴァティーに服を手渡していた
その隙に私は、背後であらかじめEVEと交わしていたサインをシヴァに見えない様にゼスチャーした
「ただいま戻りました、お父様
【メタバース ガイア】は理想の世界に成りうると確信致しました」
パールヴァティーの笑顔は【メタバース ガイア】の快適性とリアルさを褒め称えている
「EVE、最期にもう1度コーヒーをいれてくれ、私の分だけで良い」
DIVEシートから服を着て出てきたパールヴァティーは足をもつれさせて、転びそうになってしまう
「大丈夫かい?パティ…」
「仮想空間内での行動とリアルでの行動の違いは、脳に大きな負担がかかります
慣れるまでは気を付けてください」
「パティ…疲れたんだね。今日は眠りなさい
後は父さんが良い様にしておくからね」
シヴァは懐から拳銃型の医療器具を取り出して、娘さんの首筋にあてて引き金を引いた
パールヴァティーはその場に崩れ落ちる様に深い眠りについた
「娘には聞かせたくない話があるんだ
今少し付き合ってもらいたい」
シヴァは私に対して覚悟を決めた目付きをしていた。背後からEVEがコーヒーを持って入って来た
「先程の話は、貴方のもう1つのクライアント【ロスチャイルド】からの意向ですか?」
「ははは、流石は唯人博士…良くご存知だ
知っての通り、彼らは今まで化石燃料と医療技術を掌握し富を得て、世界をコントロールして来た
しかし、地球の化石燃料は枯渇寸前だ
それに、これ以上の医療技術の発展は更に人口増加を招くだけだ
彼等には新しいビジネスが、必要になったのだろうな」
「それで【心理の目】の様な宗教団体に話を持って行き、1企業として活動する為の手解きと資金援助をして来た
日本政府からの依頼を受けられる程までに」
語らずとも全てを知られていた事を理解したシヴァは、円形型の研究室の外側を歩き始めた
「ロスチャイルドと敵対する勢力が、資金援助を得て莫大な投資をして博士とは別の【メタバース】を作らせているのも知っているのだろう?」
「あぁ、元Facebookが、そうだったな」
「私のクライアントは【メタバース】事業で負ける訳には行かないと、かなり必死になっているようでね
始めは日本政府に管理運営させるつもりだったようだが、直接傘下に納めたいと言ってきたんだ
博士は反対するかね?」
研究室に入って来た時からと同じ口調を維持してはいるが、今のシヴァは私の挙動に全神経を注いでいる様だ
ここが正念場と言えるだろう
「先程も言ったが…私は成すべき事に全力なだけで、クライアントが誰に変わろうと気にはしませんよ」
シヴァは歩みを止めた
私から5メートル離れた位置から私に対して、屈託の無い笑顔を浮かべた
「いやー、良かった!良かったよ!
私はこれからも博士と良い友人関係を維持出来るようだ!」
やはりシヴァは私の返答次第では、強行に及ぶ覚悟がある様だ
言葉は慎重に選ばねばならない
「そこでだ、新しい世界の現場責任者を配置しなくてはならないと考えていてね
こちら側とあちら側で、信頼出来る者同士で連携する必要があると思うのだよ」
「そうですな、何時の世も世界を管理する人員は必要不可欠ですからな」
危険な交渉ではあったが、私の返事はシヴァの望む答えだったようだ
私はコーヒーを飲み干し、カップをEVEに手渡した
(アレの準備は万全です、マスター)
EVEはギリギリ私にしか聞こえないボリュームでささやいた
「そこでだ、私はこちら側に残り【メタバース】を管理して行こうと思う
そこで博士には内部から【セントラルタワー】で人民を導いて欲しいのだよ」
「………すみませんが…私はこちらに残りたい
私はもうすぐ70だ。研究ばかりで身体をいたわらなかった
医者から余命3年と言われている」
シヴァは突然の余命宣告に驚いていた
私はその話が嘘ではない証に、医者の診断書を提示して彼に見せた
シヴァは少し考えていた
「…ならばこそ!【メタバース】に行くべきではないのかね?そうすれば、博士は死なずに済む
【ラマヌジャンの再来】と言われる頭脳が、一般市民を導く教えになるではないか!」
「私は今までに満足の行く研究結果を出した
私の産まれた価値は十分にあった
後はこの世界で余生を過ごし、人として土に還りたいのだ、分かって欲しい…」
私の言葉を聞き再び考え込むシヴァ
そして再び歩き出した
私の背後に来てシヴァは歩みを止めた
「そうか…ならば、死ね!」
シヴァはパールヴァティーに使った医療器具を私に対して使った
私の意識は急速に失われて行く
私の視界にうっすら映るシヴァは、懐から拳銃を取り出し、私の眉間に押し付けた
「Gute Nacht, mein bester Freund.」(さようなら、私の親友よ)
あれから何時間が過ぎたのか?
いや、何年が過ぎ去ったのか?
私は再び目を覚ました
目の前の大きな鏡に映る自分の姿を見て愕然とした
「ぬぁにぃ!?」
鏡に映る私は10歳になったか?なっていないのか?くらいの美少女だった
「これが、私だと!?」
続く




