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童貞30歳は魔法使いではなく魔法幼女になる  作者: 風早海月
一章 幼女は何をしたいのか
8/8

8 旅の始まり

一日の準備期間を開けて、依頼を受諾してから二日後。

町外れの繋ぎ場に馬車を回送して護衛対象を待つ。


「ねぇリア。この間思ったんだけどね、リアって窮屈そうに話すよね?もっと気楽に話してもいいんじゃない?」

「うーん…じゃあこんな感じでいいか」

「なんか男の子っぽい」


いいえ、男の子じゃなくておっさんなんです、すみません。

三十歳の童貞でごめんなさい。

魔法使いになっちゃってごめんなさい。


コトコトとゆったりした速さで、少し古ぼけた馬車が到着した。


「この度は依頼を受けて頂き感謝する」


御者をしていたおっさんが俺たちに向かって頭を下げる。


「俺はこのリンガレーの領主でリンガレー伯爵家当主のジョニー・ブルリアだ。こんな格好で申し訳ないが、少し込み入った話をしたくてお忍びで来させてもらった」

「は、伯爵様!?」

「これは失礼しました」


俺とメーナは敬礼をとる。


「お忍びだからな。無礼講で頼む。

さて、俺から話したいことはガイシュですら知らないシルヴィアの秘密だ。これを漏洩した場合、二度とこの国…いや、南大陸の土地を踏めないと思っていいぞ」

「そんなこと教えていいのか?」

「ああ。冒険者ギルドの依頼者規約を守るためだ。

まず、このソラムット王国の貴族の子女が何者かに殺害されている事件はガイシュから聞いているはずだ。その犯人はポロセルス王国のとある派閥の者だ」

「は?他国の貴族の派閥が貴族を殺して回ってる訳?戦争したいの?」

「まぁ最後まで話を聞いてくれ。

その派閥の構成員を我が国内で捕え、ポロセルス王国に引き渡した。ポロセルス王国からは既に謝罪と賠償金、そして人質にポロセルス王国の王女殿下をこちらの伯爵家に嫁がせるという話が既についていて、その派閥に属する貴族もほとんどが取り潰しになったところだ。

だが、未だに潜伏している戦闘員がいることが分かっている。その者たちの目的はシルヴィアの誘拐だ」

「どして?」


なぜ伯爵家とはいえシルヴィアだけを目的としているんだ?


「俺の嫁は、25年前の南大陸大戦争での講和時の人質として俺のところにやってきたんだ。シルヴィアを産んだ時に命を落としてしまったがな。

その嫁は、ポロセルス王国の現王の妹君でな…法によると、シルヴィアはポロセルス王国王位継承順位四位なんだ。

奴らはシルヴィアを王位に就かせて、傀儡にしようとしていたんだ」


ジョニーはポロセルス王国の家系図を見せる。


王位継承順位一位は王太子である、現王の息子。

二位に今回人質に送られる王女、現王の娘。

三位に既に歳を召した先々王の弟。

四位が先王の娘である現王の妹の娘、シルヴィア。


既に三位の先々王の弟は床に伏しており、いつ逝ってもおかしくないらしい。


「王太子は法に従順で、王女は頭が良すぎて傀儡に出来ない。というわけで、シルヴィアが狙われたんだ。…まぁシルヴィアなら傀儡に出来ないだろうがな!」


親バカスマイル!


「それにしても、他国に嫁いだ者にも王位継承順位があるんだな」

「そうだな。今回の件で、ポロセルス王国に今回人質に送られる王女の王位継承権を認めない条項を付ける羽目になった。まさかとは俺たちも思ったわ」


メーナが話の大きさに目を白黒させているのを後目に、俺は本題に切り込む。


「それで、俺たちの仕事は?」

「シルヴィアを君たちのパーティーの一員として受け入れて欲しい。木を隠すなら森の中、若い少女を隠すなら少女のグループってな。期間は二ヶ月。王都の冒険者ギルドに六月二日必着だ。もしそれまでにケリがついてなければ約定水晶に追加依頼を出させてもらう。君たちのパーティー名…はまだなかったな。特定番号を教えてくれ」


パーティー特定番号はパーティー設立時に付与される番号で、同じ番号は無い。


「特定番号は…一三八/五〇八だね」


パーティー特定番号の付け方は…

スラッシュの前が統一歴における年数…今年は統一歴一三八年なので一三八。

スラッシュの後ろが世界中の冒険者ギルドで今年登録されたパーティーに順番に付けられる。俺たちのパーティーは今年五百八番目に登録されたパーティーということである。


「わかった。テストでメッセージを送る」


貴族や大店の商人をはじめとする大口の冒険者ギルド依頼人は、依頼人向け約定水晶が存在する。


「メッセージ受信した」

「ではこのパーティーに前金を振り込んでおく。明日までに振り込んでおくので、確認してくれ。さて…シルヴィ!」


ジョニーが乗ってきた馬車から一人の少女が降りてきた。


「お初にお目にかかりますわ、リアさん、メーナさん。リンガレー伯爵家法定推定相続人のシルヴィア・ブルリアですわ。冒険者としてはただのシルヴィですわ」


シルヴィア…いや、シルヴィはカーテシーのように短いスカートを少しだけ摘む。

動きやすそうなチュニックに膝上丈のスカート、リボン留めのニーソ、足下はショートブーツ。その上から軽装の皮鎧を纏っている。

武器らしいものは、その小さなお尻の上に差してあるダガーだけか?


「冒険者としてのジョブは短剣使いで、ランクはDですわ」

「おぉー、パーティー初の近接専門職!」

「…リアちゃん杖で殴ったりとかしてたよね?」

「…専門職じゃないから」


精霊樹の杖は片手装備のロッドだ。殴りつけることも最初から想定されている武器だ。

簡単に言えば、魔法少女がよく持ってる話す棒で殴るのと同じだ。よくあるでしょう?


ちなみに、両手装備のとても長い杖はスタッフ、片手装備で大きいものがロッド、片手装備で指示棒のように物理負荷のかかることが想定されていない細い枝のような杖をワンドと呼ぶ。


「お二人の足を引っ張ってしまうと思いますが、よろしくお願いしますわ」


俺たちのパーティーは期間限定サブメンバーを加えて三人となった。




魔法の馬に馬車を牽かせて、俺とシルヴィは御者台、メーナは後方警戒用の監視席に座って、隣町への高規格街道を往く。


この世界の「街道」はマカダム舗装が土魔法・土魔石によって整備されている。

路床に土の魔石を砕いて撒き、土魔法で圧力をかける。

土の魔石によって作り出した大岩を荒く砕きながら撒き、また圧力をかける。

最後に土の魔石の岩を細かく砕いた物を撒いて、圧力をかけて締める。

ちなみに土の魔法が使える魔法使いは、街道整備や街中の生活道路や建築業などで多額の報酬で重宝されている。


さて、この馬車の最もたる特徴は御者台や監視席を含めて薄く装甲化されていることだ。要人警護向けに追加装備の鉄板を仕込んでいるのだ。もちろんほとんどの部分が取り外し容易で、交換作業や不要時の取り払いもスムーズだ。

カタパルトやバリスタのような攻城戦用の兵器では流石に歯が立たないが、普通の弓矢や中級以下の魔法等の遠距離攻撃位には耐性がある。


「なんで街道には土の魔石が使われてるのに魔物が集まってこないのか…」

「あら、ご存知ないのですか?街道に使用されている魔石は正しく表現すると『使われた』のですわ。魔石が魔物を呼び寄せるのは、未使用の魔石を保管している時であって、使っている時ではないのですわ」

「ほへー」

「それに、各街道は領主貴族たちが整えている領軍が定期的に魔物の掃討をしていますから。各領の領主からすれば、街間の交易が無ければ経済が成り立ちませんわ。まぁ完全に安全とは言いがた…」

「後方敵!接敵まであと三分くらいよ!」


後方の監視席に座っていたメーナがあげた警告の声に、俺は馬を停める。


「敵種は!」

「ワイルドボア四匹!」

「今日は猪鍋だな!エスト クアドラプル ショット!」


四発のショットがワイルドボアを撃ち抜いた。


ちなみに、その日の夜に鍋で食べたワイルドボアの肉は野性味溢れる味だったので、味噌漬けにして貨物置き場で熟成させることにした。


「秩父の味噌豚は最高だぞ」

「チチブ?」

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