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八.あるジャーナリストの記
医者の中に、容体が急変しそうな患者は事前の胸騒ぎで分かるという、特殊な能力を持った人がいるらしい。
あるジャーナリストJは取材で医者を訊ねた折、その話を聞いた。
これから一人、検診に行くので同席しませんか?
深く考えずJは、「ええ、是非」と医者の隣について、病室へと向かった。問題はなく、経過は順調ですと医者は声掛けを患者にして、速やかに病室を出た。Jとしばらく廊下を歩いて、医者は顔色一つも変えず、呟いた。「あの患者、今夜死にますね」
仰天してJは数秒、間が空く。
「何でですか!? 分かるんですか!?」
詰め寄り、Jは返答を求める。
「あの方、横に置いてあった、味が――」
医者は前方を見たままで目は何処も見てはいないように思われる。Jは先ほどの病室と患者を思い出し、ああ、脇の台に置いてあった長い棒のアレ、と思い出した。
「いつもの、めんたい味じゃなかった」
医者はそれ以上に何も言わなかった。いつもの味――いつもは。
未消化なまま、その夜である。言っていた通りに、昼間に立ち会ったその患者は、突如容体が急変、悪化し、帰らぬ人となってしまったようである。
エンド。




