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 そのとき、屋敷の表のほうから叫び声があがりました。

「あ!しまった!月が!」

 結鶴(ゆづる)の声で見上げると、大きな満月が屋敷の真上で燦然と輝いています。

 それが現実のものであるとは、とても信じられませんでした。月から大勢の使者が列をなし、しゃん、しゃん、と鈴の音を響かせて、優雅に、厳かに、地球へ下りてくるのです。誰ひとりとして武装などはしておらず、淡い色の、柔らかそうな衣を纏っています。夢のように美しい光景に、その場に居た誰もが息をすることも忘れ、ただただ見入るばかりでした。

 しかし、松子が驚いたことはそれだけではありません。行進が、ちょうど屋敷の屋根くらいの高さまで来て止まったとき、そのなかに亀吉の姿を見付けたのです。

「どうしてあの人が、あんなところに……?」

 口を突いて出たその疑問は、すぐにかぐや姫の悲鳴にかき消されました。見ると、かぐや姫の身体はフワリと宙に浮き、するすると月へ引き寄せられていきます。

「嫌!嫌ぁ!」

「かぐや!」

 かぐや姫は地上に向かって精一杯に手を伸ばし抵抗しますが、月の引力から逃れることが出来ません。結鶴と翁も懸命に姫の手を掴もうとしますが、姫はぐんぐん昇っていき、とうとう月の使者に捕まってしまいました。

「結鶴!嫌だ!結鶴!」

 必死に結鶴の名を呼びながら、身を乗り出すかぐや姫を、使者は無情に押さえます。

「かぐや!」

 結鶴が姫の名を叫んだ刹那、彼の身体にザワッと波が立ったのを、松子は見ました。そうして次に見たのは、鶴となり、白い羽を広げ、月へ向かって飛んでいく結鶴の姿でした。

「ええい、何をしている!姫を戻せ!取り戻すのだ!」

 そう叫びながら屋敷の表へ駆け出した翁の背を、慌てて松子も追いかけます。ところが表の有様を見て、ふたりは言葉を失いました。なんとあれだけ大勢いた護衛が、ひとり残らずその場で眠り込んでいたのです。

「松子!」

 不意に頭上から降って来た声に顔を上げると、亀吉がこちらを見下ろしています。松子はわけがわからなくなりました。これは本当に夢なのではないかと思ったとき、今度は大地を揺るがすような、厳めしい声が響き渡りました。

「娘は返してもらう」

 その直後、松子の目の前に鶴が落ちてきました。鶴の身体は勢いよく、地面に叩き付けられます。そして、ぼんやりと光ったかと思うと、鶴は結鶴の姿になりました。

「結鶴!」

 駆け寄った結鶴の身体はひどい傷を負っています。

「結鶴!大丈夫?」

 呼びかけると、結鶴は苦しげに呻きながらも「はい」と返事をしました。

「その男は一国の姫をさらおうとしたのだ。当然の報いだ」

「だからって!いくらお父様でも酷すぎます!」

 声はかぐや姫の実の父、月の王のものでしょう。娘の泣き叫ぶ声も意に介さぬ様子で、王は淡々と続けました。

「松子といったか。お前の夫のおかげで娘の居場所がわかった。お前にも礼を言おう」

「どういうこと……?」

「僕が地球へ下りた晩、月と地球が繋がる場所に、誤って落ちてしまったのでしょう……」

 ゆっくりと体を起こしながら、結鶴が悔しそうに答えました。

「旦那さんまで僕が巻き込んでいたんですね……本当にすみません」

 弱々しく謝る結鶴に何と言えば良いのか、もう松子にはわかりませんでした。周りには眠る護衛団、戦意を失いうなだれる翁、頭上には帰りを待ち続けた夫と、捕えられたかぐや姫、そして、そのすべての上に立つ月の王が、その圧倒的な力を誇示するように輝いているのでした。

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