8."誓皆の守護者"クエン・イージス
父さんは、王家の近衛騎士団長だった。
「…お前は、守るんだ。」
あのときの父さんは言った。
「自分が正しいと思ったものを。それが、王家でなくてもいい…」
「…クエン。」
父さんは静かに言った。
父さんは教育熱心で、主創魔法を数多く俺に教えてくれた。
「…守るべきものを、大切にするんだ。」
さっきまでレインたちと一緒にいたはずだが…
急に聞き覚えのある音を聞いたと思ったら、
知らない場所に飛ばされていた。
辺りは森林だった。
木々は黒く染まっていて、もはや木とも呼べないようなものだった。
そのとき、木の影からゴブリンやらオークやらがぞろぞろと出てきた…
だが、様子が変だった。
《…こいつら、人間の服を着ている!?》
それどころか、冒険者の装備に似ている…
普通魔物は、原始的な毛皮などでできている服を着ている…
なのに、こいつら…人間の服を着ている。
普通の魔物ではないな…
《だが、やるしかないな。》
俺は剣を抜いた。
「…来い!」
オークが振り下ろす重い一撃を剣で防ぐ。
そのとき、後ろから一斉にゴブリンが飛びかかってきた…
「重騎士魔法、盾牌!」
俺の周りにシールドが展開され、
それによりゴブリン共が吹き飛んだ。
重騎士魔法は重騎士の基本魔法…
こんなもので吹き飛ぶとは…
《そもそもなぜ魔王領に魔族でなく魔物がいる…?》
魔物を全部倒した。
そのとき、後ろから異様に魔力圧の高い奴が来た…
何度か対峙した魔族共とは違う感じだ。
《…暴者か!》
そう思って俺が後ろを向いたら、そこには見覚えのある奴が立っていた…
「重騎士系…私と同じか…」
それは、あの時、
魔王軍に連れて行かれてから何一つ変わっていない"あいつ"だった…
「…父さん?」
思わず声が漏れた。
角が生え、肌の色も変わっていた。
「何を言っている?私はガイエン・イージス…」
だが、父さんだ…
「ティミルヌ様の盾だ。」
父さんはそう言った。
《…死んでなかったのか?》
そもそも、記憶がない…?
父さんは優しく、他人のために全力を出せる人だった…
誰かの、何かを守るために…
俺が茫然としていると、
「驚いたか?この魔物共は元人間だ…」
何だと?人間を、魔物に?何のために…
疑問に思うことも多くあるが、考えても仕方がない…
そう思い、俺は構えた。
「…父さん、いやガイエン!」
俺は剣を突き出し、その名を叫んだ。
「貴様は、俺が殺す…!」
こいつはもう、俺の知る父さんではない。
だから、俺が殺す…
そして、互いに魔法を放つ…
「守護魔法!」
「守護魔法…」
さらに声が重なる…
『盾戦撃…!』
瞬間、
盾が狙いへ向けて飛び出す…
そして、それぞれの魔力盾がぶつかり合う。
「守護魔法、盾爆撃!」
俺の追撃がガイエンに当たる。
《よし、このまま押せば…!》
そう思っていたが、
「守護魔法、盾降撃…」
空から無数の盾が降ってくる…
《…しまった!》
だが、特に傷がつくこともなかった。
それはガイエンもだ。
「重騎士系の魔法は防御専用…」
ガイエンが言った。
「だから、攻撃力は皆無と…」
俺も続けて言った。
「このままでは泥試合だな…」
ガイエンが嘲笑した。
「それはどうだろうな…!」
俺はそれを否定して、魔法名を言った。
「守護魔法、侵害盾!」
魔力で毒の盾を造り敵に放ち、
敵の攻撃力を下げる…
主創魔法で、
俺が"絶壁の守護者"と呼ばれるに至った魔法だ。
これで少しはましになりそうだったが、
「守護魔法、侵害盾…」
毒で毒を相殺か…
そもそもこれは父さんから教えられた魔法…
ガイエンが使えないはずもない。
「やっぱ泥試合だな…」
俺が面倒そうに言う。
「なぜ貴様は私の魔法を知っている?」
ガイエンが聞いてきた。
「自分で考えろ!」
俺はそう答え、次の攻撃を仕掛ける。
「守護魔法、盾重力撃!」
これは俺の主創魔法…
魔力盾の範囲内の重力を増強させ、敵を潰す。
ガイエンは知らないから効くはずだ…
だが、
「守護魔法、絶対防壁…」
ガイエンは、それすらも防いだ。
絶対防壁は、あらゆる攻撃を拒絶する魔法…
こちらの攻撃は、絶対に効かない…
だが、それを教えたのもあいつ。
そんな魔法の"穴"くらい、見つけてても当然だ!
「守護魔法!陣内創盾!」
瞬間、
ガイエンの絶対防壁の中に、魔力盾が生成される…
そして、その盾がガイエンを貫く。
絶対防壁は、外からも内からも、決して破ることはできない…
だが、破れないだけで、魔力を阻害する訳ではない。
陣内創盾は絶対防壁と似た魔法を使う敵が現れたときのために考えた魔法だったが…
まさか、絶対防壁を教えた本人に使うことになるとは…
《皮肉だな…》
ガイエンの魔力盾が壊れ、
ガイエンはその場に倒れ込んだ。
俺はそのガイエンに近づいた…
だが、俺は何も言えなかった。
言葉にすれば、壊れてしまいそうだ。
俺は実の父を今、殺そうとしている。
そのとき、ガイエンが口を開いた…
「…クエン。」
ガイエンは静かに俺の名前を呼んだ。
「なぜだ!記憶は…ないはずだろ…!」
俺はそう言った。
「…実の息子を忘れるほど、私は落ちぶれてはいない。」
父さんは当たり前のようにそう言った。
「父さん、なんでこうなった…?」
俺は聞いた。
「…少し思い出したよ。」
「…私は人間魔族化実験の最初の成功被験体。」
父さんが…魔族化された人間?
やはり魔王は何のために…
俺がそう考えていると、父さんが話を逸らした。
「…守るべきものは、見つかったか?」
父さんが聞いてきた。
「もちろん。大切な約束も仲間も、見つけたさ…」
俺は静かに、だが堂々と答えた。
少し間を空け、父さんが言った。
「…そうか。」
父さんは静かに言った。
「…なら、大切にするんだ。誓いと、皆を。」
また少し間を空け、父さんは言った。
「…"誓皆の守護者"クエン・イージス。」
父さんは目を細め、小さく微笑んだ。
「…私は、お前を誇りに思うぞ。」
そう言った父さんは、静かに息を引き取った…
「…俺も、父さんの勇姿を、誇りに思います。」
俺はそう言って歩き出した。
皆を守るために。
父さんをこんな姿にした。
魔王を殺すために。
守るために、殺すんだ。
クエンが、魔王城に向かって進んでいると、
また見覚えのある者たちがいた。
「よぉ、クエン!お前無傷かよ…!」
ザウンがいつものようにうるさく言った。
「そういうザウンは、傷のわりには元気そうだな。」
クエンは呆れたようにそう言った。
「まあ、戦えるならいいじゃない。」
ロアンがいつものようにまとめていた。
「そんじゃ、行くか!」
ザウンの呼びかけに2人が答えた。
そして、3人で再び歩みを進めた。
僕のいる魔王城[アビサルフォート]へ向けて…




