12.日常に紛れる不穏
魔法について詳しく!
どんな魔法にも、メリットとデメリットがある。
その魔法のメリットが大きければ大きいほど、
デメリットも同時に大きくなる。
例)
記憶譲渡は未完成ながら、
メリット:記憶の完全譲渡
デメリット:肉体記憶の譲渡不可、発動条件あり
のような感じだ。
統括室の扉が急に開いた。
「ギルマス!落ち着いてください!」
ギルマスを止めたその人は、いつもの受付さんだった。
「止めるな!俺は今からこいつらに指導を…」
ギルマスが興奮気味に受付さんを振り払った。
空気が一気に重くなる。
ギルマスはゆっくりとこっちに近づいてくる。
魔王と大差ない威圧感を放ちながら…
「シオン…いや魔王、いやお前ら!覚悟はいいか?」
ギルマスが心無者を含めて僕たちに向かって言った。
僕たちは魔王を匿うという冒険者ならしてはいけないことをした。
こうなることも考えていたさ…
そのとき、
「ギルマス!」
そんなギルマスを受付さんが止めた。
「今、その人たち殺せば世界終わりますよ?」
「魔王も一緒に殺すから構わん…」
受付さんの言葉を、ギルマスは真っ向から否定した。
「魔王は意識を移しているんですよね?もしそれが何度もできるのだとしたら…ギルマス。どうなるのか分かりますよね?」
受付さんがギルマス以上の威圧感と視線で詰め寄った。
ギルマスが一瞬間を置いて言った。
「はあぁ…お前らは昔っから無茶しやがって。」
ギルマスが剣を収める。
それと同時に、僕たちは安堵した。
「そこの痩せたおっさん。ギルマスとして、この魔王に自己紹介くらいしたらどうーー」
そんな僕たちの思いを無視して、魔王は傲慢な態度で聞こうとした。
「ーーちょっと、やめてよ!」
それを無理矢理シオンが止めた。
「はあぁ…まるでノイフスに1人増えたみたいだ…俺はこの街の冒険者ギルドのギルドマスターをしているレガス・オーソリティだ。」
ギルマスが面倒くさそうに自己紹介をした。
「ーー僕は魔王ティミルヌ・ニアルだ。よろしく。」
魔王も心無者から自己紹介をした。
僕たちは、1つの街のギルドマスターと魔族の王が自己紹介をし合うという。意味のわからない光景を見せられた。
「とりあえず今日は帰れ…門番には俺から伝えておく…」
ギルマスはそう言い、僕たちを家に帰した。
7年前まで、5人で歩いていた道を、僕たちは再びその道を歩きだす…
と言っても、シオンは本物ではないし、魔王もいるけど…
コツコツと響く石畳の音、立ち並ぶ店、行き交う人々、いつもと同じもののはずなのに、なぜか懐かしく感じ、胸の奥が少しだけ緩む。
「久しぶりだなぁ。」
シオンが周りを観ながら言った。
シオンにとっては、7年ぶりの光景…
懐かしいだけのものではない。
いつもと同じ道で帰っていると、当然あの店の前も通るわけだ。
「兄ちゃんたち、帰ってたのか!」
その店の店主が声をかけてきた。
いつもの肉屋だ…
まずい…今見られるのはまずい…!
「ところで、そのローブを着てんのは誰だ?」
おっちゃんは大きな声で聞いた。
昔から、おっちゃんの大きな声は、必然的に人の目を集める。
その声に、行き交う人たちがこちらに振り向いた。
みんな、フードの奥を覗き込むようにシオンを見つめていた…
「お、おっちゃん。裏通してくれぇ!」
ザウンが噛みそうになりながらそう言い、
僕たちは、「わかっ、た…?」と答えたおっちゃんと、店の奥に入った…
「ほ、本当に、嬢ちゃんなのか!?」
おっちゃんは驚きながら言った。
「すごく驚いてるね…」
「ああ、驚いても仕方がない…」
ロアンとクエンが呟いた。
「ちくしょう…レガスの野郎、また1人で抱えようとしてやがったな…今度会ったらぶん殴ってやる…!」
おっちゃんも1人で呟いていた。
前に聞いた話だと、
この肉屋の店主、ウキン・エッコロクさんは、現ギルマスであるレガスさんと精霊魔法使いとして、昔パーティを組んでいて、"29精霊のウキン"と呼ばれていたんだとか…
「とにかく、事情はわかった…それなら俺も協力するぞ!」
おっちゃんは〈絶対にバラさない〉ような雰囲気で言ったが、
さっきはおっちゃんのせいで危うくバレるとこだったことを、ノイフス全員が思い出した。
「よ、よろしくね…」
僕は不安そうに返した。
そうして、僕たちは店を出て、再び家に向かった…
肉屋以外でのアクシデントは特になく、家に帰り着くことができた。
家を空けて1日しか経っていないはずなのに、その扉はまるで、何年も家を空けていたかのように重く感じた。
そして扉は、鈍い音を立てながら開いた。
扉を開いた先に広がっていた暗い部屋は、外の日光を受けて、明かりを取り戻した。
久しぶりのシオンを部屋まで連れて行くと、シオンは驚いた様子だった。
「なんか…綺麗すぎない!?」
シオンは呆気に取られていた。
ホコリ一つ落ちていないシオンの部屋は、まるで新居のように整然としていた。
シオンに帰されてから7年間、一度もシオンの部屋の掃除を欠かしたことはない。
私物の配置まで変わっていない…
「夕飯何食べたい?」
僕がみんなに聞いた。
「話逸らさないで!?」
シオンはまだ驚いているようだった。
「肉!肉食いてぇ!」
ザウンはいつもの大きな声で答えた。
「もう、いいや…」
シオンは、諦めた。
そして、僕は夕飯の支度を始めた。
ザウンが肉を食べたいと言っていたので、今日はハンバーグを作ることにした。
いくら勇者パーティといえど、冒険者の収入なんてたかが知れている…
というわけで、肉もいれるが、豆腐でかさ増ししようと思う。
勇者パーティでありながら節約なんてしている現実に、自分で考えておきながら虚しくなってきた…
僕は冷蔵庫の扉を開け、この間討伐した魔猪の肉と割引されていた木綿豆腐を取り出した。
魔猪の肉は脂身が多いため、ハンバーグにはもってこいだ。
「矢与魔法、創矢。」
創り出した矢は、魔猪の肉を凄まじい勢いで切り裂く…
肉塊は、繊維を裂くようにして粗く砕け、肉汁を保ちながら、その姿をミンチと化した。
少し大きめの冷やしたボウルにミンチと豆腐を5:5の割合でいれる。
かなり攻めてはいるが、ザウンならきっと気づかないと信じて、この比率でいく!
さらに魔鳥の卵と多めのパン粉、その他調味料を入れ、脂を溶かさぬよう、素早く的確に揉み込む…
そして、まとまった肉を成形しようとしたとき、シオンが来た。
「どんな感じ?」
シオンが覗き込むように言った。
「これからタネを作るよ。」
僕はボウルの中を見ながら答えた。
「私もやる!」
シオンはとうとう僕の隣に来て言った。
「大丈夫?7年ぶりでしょ?」
僕は心配になり、シオンに聞いた。
「大丈夫!」
シオンは自信満々に答え、タネを作り始めた…
「…できました!」
シオンは、これからハンバーグになるとは思えないほど、生姜のように歪な形になってしまったタネを見せながらそう言った。
「いや、無理があるでしょ!?」
流石に僕もここまでだとは思わず、驚いていた。
ここまでひどい出来で、よく誤魔化せると思ったな…
「あれ、何回もやったことあったんだけどなあ…」
シオンは不思議そうに言った。
ハンバーグのタネづくりなんて、昔からよくやっていたから"体"が覚えているはず…
だけど、今のシオンの体は心無者、肉体記憶のほとんどはないのかもしれない…
とにかく、今は何を考えても無駄だろう。
僕は、ぐちゃぐちゃになってしまったタネをどうにか整え、焼きに入った。
「やっぱ肉はうめぇな!」
ザウンが本気の表情でそう言った。
「やっぱりお肉だね!」
シオンも疑いもしないような目で言った。
他の全員は、気づいている。豆腐で誤魔化したこと…
こねすぎて、少しパサついていることに…
こんな日常がこれからも続けばいいのに、そんな小さな願いすら叶えられない。
叶えることができない。
だけど、絶対に叶えてみせる。
シオンを戻して、魔王を倒して、日常を取り戻す。
僕たちはこれから、また準備が始まる…
魔王との3回目の戦いのためのーー




