11.ノイフスの帰還
第1章スタート!
よろしくお願いします!!
〈転移魔法について詳しく〉
(読まなくても支障はない)
座標は、王城の中心地を基準として、km単位で定められている。
高さは基本含まれず、その地点の一番高い地面に転移する。そのため座標は(東西,北南)で指定の範囲を決める。
ただし、範囲内での誤差が生じることがよくある。
だからこそ、この魔法を正確に扱うには、普通長い時間をかけて練習する必要がある。
今日、僕たちは魔王を倒し、
パーティの誓い、シオンとの約束を果たすことができた。
…はずだった。
討伐クエストも、約束もーーーーーーー
…誓いだって、果たせなかった。
それでも僕たちは、街へ戻る…
もしかしたら、魔王を倒さずにいることが、罪に問われるかもしれない…
だけど、僕たちが諦めることはない。
"魔力でできた殻"でも、シオンの記憶の全てを持つのは確かだ。
それが本物であることは、確かだから…
魔王を倒しそこねた僕たちは、一度街に戻ることにした。
森の中を進み、街へと戻っていると、シオンが珍しく不安そうな表情を浮かべていた。
7年間も行方不明だったんだ。
生きていると知ったら、みんなびっくりするはずだろう。
まあ別に生きているわけではないのだけど…
「…せめて、角くらいは隠そうか?」
僕がそう言うと、帰る途中で町に寄ることにした。
近くの町に到着し、僕は露店で服を探した。
あまり大人数で行っても不思議に思われるだろうし、何よりシオンを1人にはできないから、僕だけで行くことにした。
1人で露店を見て回っていると、
「あんた、"箙執の勇者"さんか?」
露店の店主が話しかけてきた。
「Aランク冒険者が、何でこんな町に?」
「ちょっと体を隠せるローブなんかを探していて…」
僕は店主に誤魔化すように返した。
「いったい何のために…ああ、それならうちのはどうだ。結構品揃えいいぞ!」
少し疑ってはいたが、店主は服をいろいろ見せてきた。
その中には、シオンよりも一周り大きめのローブがあった。フードも付いていて、角を隠すにはちょうど良さそうだった。
「じゃあ、これにしようかな。」
そう言って、僕はそのローブを買った。
「毎度あり!」
店主が元気に返した。
そして、僕は町を後にした。
「どうだった?」
シオンが静かに聞いた。
「なんとか買えたよ。」
僕もそれに静かに返す。
そして、買ったローブをシオンに渡した。
やっぱり大きい気もしたけど、角も隠せてるから大丈夫だと思い、僕たちは再び街に向かって歩き出した。
街の目の前まで来て、僕たちは門の近くの木に隠れていた。
「街に着いたのはいいものの…どうやって入ろう…」
ロアンが言った。
僕たちは魔王を完全に倒した訳でもないし、堂々とはいることはできない。
何より、シオンがいることの説明だってできない…
「どうしたものか…」
クエンも悩んでいた。
僕も悩んでしまって言葉が出ない。
「見ろシオン!7年前よりも街は生き生きしているぞ!」
「ホントだ!みんな元気そうだね!」
悩んでいる横でバカたちの会話が聞こえてきた。
確かに、門から漏れて聞こえてくる街の人々の声は、7年前よりも随分と活気が良くなっていた。
「バカ、静かにしろ!」
すかさず、クエンが制止する。
門番の人が少しこっちを見た気がしたが、あまり気にはしていない様子で安心した。
「すまんすまん!でも、シオンの転移魔法で帰って来てすぐは、結構静かだったのにな。」
ザウンが小さな声で謝った。
ん?シオンの転移魔法?
「シオン!転移魔法は使える?」
僕は少し興奮気味にシオンに聞いた。
「うん…使えるよ…?」
シオンが答えた。
僕の大きな声に少し驚いているようだった。
「あまり、良い案ではなさそうだけど…」
「あ、あぁ…」
ロアンとクエンは気づいたようで、あまり乗り気ではなかった。
その横で、ハテナを浮かべた2人がいたけど、
僕は気にせず言った。
「シオン、転移魔法でギルドの近くまで飛ばせる?」
「うん。場所は変わってないよね?」
シオンがそう言うと同時に魔法を使おうとした。
「本当にやるの!?」
ロアンが驚きながら言った。
「おいレイン、バレたらどうするんだ…」
クエンも呆れて言った。
「はは!楽しそうじゃねぇか!」
ザウンは相変わらず危機感がなかった。
「転移魔法、転移…」
シオンが魔法名を口にする。
シオンの転移魔法は的確だ。ズレたことはほとんどない。
だけど、少しでもズレれば、ただ事ではすまない…
「座標(8406,584)!」
シオンが座標を言い終えると、一瞬視界が歪んだ。
次に気がつくと、なぜか建物の屋根の上に転移していた。
足元の瓦がわずかに軋む。
「おぉ…どこだ、ここ?」
クエンが体勢を戻しながら言った。
「多分、ギルドの上…」
ロアンが四つん這いになりながら言った。
「シオンがミスするの珍しいね。」
僕はなんとか体勢をとってそう言った。
「あれ?なんでだろーー」
「当たり前だ。これはただの殻であって、シオン本体ではないからね。」
シオンが喋ろうとしたとき、同じ口から違う声が聞こえた。
その声はシオンのものと酷似していた…
だけど、その口調は確実に、魔王と同じものだ。
「ティミルヌ・ニアル…!」
ザウンがそう言って、剣を構えようとした。
「ーーごめん!無視してたんだけど、出てきちゃった。」
そう言った声は、シオンに戻っていた。
どうやら、心無者の中の魔王の意識は、ずっとシオンに話しかけていたようで、意識が消えている訳ではないらしい。
「そもそも記憶なんかが意識に勝つのもおかしな話だけーー」
「黙ってて…」
魔王の言葉をシオンが遮る。
「…何したの?」
僕が恐る恐る聞いた。
「大きな魔法が放てる量の魔力を叩き込んでやったわ!」
シオンの声は怒りで溢れていた。
「というか、そろそろ降りようよ。このままだといつかバレるよぉ…」
四つん這いのロアンの言葉に全員がハッとし、僕たちはバレないようにこっそり地面に降りた。
次に僕たちは、ギルドの裏の暗い路地でどうやってギルドに入るかを相談していた。
「なんで正面からじゃいけねぇんだ?」
ザウンが何も考えていないような声で聞いた。
「…どう考えても目立つだろ。」
クエンが呆れた声で答えた。
再び、どうやって中に入るかについて僕たちが悩んでいると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「お前ら…何やってんだ?」
そう言って、ギルドの裏口から出てきたのは、ギルドマスターだった。
「えっとぉ、魔王倒してぇ、帰ってきてぇ…」
ロアンがなんとか誤魔化そうとしたけど、ギルドマスターの目は、全身をローブで隠したシオンのことしか見ていなかった。
「シオンなのか…?」
ギルドマスターは、フードから漏れた僅かな髪の毛で、シオンだと思ったようだ。
「お、お久しぶりです。ギルマス…」
シオンがもうダメだと思ったのか、声を出した。
「はあぁ、いいから中に入れ。」
ギルマスは考えるのを止め、僕たちを裏口から中に入れた。
そのまま僕たちは、半ば強引に統括室に連れて行かれた。
ギルマスは、ローテーブルを挟んで僕たちと椅子にドシッと座り、呆れた声で聞いてきた。
「で、今回は何したんだ?俺は少しカッコつけて送り出したつもりなのだが?」
突如発せられる長年マスターを務めている者の声に、僕たちは怖気づき、顔面蒼白で俯いていた。
「えっと、魔王倒してよぉ…」
ザウンが弁明を始めた。
「それで、シオンがいてぇ…」
ロアンも続けて言った。
「そのシオンが本物の肉体じゃなくて…」
クエンも2人に続けて言った。
《これ僕も言わなきゃだよね…?》
僕はそう思い、諦めて弁明した。
「倒したはずの魔王が乗り移ったと言いますか…」
僕の声は情けないほどに裏返っていた。
「で、その魔王は今どこにいる?まさかそのままなどとは…」
ギルマスが言い切る前に、僕たちは俯きながら一斉にシオンを指差した。
それと同時に、
「魔王ティミルヌ・ニアルとは僕のことだよ。」
心無者の中の魔王が喋りだした。
このタイミング…こいつわかってやってるだろう…
その瞬間、統括室の空気が張り詰める。
「ほう…お前らは死にたいようだな…」
そう言って、ギルマスは椅子の後ろから剣を取り出した。
「冒険者の分際で魔王を匿うとは言い度胸ではないか…」
ギルマスがそう言いながら立ち上がり、剣を鞘から抜いた。
そのとき、統括室の扉が急に開いた。
「ギルマス!落ち着いてください!」
ギルマスを止めたその人は、いつもの受付さんだった。
「止めるな!俺は今からこいつらに指導を…」
ギルマスが興奮気味に受付さんを振り払った。
空気が一気に重くなる。
ギルマスはゆっくりとこっちに近づいてくる。
魔王と大差ない威圧感を放ちながら…
これからシオンがどうなるのか…
僕たちがどうなるのか…
この状況をどうするのか…
決めるのは、ギルドマスターだ。




